第41話 二回目
「とまぁ。話しがあっちに行ったりこっちに行ったりはいつものことなんだけど」
僕は仕切り直しにコホンと咳払いを混ぜて再開した。
「とりあえず、僕たちは非常に脆弱なパーティ編成をしていると思うんだよ」
「何言ってんのよ。シュン、あんたの目は節穴なのかな?」
「はい、ミレイユ。黙って。今、真面目に話してるから!」
「ぐっ・・・何よ。シュンの癖に・・・偉そうに・・・」
「まず、僕は一応肉体年齢が一番幼くて、経験値もない。で、次、ミレイユ。君の花魔法は強力なんだけど」
フフンとふんぞり返るペットボトルサイズの妖精、ミレイユ。
「・・・。花魔法は強力なのに、使い手の君が酔っ払いでポンコツすぎる。時と場所をわきまえて飲んで欲しい」
「・・・・いいじゃん。ケチ」
「ケチじゃない!死ぬぞ!ガブッて噛まれて食われて死ぬぞ!」
ビシっと音がしそうなほど人差し指を向けてミレイユに力説する。
しおらしい顔からは面倒くさいから早く済ませようとする意識をビンビンに感じる。
なぜなら僕も同じ側の人間だからわかる。
「最後にテオドラ。一緒に来てくれるのはありがたいんだけど。突然、寝ちゃうのはマジでヤバいよ。医者にかかるべきだと僕は思う」
「ごめんね、シュンくん。心配もしてくれてありがとう。少し前にも医者さんからは原因不明だって言われてるし、どうしようもないかなって」
「へぇ…テオドラって、もしかするとだけど、アタシと同じで呪いにかかってる?」
「ううん、呪いの方も調べてもらったけど違うみたい。本当に何が原因かわからないんだよね」
「ナルコレプシーの可能性が高いとは思うんだけど」
「なに?ナルコレプシーって?」
「ざっくり言えば、眠りの病気ってやつだよ。テオドラの状況みてたらそんな気がするんだけどね。旅はいいからラサの村に帰った方がいいと僕は思うんだけど」
「ううん、ダメ。私はシュンくんを守る必要があるから帰らないよ」
「あのさ。テオドラってやっぱりシュンの事、好きでしょ?」
ミレイユの目がキラリと光るのを感じた。
「好きというか、私はシュンくんが生まれたときからお姉さんだからね。家族みたいな感じかな?」
テオドラは、色白な顔を手をブンブン振りながら否定する。
「いや、テオドラはお隣さんでしょうよ?」
「ちょっと、シュンは黙ってて。アタシさ、種族は違うけどシュンとは夫婦になれると思ってる」
「え?この前は友達って言ってなかった?」
「だからさ、シュンはマジで黙ってて!テオドラと話してんじゃん?」
「はい、すみませんね」
仕方なくテーブルのグラスに手を伸ばす。
柑橘系の酸味と苦みがスッと口の中に広がりさっぱりする。
「ごめんね、話しが途切れたわね。アタシさ、シュンとの出会いはムチャクチャだったけど、アタシの呪いとか、召喚契約だとかさ、シュンは真剣に考えてくれてるんだよね。アタシはシュンと夫婦になるつもり満々なんだけどね?テオドラがシュンのこと好きならライバルだけど?違うならお姉さんでもなんでもいいんだけど?どうなの?」
「・・・。シュンくんが生まれたときから私はお姉さんだし、シュンくんは赤ちゃんだし・・・」
「わかったわ、テオドラ。あなたはお姉さんなのね?じゃあ、アタシがシュンのこと好きって気持ちは踏みにじらないでね?」
「・・・。うん」
えー。なんか空気が重い方に向かってるし、ミレイユも冗談が過ぎるでしょ。
「はいはい。じゃあさ。いったんその話は横に置いといて!これからのことなんだけど」
はいはいって軽すぎでしょ?とミレイユから不満の声があがったけど、そこから僕は、このカマの村からヴァリオニアに向かう道中で全滅しないように、禁酒と仮眠の体制を根気よく説明した。
・
・・
・・・
カマの村からの実質2度目の出発。
白馬のスーの背中に揺られるテオドラ。
ミレイユは禁酒のおかげですこぶる元気。
そしてテオドラと女子トークを繰り広げている。
濃い青色の空に、澄んだ空気。
白馬のスーの手綱を引きながらのんびりと街道を西へ、西へと進む。
前回、黒い犬型の魔物ドゥーグに遭遇した場所まであと少し。
「ミレイユ、テオドラ・・・」
「ん」「・・・うん」
僕たちパーティの中に緊張感が高まっていく。
記憶ではあるもののドゥーグに噛まれた腕が痛む気がする。
「5匹来る!後ろの方!」
いつもよりもこわばった声でテオドラが振り返る、瞬間。
「みんな!手伝って!【カイドウ】」
花魔法の【カイドウ】で5匹のドゥーグのうち、意識を刈りとられた3匹はそのまま昏睡状態になった。
魔法に気が付いた2匹は急停止し牙をむく。
その犬歯の隙間からは黄色い感じの粘性の高い唾液が垂れている。
「マジか!ミレイユ!2匹漏れてる!」
「仕方ないでしょ!切り花だけでここまでできたんだから感謝しなさいよ!」
そう。ミレイユの使う花魔法は、花が咲いていないと発動できない制約がある。
その代わり花畑で発動しようものならその力は脅威でしかない。
僕はナイフを正眼に持ちドゥーグの前に立ち塞がる。
白馬のスーと、スーに乗った小柄な女の子と最弱の妖精。
全滅はもちろん、僕はもう死にたくない。
細く、息を吐く。
心臓がバクバクなるのを止められない。
緊張感が張り詰める中、じりじりと僕たちに迫ってくるドゥーグ。
ドゥーグの間合いに入った瞬間、とびかかってきた。
こちらの世界の父が作ったナイフは少し長めに作られている。
その分だけ重量があるもののほんの少しだけリーチがあるのは心強かった。
連携して僕を狙ってくるドゥーグの一方、首を狙ってナイフを振り下ろす。
スっという感じで、ナイフが肉を切り分けながら首に吸い込まれていく。
刃先が貫通するかどうかぐらいでナイフを引き抜くと勢いよく真っ黒な血が噴き出した。
大丈夫。
矢野峻の意識が覚醒するまえ、シュン・ボネアルは毎日木剣を振っていた。
幼い頃から体はきちんと鍛錬されてきた。
ナイフを引き抜く動作の運きをそのまま活かして、とびかかってくる2匹目の眼窩にナイフの切っ先が飲み込まれていく。
ドゥーグの残った眼から生命力が急速に奪われていく。
「シュン!残りを!」
「わかった!」
ほっとするのもほどほどに、ミレイユから指示が飛ぶ。
切り花で発動させた花魔法は、範囲も効果も、持続時間も短い。
残ったドゥーグ3体の首にナイフを突き立て絶命させていく。
ほんの数分の対峙で、精神力がゴリゴリ削られて疲労困憊だった。
それでも僕は立ち上がり、白馬のスーの手綱を握り、馬上のテオドラに声をかける。
「テオドラ、大丈夫?怖くなかった?」
スーの背中で、テオドラは小さな体をさらに小さく丸めるようにしていた。
顔は血の気が引いて真っ白な顔、冷えて震える手が僕の顔に伸ばしてくる。
「シュンくん・・・、ごめんね・・・」
「ああ、大丈夫だよ」
「ミレイユ、ありがとう!初戦は突破だね。このまま西に向かって行こう!」
「だね!なんかさ!こんなときほど成長できたらいいなって思うよね!」
テオドラから目を逸らしミレイユに声をかけると元気な声が返ってきた。




