第40話 月と太陽と王子様の話し
「じゃあ、第ニ回、我々はどこへ行くのか会議~」
宿屋の主人が厨房にたって朝食を作っている。
ニコニコした笑顔でパチパチと拍手をしてくれるテオドラ。
「ねぇ、その会議、第一回ってあった?」
ミレイユは湯気ののぼるベーコンエッグに目を輝かせている。
「そうだね。信じられないと思うし、嘘くさいとは思うけど」
僕は前置きをしてから、今日が二度目であり一度目は全滅し、女神カテリアの温情で今があることを語り始めた。
「でもカテリアでしょ?嘘と欺瞞と哄笑を代表する月の女神よ?」
「なにそれ。月のイメージ悪くない?」
「シュンくん。月の女神様のイメージは太陽の女神様と比べてかなり悪いよ」
「え?そうなの?なんでまた」
「うんとね。月と太陽と王子様のお伽話は覚えてる?」
「テオドラが読んでくれてた?」
「うん。そのお話し。子供向けのお伽話らしいけど、神話をベースにしてるんだよ」
人差し指を下唇にあてながら、思い出すようにテオドラは語る。
・・・
・・
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月と太陽と王子様の話し。
世界には、二人の女神様がいました。
姉の月の女神様と妹の太陽の女神様。
仲の良い姉妹の女神様でした。
あるとき、太陽の女神様は一人の人族の男の子に恋をしました。
太陽の女神様と同じく金色の髪、金色の目をしていました。
太陽の女神様が大好きな花のように全身で喜びを表現できる男の子でした。
お姉様、ご覧になって。
あの人族の子はいつの間にか読み書きができるようになりました。
そう。読み書きができるのね。
お姉様、ご覧になって。
あの人族の子はいつの間にか剣を振るっていますよ。
そう。剣を振るっているのね。
お姉様、ご覧になって。
あの人族の子はいつの間にか沢山の人族の先頭に立っていますよ。
そう。皆の先頭にいるのね。
ねぇ、お姉様。
ワタクシ、彼とお話ししたいと思います。
そう。お話ししたいのね。
えぇ、お姉様。
ワタクシ、彼とお話ししてきます。
そう。いってらっしゃい。
月の女神様に見送られて、太陽の女神様は恋した人族の子の前に姿を現しました。
あぁ、可愛い人族の子よ。
太陽の女神様は、人族の子に声をかけました。
王様の謁見の間に突如として現れた太陽の女神様に、人族の王様、大臣、兵士、そして太陽の女神様が恋する王子様はびっくり驚きました。
あるものは女神様だと、あるものは魔族だと、あるものは幻覚だと騒ぎ始めました。
それもそのはず、太陽の女神様は美の女神様でもあるため、その美貌は見たものの心を一瞬で奪い去るのです。
そこの小さな人族の子よ。
ワタクシはあなたと話しをしたくてここにきました。
フワリと空中から降りてきた太陽の女神様。
真っ白な爪先が、真っ赤なビロードの絨毯に埋もれていきます。
ただそれだけの動きで、謁見の間にいるすべての人達の心を奪ってしまいました。
人族の子は王子様で、最初すごく驚いた顔をしていましたが、咲き誇るような笑顔で、心地よい声で、ぜひお願いしますお姫様!と太陽の女神様に応えました。
太陽の女神様は王子様とたくさん、たくさん、お話しをしました。
王子様は更に成長し、王様の跡継ぎとしてお姫様を迎える必要がありました。
太陽の女神様は王子様の隣に立つ姿を想像しては、王子様の告白を待っていまいた。
そして婚約の儀を一目見ようと、王城の前には沢山の人族が集まってきました。
新しいお姫様は太陽の女神様が選ばれるのだろうとみんなワクワクしていました。
ゴーンゴーンと大きな鐘が鳴り、婚約の儀が始まりました。
黄色と橙色で綺麗なドレスに身を包んだ太陽の女神様は、名前を呼ばれるのを待ちます。
王子様の姿が見えると次第にざわつきが収まっていきます。
「我が領主の皆様!本日は私の婚約の儀にお立合いいただき感謝いたします!そして見届けていただく大役をお任せ致します!」
王子様のよく通る声は、どんなに遠く離れた人にも届きました。
「今日。私は、一人の女性、いえ、女神様を妻としてお迎えすることをここに宣言いたします」
太陽の女神様は、スッと立ち上がると、王子様の方へ向かい、ゆっくり歩き始めました。
「私が、妻として迎える女神様・・・」
王子様がゆっくり振り返り、太陽の女神様と目線が合うまえに、サッと影が飛び込んできました。
「月の女神カテリア様です!」
え?太陽の女神様の思考は一瞬で氷ついて止まってしまいました。
姉である月の女神様のみかづきのような笑った顔が、太陽の女神様の心に突き刺さります。
「あぁ!月の女神カテリア様!私は、ずっとあなたの隣でこの国を発展させていきます」
月の女神様を称え、褒めて、敬う王子様の声が徐々に遠くに聞こえてきます。
茫然と立ち尽くす太陽の女神様の明るい表情や髪や瞳、ドレスから色が抜けていきます。
「あはは・・・」
太陽の女神様の目から一滴の涙が落ちました。
すると、次から次へと涙が溢れ落ちて、それからは止めどなく涙が溢れ落ちていきました。
どれだけ泣いたでしょう。
太陽の女神様は力なく立ち上がると女神様の家に帰ろうとしました。
だけど、自分がどこに帰るつもりだったのかを忘れてしまいました。
そして、なぜこんなにも心が苦しいのかも忘れてしまっていました。
あてどなく彷徨っていた太陽の女神様は、悪い人族に捕まり太陽の女神様は世界で一番高い山に囚われてしまいました。
太陽の女神様が、思い出せないけど心の痛みに涙を流すと、世界で一番高い山には雨が降って、その禍々しい山の姿を現します。
月の女神様にとって、婚姻の儀は軽い冗談でした。
だけど、人族の子が女神様を崇拝する様が非常に気に入ってしまい、それからというもの月の女神様は人族からの信仰を集めるようになりました。
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「え?こんな話しだったの?嘘ついちゃダメって内容だたったよね?」
「そうそう。嘘はついちゃダメだよっていう教訓の絵本になってるよ。絵本になる前はこんな感じ」
「そっかー。カテリア様ってザ・淑女って感じだったけど、意外といたずら心あるんだなぁ」
「いたずら心?違うって、月の女神の性悪さがにじみ出てるじゃん!」
ミレイユはフンフンと鼻息が荒い。
「ごめん。性悪さよりも太陽の女神の豆腐メンタルの方が気になるわ・・・」
「なによ、豆腐メンタルって」
「あー。なんていうか、めちゃくちゃ脆いってことだよ」
「ふーん。トーフメンタルってなんとなくバカにしてる気がするわね。ところで、改めてなんだけど。テオドラってさ、声と見た目がピッタリ合ってるわね。」
「あー。そういえばそうかも。テオドラってお姉さんなのにお姉さん感ないよね。いい意味で」
「シュンと意見が合うくらいだからね、相当なもんよ」
「ちょっとやめて、恥ずかしいよ!」
「あー。わかるわー。なんだろう?背徳感?」
「え?シュンって、そっち系?」
「なんだよ、そっち系って」
「だから、やめて!恥ずかしいって!」
僕とミレイユは顔を見合わせたあと、顔を真っ赤にしたテオドラを見てニヤニヤするのだった。




