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陰キャエンジニア矢野峻の異世界黙示録  作者: 兎束つるぎ
初級冒険者編
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第38話 魔物と対峙


「冒険者になれない?なんで?」


「うーんとね。なんか見たことあるなって思ったけどテオドラちゃんでしょ?テオドラちゃんはレツエム王国お抱えの特級魔法使いだから、冒険者にはなれないよ」

例のかっぷくのいいおばちゃんが、こんなに可愛いのにすごいねぇとテオドラの頭を撫でている。


「え?特級魔法使いって?」

隣に立っているテオドラを見ると、びくっとしていた。


「え?あ、そう、うん。ごめん。ごめんね、隠してたわけじゃないんだけど」


「でも、レツエム王国でしょ?」

とミレイユ。程度が低いんじゃないの?ってちょっと上から目線な感じがする。

テオドラは、小さな体を小さく丸めて「ごめんね」と呟いていた。


「じゃ、テオドラはどこに行っても冒険者にはなれないってこと?」


「そうね。特級魔法使いくらいなら冒険者にはなれるけど、王国お抱えってのがね。ざっくり言えば、王族直属の指揮下にある魔法使いってことよ」


「へぇ。テオドラってすごいんだねぇ。公務員かぁ」


「へぇ。頼りなさそうなのにねぇ。っコームインってなに?」


「公の機関に属する人達だよ」


「へぇ、シュンちゃんも小さいのに、物知りだねぇ」

冒険者ギルドのおばちゃんは、僕たち3人に包み紙に包まれた砂糖菓子をくれた。


「まぁ。そういうことだから冒険者にはなれないけど、一緒に旅するのは自由だからいいんじゃない?でもシュンちゃんはテオドラちゃんも、ミレイユちゃんも守ってあげるんだよ?」


「そうですね、ありがとうございます」


「何か仕事はしていくかい?」


「いいえ、今日、僕たちは出発しようと思っています。ヴァリオニアに向かいます」


「そっか。ほんの数日だったけど、寂しくなるね」


「そうですね。でもまたいつか、会いましょう」

僕は受付のおばちゃんとしっかり握手した。


ちょっと待って。とおばちゃんは両手を組んで祈る。


「女神カテリアの慈愛が、あなたを、どこへ向かおうと守られる」

受付のおばちゃんの左手人差し指が、優しく淡く光って、僕、テオドラ、ミレイユの順番におでこに触れていく。


「これは加護のおまじない。力を過信しすぎないでね。また顔を見せにおいで」

あぁ、泣きそうだ。なんていい感動の場面だ。


「…じゃあ、行こうか」

ミリアムとテオドラに声をかけて僕たちは冒険者ギルドを後にしたのだった。




カマの村を後にした僕たちは、とにかく街道沿いを進んだ。

白馬のスーにテオドラとミレイユを乗せて、僕が歩くという状況がのんびりつづいた。


というのも、テオドラは睡眠障害を持っているらしい。

歩いていても突然、眠りに落ちてしまうという状況があった。

いきなり崩れ落ちて擦り傷や打撲が多いのに、眠りに落ちてるのを初めてみたときはかなり焦った。


今までそんな素振りもなかったのになぁと思ったが、よく思い出すと、よく寝ていたかも知れない。

だから、テオドラが突然、眠りに落ちても落馬しないように、ミレイユはテオドラの側にいてくれた。


牧歌的な風景を切り裂いたのは、スーのいななきだった。

低い唸り声とともに姿を現したのは、街道に出てくる初心者キラーの魔物。


ゴブリンのような人型で武器を持っているわけではない。

しかし、獰猛さを具現化したような牙と群れで狩りをする連携プレーを武器にしている。

初心者はその連携プレーに対応しながら戦わないとあっという間に全滅コースになる。

黒色の4つ足、犬型の魔物。



ドゥーグ。


出現数は乱数で5から10だけど、今回の遭遇は最小単位の5頭。


やばい。

やばいやばいやばい。

本気でやばい。

死ぬかも知れない。


睡眠障害で昏睡状態のテオドラ。

ハチミツ酒で酩酊状態のミレイユ。

まともに戦える状態なのは。ナイフ装備の僕。


ドゥーグは、肉食獣らしい牙と牙の間から唸り声を上げ包囲網を狭めてくる。


「やばいって!ミレイユ起きて!魔法!魔法お願い!ミレイユ!」


ゴブリン戦で見せてくれた花魔法【カイドウ】が効けば、寝首をかくだけなのに!


「ミレイユ!起きて!食われるって!」


正面と左手のドゥーグが飛びかかってきた。


「ミレイユ!」


やばい!終わったとモノローグが流れていたけど体が動いた。

左手の革の小手を噛ませ、右手ではドゥーグの首の付け根からナイフを差し込んだ。


焼けるような痛みが左前腕に走る。

右手を外側に捻りを加えると、ブチブチとナイフがドゥーグの首の肉を引きちぎる音が手に響く。


「ミレイユ!起きて!マジでやばいんだって!助けて!」


僕の左手に噛みついたドゥーグの目に絶命前の狂気じみた怒りがチラチラと灯る。

だってしょうがないだろ!僕だって素直に殺されるつもりはないんだ!

ナイフを一旦、引き抜き側頭部に突き立てる。

骨が砕ける振動、光が消えていく瞳に、命の奪い合いだというのを嫌でも実感させられる。


ドンっと右肩や左足に衝撃が走ると、熱さと痛みが走った。

残りのドゥーグが噛みついていた。

首筋に近いところだったので腐った血肉と魔獣の獣臭い呼気が鼻に届く。


これ、まじで死ぬかも。

ドゥーグの牙は毒属性が高い。おまけにガッツリ噛みつかれて離れる様子もない。


ここでゲームオーバーかよ。

マップ踏破率全然なんだけど。


意識が混濁し始めて、立っているか倒れているかもわからない状態になる。


「だめだ。テオドラ、ミレイユ。逃げて。」


声になったかどうかは、わからない。



意識がプツンと途切れた。


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