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陰キャエンジニア矢野峻の異世界黙示録  作者: 兎束つるぎ
初級冒険者編
36/39

第36話 竹と花


「てめぇ!文無しのくせに女連れだと?舐めてんのか?出てけ!」

と、宿屋に着いてドアを開け、店主がテオドラの顔を見た瞬間、怒鳴られた。


「こっちは金だけじゃねぇんだよ」

テオドラが僕の分の宿代を払うと、余計に怒られた。

テオドラはなんだか嬉しそうだったけど。


部屋のドアを開けると、その小さい体からどうやって出すんだ?ってくらいに豪快ないびきが聞こえてきた。

メ●ルゾーンとアンプが内蔵されている花の妖精ミレイユだ。


「シュンくん?」


「あぁ。あれはミレイユ。花の妖精だよ」


「ミレイユ?」


「うん、ミレイユ」


「ふーん」

心なしか気温がぐっと下がった気がした。

ミレイユの豪快ないびきも一瞬止まる。


「シュンくん、お腹空いてない?私、久しぶりに料理作ってあげるよ?」

ぐっと飲み込むように、テオドラは雰囲気をガラリと変えてきた。


「え?あぁ、じゃあお願いしていい?」


「うん!おじさんに台所借りてくるね。ちょっとだけ待ってて」

テオドラは、カバンの中から真っ白なエプロンを取り出して階下に降りて行った。


1時間もすると、料理を乗せたお盆を持って、テオドラは戻ってきた。

焼きたてのパン、サラダ、美味しそうな匂いのする肉料理。


ピタリと豪快ないびきが止み、「お腹すいたんだけど」という声と共にムクリと起き上がる姿があった。

半開きの目、寝癖でぐっしゃぐしゃの髪、よだれの跡、乱れたショート丈のドレス。

どこからどうみてもダメな人、いやダメな妖精にしか見えない。


「ミレイユ?あなたも食べたいの?でもダメ。これはシュンくんのご飯です」


「はぁぁぁ?なによ、あんたアタシにケンカ売ってんの?後悔するわよ?」

一瞬で沸騰したミレイユはどこかで聞いたようなセリフを、テオドラに放っている。


「ケンカなんてしません。シュンくんが悲しむから、ね?シュンくん」


「シュン!なによ、そのちびっこ!超絶むかつくんですけど!アタシの怒りが有頂天なんですけど!」

いや、ちょっと待って。なにこれ。


「はい、シュンくんの好きなお肉料理だよ!フーフーしてあげるね?」


「はぁぁ?なに?なんなの?なんでアタシの怒りのボルテージを、ガンガンあげてくるわけ?後悔させちゃうから!」

ミレイユにパリパリと紫電がまとわりつく。あ、ヤバいと思うのも束の間


「くらいなさいよ!【紫電の槍】」

ミレイユの指先から紫電が発射され、テオドラに向かう。

テオドラに紫電が当たるか当たらないかの距離で、パァンと紫電が弾けた。


「はい、シュンくん。あーん」


「なによ!【紫電の槍】」

ミレイユの指から紫電が再び発射されるが、同じようにテオドラに当たる直前で弾けてしまう。

ミレイユの顔がイライラで曇り始めるしテオドラはお構いなしで激甘な雰囲気を出している。


「ほら、シュンくん。あーんして、あーん。恥ずかしいの?」


「ちょっ!ちょっと待って!二人とも!ちょっと待って!」

僕は二人の仲裁に入るのだった。



宿屋内には、宿泊者向けの小さな食堂がある。

そこの4人席のテーブル。

僕の隣にはテオドラが同じく座って、僕の正面、テーブルの上にミレイユが足を組んだうえに偉そうに座っている。

ただ、さっきと違うことが一つある。

テオドラが泣いていた。



がっくりと項垂れて表情は見えないものの、涙が次から次へとテーブルに小さな涙の泉を作っていた。

「テオドラ?」


僕はそっと声をかけたけど、テオドラは、視線を上げることもなく、返事もない。


「はん!今頃になって、アタシの偉大さに気が付いたってとこかしら?謝ってもゆるさないわよ!」


「いや、ごめん。ミレイユ、そうじゃない。ちょっとだけ黙っててくれる?」


「なによ!シュンもこの女の味方するの?」


「いやいや、味方とか敵とかじゃないって」


「あー出た出た。これってさ浮気相手と一緒にいるところを彼女に見られたけど、浮気相手をかばわないし、自分を守ろうとする男と同じだわ」


「なんだよ、全然ちがうよ」


「はいはい、どーだか。そもそもなんだけど、この子絶対、なんか勘違いしてる気がするんだけど」


「ミレイユだって、魔法で攻撃してたよね?」


「バカね、シュン。ほんっとバカ。売られそうなケンカはまず魔法をぶち込むのが定石よ?」


「いや、初めて聞いたよ。そんなこと。あぁでも思い返すとミレイユはいつもそうだよね」


「なによ。シュン、あんたアタシをバカにしてんの?」


「そんなことより、テオドラ、大丈夫?」


「そんなことじゃない!」

テオドラの目線はテーブルに落ちて、ぽたぽたと落ちる涙がテーブルにしみこんでいった。


「あのさ、テオドラ。ごめん。ぶっちゃけ、なんで泣いてるか全然わからないんだけど」


「悲しかった。シュンくんが、居なくなったから」


「シュンくんの居場所がわかっても、会いに来てもいいか悩んでた」


「怖かった。シュンくんが帰ってこなかったらどうしようって」


「いつも可愛い女の子と一緒だったし・・・」


「私の方がお姉さんなのに・・・」


ぽつりぽつりとテオドラの口から、言葉が紡がれる。


「テオドラ…」

なんて言っていいかわからなかったけど声をかけた瞬間、ミレイユはガッツリかぶせてきた。


「アンタさ、テオドラだっけ?シュンの彼女か何か?」


「いや違うよ、僕とテオ…」


「シュンは黙ってて。アタシは今、テオドラに聞いてんの」

ミレイユはビっという音が聞こえてきそうなほど、綺麗に人差し指でバッテンを作ってきた。

なんだか面倒くさそうだ。


「テオドラはさ、シュンの彼女なわけ?それとも奥さん?」


「ううん、違う」


「だよね?じゃあさ、テオドラはシュンが好きなの?」


「…」


「黙ってても話しは進まないんだけど?」


テオドラは僕の方をチラっとみて、話そうとして口を少しだけ開き、そしてそのまま口が閉じられた。


「もう!ハッキリしなさいよ!うじうじしちゃって!」


「まぁまぁ!みんながみんなミレイユみたいな性格だから仕方なくない?」


「だからシュンには聞いてないって!黙っていられないの?黙らせてあげようか?」


「いやいや、なんでそんなにイライラしてるわけ?」


「お腹空いてるって言ったでしょうが!忘れたの?」

ということで、ぼさぼさ頭の妖精と幼馴染と一緒に夕飯をいただくのだった。


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