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陰キャエンジニア矢野峻の異世界黙示録  作者: 兎束つるぎ
初級冒険者編
35/42

第35話 文なしの二日酔い

翌朝。


ガンガンに響く二日酔いで目を覚まし、向かい酒のハチミツ酒をしこたま飲んで再び目が覚めたのは日が暮れそうな時間帯だった。

払うべき宿代が手許にない事実。

かと言って今から冒険者ギルドに行っても稼げない事実。

なんでこんな事になったんだ。


緑色のショート丈のドレスがめくれて下着が丸見えなのに起きる気配のないミレイユからも、僕からもすごくハチミツ酒の匂いがプンプンしてくる。

とりあえず階下に降りて、宿屋の主人に謝ろう。

明日から頑張ろう。


「あの、すみません」


「おい!金がねぇなら早く出ていけ!」


「え?」


「え?じゃねぇんだよ!金あるのか?ねぇんだろ?どうせ!酒くせぇ息しやがって!なめてんのか?」


「あの…」


「あの!じゃねぇんだよ!」

これ、ガチクレームの状態だ。初手をしくじった!挽回せねば!宿なしはきつい!


「申し訳ございませんでした!」

腹の底から、腹式呼吸で最大限出せる声量で謝罪して、まずは話しを聞いてもらわねば!


「うるせぇ!」


「申し訳ございません!」

最大の声量で謝罪しつつ、くっきり45度の角度で礼を繰り出す。


「っ!!…」

よし、言葉に詰まった!この主人、根はいい人だから押し切れる!


「申し訳ございません!妖精剣姫ジュリー・ドビーに遭遇し、生きて帰れたことで調子にのってました!」


「妖精剣姫にあっただと?」


「はい!生きて帰ってきて、連れの妖精ミレイユと生きている喜びにうつつを抜かしておりました!」


「なんだ…。そういうことか。仕方ねぇ。明日の分は掛けにしておいてやる。明日は冒険者ギルドで働いて稼いでこいよ!」


「ありがとうございます!しかし今から冒険者ギルドへ向かって仕事を決めてきます!」


「お、おぅ、そうか。わかった。じゃあ帰ってきたら報告しろよ?」


「はい!ありがとうございます!行ってきます!」

ちょろいぜ。

僕は宿を後にして冒険者ギルドへ向かった。


夕暮れの田舎道をとぼとぼ歩いていると、矢野峻やのしゅんのときの父さんのことを思い出した。

父さんが休みの日、僕がデバックで発狂していると決まって散歩に連れ出してくれた。

当たり障りのない話しを父さんはしていたけど、僕の頭の中はデバックのことで一杯で、何一つ覚えていない。

ただ、歩いていると、いつだって解決策がポンと思い浮かんだ。

父さんは笑って、じゃあ帰ろうかって言ってくれた。

この世界はどうだ。


改変はされているが、最強種であるドラゴンの一角であるジュリー・ドビーと水属性最強の魔剣ヴァッツァーは確認できた。

ミレイユがいう月の女神カテリア、この千年王国の女神カテリアの余興で復活させられる魔王。

魔王の復活は止められないし、魔王と戦えというのが女神カテリアの言葉だ。

この世界は、僕の世界を模倣し、女神カテリアがそれを改変していて抗えない流れを感じる。


もし僕だったら、このイベントをどう組み立てる?

もし僕だったら、最強の魔王と、最弱のプレイヤーが戦うイベントの勝ちフラグはどう立てる?

もし僕だったら…。


考え事をすると、時間は溶けていく。

いつの間にか冒険者ギルドのドアで、僕の意識は現実に引き戻された。

飾りっけのないドアを開けると柔らかい灯りが視界に入る。


更に今までの世界の流れではなく、より現実的なお金のことに意識を映しつつドアをくぐった。

一瞬遅れて決して弱くない衝撃が、僕を襲った。


慎ましい胸とサラサラの銀髪、花のような優しい香りに僕は包まれていた。

「シュンくん!」


高くない位置から、懐かしい声が聞こえた。忘れもしない。


「テオドラ?」


「うん!よかった、シュンくん!」


「ちょっとごめん、ちょっと離してもらえる?」


「あ、ごめんね、嬉しくてつい」


冒険者ギルドの受付のおばさんは「いやわかるよ、大丈夫」って顔してるけど、たぶん違う。


「いや、本当に違いますから!」


「うんうん。そういうことにしたいもんね!」


「いや、まぁいいや。あの、なんか僕でもできる仕事って何かあります?」


「え?あぁ。彼女の前で格好つけたいのはわかるけどね?ほら、ね?」


「いや、マジで。宿代払わなきゃいけないんですよ?」


「うんうん。宿ね。うんうん。彼女追いかけてきたからね?」


「…。いや、勘弁してくださいよ。マジで」


「いいのいいの。若さってそれくらいでいいの。とりあえず、お祭りの設営とかどう?」


「じゃ、それで!」


「じゃあ、受付手続きするわね」

受付のおばさんはずっとニヤニヤしてる。

テオドラに抱き着かれた姿を見られたし、テオドラの方をちらちらみてニヤニヤしてる。

絶対勘違いしてる。


「幼馴染ですから」

「へぇ。幼馴染?純愛ねぇ。まだ幼いのに。はい、じゃあこれ控えね。明日またギルドに来てね。お祭りの設営だからかなり力仕事だから、早めに寝ておいてね?」

僕の顔はしぶい顔になったが、テオドラは嬉しそうな顔で僕を見ていた。


「ごめんね、お待たせ。それにしてもよくここがわかったね?」


「うん。やっと会えたね」

テオドラは僕よりも年上だけど、身長は僕とほとんど変わらない。

そして、僕の頭を撫でて嬉しそうに笑っている。

僕とテオドラは冒険者ギルドを後にして、宿に向かった。


「さっきも聞いたけどさ。なんで、ここがわかったの?」


「うん?シュンくんがいるから?」


「いやいや答えになってないし。この世界って意外と広いよね?」


「そう?私がシュンくんの側にいたいから、シュンくんがどこにいっても見つける自信はあるよ?」


「お、おう。それは嬉しいというより怖い気もするんだけど」


「怖くないよ。シュンくんは、私がいないといつも泣いてるし。私の方が心配してる」


「そっか、それはごめん。でも、家にいたころよりも僕は自由だし笑ってるよ」


「そう?でもシュンくんとずっと一緒にいるよ?また危ない目に合うかもしれないし・・・」

テオドラの眼鏡の奥、紫色の瞳が優しく僕を見つめていた。


いや、僕ってそんなに泣いてたっけ?

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