第34話 妖精剣姫ジュリー・ドビーの秘密
村の宿屋に戻ると足が棒のようになって、太もももふくらはぎもパンパンになっていた。
ベッドに身を投げ出すと、陽の光をたっぷりと浴びて心地よかった。
まぶたが急激に重くなる。
おやすみ…
「ねぇ!本当に会いに行っただけじゃん!」
目を開けると枕元でミレイユがキーキー怒っていた。
「そうだよ。だって、ドラゴンは一度くらい見たいじゃん?」
「ドラゴンって…妖精でしょ?」
「うーん。そこはちょっと違うかな…」
「何が違うのよ?そもそもドラゴンなんて伝説の生き物でしょ?」
「そうだねぇ。よっこいしょっと。お湯もらってくる」
もらってきたお湯でお茶を炒れ、ミレイユの小さなコップにも注ぐ。
二人でフーフーしながら飲む間は沈黙が続いた。
じんわり温かくて、沈黙を破ったのはミレイユだった。
「で?続きは?」
「ううん、終わりだよ。ジュリー・ドビーは妖精じゃなくドラゴン。だから見てみたかったんだよ」
「魔剣なんとかは?」
「魔剣ヴァッツァーね。あれはジュリー・ドビーの牙だよ。本人はその自覚がないんだけど」
「どういうこと?」
「ジュリー・ドビーは水を司るドラゴンなんだよ。大河レベルの水の質量があの剣に閉じ込められてるんだよ。えぐいでしょ?」
「で?でも見た目とか大きさとかは?アタシと似た見た目で、大きさも似てたよ?」
「うん。だけど、ドラゴンなんだよ。2対の羽根、縦瞳孔、ギザギザの歯とか。めちゃそれっぽいでしょ?」
「うーん。こんなこというとあれだけど。シュンって嘘つき?」
「いやいや、彼女は女神と同じように世界の一部を管理する側の存在だよ?」
「ごめん、嘘くさいよ?」
「僕がミレイユに嘘つく理由はないんだけどね。でも今回、収穫はあったよ?」
「収穫?」
「そう。収穫。世界でおこるイベントはね、僕が作った世界よりもしっかりと世界観というか世界史が的確に紡がれてるってことだよ。歴史を調べたら残りイベントがわかるってことさ!」
「いや、僕が作ったって…アタシはシュンの方が心配になるわね」
ミレイユは、小さなコップをテーブルに置いて僕を見上げる。
「うん。わかるよ、その気持ち。僕だって同じことを思うだろうし」
僕もコップをテーブルに置く。
ミレイユと視線が正面からぶつかる。
ミレイユの紫色の瞳は僕の真実を知らない。
まるでイベントが発生したかのように感じる。
ミレイユに真実を言わない方がいいかもしれないし、言った方がいいのかもしれない。
小さな妖精を信用しないわけじゃない。
彼女のおかげで僕は、僕が生まれ育った村、ラサの村から逃げ出すことができたから。
「ミレイユはさ、この世界に無駄に詳しくて、ミレイユの知らない言葉とか話しても僕を友達と思ってくれる?」
「なに言ってんのよ。そんな年頃なんでしょ?」
「いやいや、違うけど…」
「はいはい。男の子って感じよね!」
ミレイユは、妖精で小さいし20年ほどしか生きてないっていってたけど。
僕よりも大人かも知れない。
「あと、それとさ。なんでジュリー・ドビーに言ってた公爵ってなに?」
「あぁ、公爵ね」
お茶からハチミツ酒に変わり、夜が更けるまで飲み明かして、僕とミレイユは寝落ちした。




