第10話 頭痛の種
目が覚めると、僕は自分の部屋で、ベッドの上だった。
ぼんやりする頭を抱えながら、ベッドに座る。
ドナルドがテオドラの家のドアを蹴り破るシーンが頭の中でリプレイされた。
魔獣との戦いでは何もできなかったけど、僕が守らなきゃ。
お父さんにもらった短剣を掴み、僕はふらふらする頭と足どりで階段を降りていく。
ガンガンと頭が痛む。
キッチンでゆっくりと水を飲み、立ちすくむと、脈打つような痛みが左のこめかみからひびいてくる。
怖い。
だけど、僕が守らなきゃ。
怖い。痛いのは嫌だ。
ダメだ。僕は剣士になるんだ。
お父さんを、お母さんを、テオドラを僕が守るんだ。
頭痛で割れそうな頭を抱えながら、テオドラの家へ足を向ける。
裏口からでれば、いつもの小さな庭があって、テオドラの家の裏口がある。
こんなに短い距離なのに、永遠に感じてしまう。
裏口を開けると、知らない男の人が立っていた。
「だれ?テオドラは?」
男の人は、何も言わない。表情がよく見えない。
見下ろしているのはなんとなく、わかる。
いや、違う。僕の意識が落ちようとしていて、まぶたが閉じつつあるんだ…。
「シュンくん!」
僕を呼ぶ声が聞こえ、一気に頭が覚醒する。
「テオドラ?」
「シュンくん、どうしたの?真っ青だよ!おうちに帰ろう!」
「大丈夫!僕は剣士になるんだ!テオドラを守るんだ!」
「ありがとう。でも、シュンくんは…。シュンくんはまだ子供なんだから、無理しちゃだめだよ!」
「いや!ぼくは…」
「ううん。いいんだよ。気持ちだけでもありがとう。シュンくんが優しいこととか、私は知ってる」
そっと、テオドラに抱きしめられる。ふわりと花の匂いがした。
「だから今は、まだいいの。シュンくんがもう少し大人になったら、私を守ってください」
「テオドラ…」
テオドラは、僕の家の隣に住んでいるお姉さんだ。
僕よりも6歳年上だったと思う。
テオドラのお父さんは見たことがないけど、お母さんは「テオドラは魔法学校で首席であり続けているんだよ」って自慢していたし「あの子の魔力は本当にすごいんだけどね、やる気がないのか使わないのよ。あんたのやる気をわけてあげてよ」って冗談を言っていた。
「テオドラ…。あいつ…。ドナルド。…赤い髪の男は来た?」
抱きしめられていた腕を振りほどいて僕は聞いた。
「赤い髪の男?ううん、知らない。何かあったの?」
「スタンピートがあった日…そいつ、テオドラのお母さんのお店に…、ドアを蹴って壊して中に入って行ったんだ。そしたら、なんか壊れる音とか、悲鳴とか聞こえて、僕、何に入ったんだ。そしたら…」
「頑張ったんだね」
「頑張ってないよ!もっと強くならなきゃ!」
「大丈夫だよ。シュンくんは強いよ。私よりもずっと子供なのに。それに、私もお母さんも無事だったんだし。強くなるのに焦らなくていいよ。」
「テオドラ…」
再び抱きしめられた僕は、
大好きな人たちを守る力が欲しいと
心の底から願った。