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殺人日記  作者: 緋西 皐
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5.サンタクロース

  暇だから今日も人を殺す。どこかにある不満を殺意に変えて。大概どいつもこいつも、何かと理由をつけて人を貶めたいものだろう。そしてそんなのはクリスマスであっても同じだ。色とりどりの街並みに溶け込む、女の笑顔の裏にあるのもまた。

 シナリオはこんな感じだった。街で踊る、何も考えて無さそうなカップルがマンションでお楽しみの最中、高い高いはずのカーテンの向こうからクリスマスツリーの明りに漏れる人影が、不吉な笑みが映る。恐る恐る彼氏さまがカーテンを開くと、あら不思議、チェンソーでその喉から萎んだ何某までが切り裂かれていくではありませんか。女の悲鳴も溺死するほどの血飛沫が部屋を染めたら、今度は逃げ惑う女をうなじから尻にかけて、彼氏さまが撫でまわしたより少しだけ荒くハードになぞっていく。あの世への処女膜が破れたら、返り血塗れのクリスマスツリーを伐採してお終い――――そうなるはずだったのだが。


 「お前は誰だ」


 どこからともなく姿を現したのは、白い髭に同じく返り血塗れの太った爺さんだった。その目は俺にも負けず死に腐っている。また尖がり帽子を被って、ごたごたした赤斑の大袋を担いでいる。まるでサンタクロースってやつだろうか。にしてはひどく悪魔じみた、冷淡な面持ちだ。


 「……」

 「答えない。髭が邪魔で話せないのか? 切れ味の悪くないこれで剃ってやろうか?」

 「……」


 サンタは黙ったまま、俺を無視して凄惨な女の亡骸に手を付ける。まじまじとそれを見て、持ったりもして、腰辺りから出した肉立ち包丁なんかでその一部を切断、白い袋にしまった。女が終わると次は男。同様に、腿と尻辺りを裂いて入れた。女のは胸も取っていたが、男のは取らないらしい。して、サンタは作業を終えると俺のほうをじーっと、また凍てついた目で見て澄ます。


 「サンタの爺さん。手際がいいな。それは何に使うんだ?」


 俺は親しげに爺さんへ訊く。けどもまた爺さんは無視。倒れたクリスマスツリーの上のほうを持って、袋に入れ、窓から飛び降りて去っていった。


 「サンタならトナカイくらい使ったらどうなんだ。まぁどうでもいいけど。俺も次に行くとするか」


 奇妙な遭遇だった。一体あの爺さんはどんな理由で人を貶めるのか。少し興味があった。とはいえ爺さんの足は早いもので、とても追えやしない。長年の、熟練の足さばきって感じだ。あれじゃ、警察らも捕まえられんだろう。もしも次、出会うことがあるのなら、その時はあの袋の先を見たいものだ。何となく予想もつくが。


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