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白百合騎士団の騎士団長1

カァン!カァン!カァン!


室内に乾いたぶつかり合う音が響き渡る。革靴が床を軋ませる音や時々放たれるかけ声が無理矢理加えられた『それ』は、独特の緊張感を生み出し、部屋中を支配していく。


カァン!

「あぁ!!」


木剣を叩き落とされ、拾おうとした少女の眼前にスッと木刀の切っ先が突きつけられる。その瞬間、周りの空気が瞬時に縮む。


「まだ基礎が甘いな。実戦で武器を落とすのは命を落とすのと同義だということを常に忘れるな。」

「は、はい。すみません...」


静かな言葉と共に木刀が顔から離れ、場の空気が綻ぶ。木剣を拾いあげた少女は自分を負かした相手に一礼する。


「だがすじは良い。真面目に努力を続けてきたというのが剣から伝わってきた。日々の努力をこれからも続ければ、いずれ私が負けを認める日も来るだろう。精進せよ。」

「あ、ありがとうございます...」

「よし、次!」


木剣を抱えた涙目になった少女が壁際の外野に戻る。外野には少女のように木で出来た武器を持った若い男女が横一列に立っている。一番左に立っていた大男が木の大剣を右肩に担いでのそりと歩き、向かい合った。


「ふむ、大剣使いか。興味深いな。」

「そりゃどうも。力だけならこの訓練生達の中で一番を自負してやすからね。」


肩に担いだ大剣をビュンと振るい、中段で構える。


「お前で最後だが一応言っておく。私が女で、第3騎士団の騎士団長であるからといって手加減をする必要は無いぞ。」

「合点承知!本気で行きやすよ!」

「参れ!!」


腹から出された大喝が辺りをシンと静まりかえさせる。皆が固唾を飲んで見守る。


大男は女騎士の周りを間合いの外から彼女を中心にジリジリと推し測るように構えたまま少しずつ円を描く。対する女騎士は中段に構えて相手を正面に見据えるように動く。


女騎士が構えを下段に切り替えた瞬間、


「!」


大男は思い切り踏み込み、木の大剣を叩きつけるように脳天へと振り下ろす。木製とはいえ硬い樫の木で出来た代物だ。打ち所が悪ければ命を奪うことだってある。しかも大男が振るったのは

先程の少女の使った木剣よりも長さも幅も厚さも上回る木で出来た兵器。当たれば人間の骨など簡単に砕ける。しかし、


ガンッ!!ビュッ!!ザンッ!!


部屋に響き渡るのは大剣が空を切る音と、床に叩きつけた音のみ。女騎士はヒョイヒョイと流れる様に剣を躱す。同時に身体に斬撃を打ち込む。だがそれは大男の手前で止まる寸止めの剣。腕に、脇腹に、首に。その度に動きが止まり、女騎士が間合いを離して仕切り直し。


「これが真剣ならお前の首と胴は分かたれていたぞ。」

「ぐぅ..」

「怯むな!もっと打ち込んでこい!」

「ぐ、ぐおおおおおおっ!!」


女騎士の一喝によって気合いを入れ直した大男も負けじと剣を振るう。縦がダメなら横で、斜めで、時には突いて、また縦に戻ってー


しかしその度に避けられ、時にいなされ、何度も何度も寸止めの斬撃が放たれる。


それが3分くらい続いた。女騎士は澄ました顔で木刀を下段に構えていたが、大男は汗をかき、息を切らしていた。対する女騎士は全く疲れた様子を見せていない。


「終わりか?」

「な、なんのおっ!」


最後の力を振り絞り、大男が木の大剣を振り上げた瞬間、男は動けなくなった。ドスリとした激痛が大男を襲う。木刀の先端が、彼の腹部を捉えていた。


「確かに力はある。根性も申し分ない。だが肝心の持久力が無い。剣の振りにも余計な部分がある。」


木刀を引くと大男は両膝をついて腹を押さえた。


「だがここまで武器を振るえたのはここではお前が初めてだ。お前の武器は力じゃなくどんなに傷ついても絶対に立ち上がる強靭な意思だ。今言った箇所を時間をかけて改善すれば優秀な重装騎士になれるのも夢じゃない。忘れるな。」

「じょ、精進(じょうじん)じまず...」


痛みをこらえながら大男は立ち上がり、一礼した。


「全員集合!」


女騎士のかけ声で皆が集まる。


「今日の手合わせでそれぞれが言われた事は、それぞれの今後の課題であり、それぞれの弱点だ。だが、それらは全て努力で克服出来る。お前達は試験に合格し訓練生として日々を過ごしているがそこからどうなるかはお前達次第だ。気落ちしている者もいる様だがここではいくらでも負けて構わない。大切なのは腐らずに精進し続ける事と、勝っても浮かれない事だ。いいな!!」


「「「はい!!」」」


「では本日はこれで終わりとする。痛みのひどい者は救護室で診てもらうように。他の者も汗で身体を冷やさないようにしろ。では、解散!!」

「「「ありがとうございました!!」」」


女騎士も一礼し、後ろに縛った長い黒髪を翻して訓練所を後にした。





「痛ってえ!マジで痛え!」

「うわ、たんこぶになってる...」

「ねぇ、私の顔大丈夫?傷とか無い?」


女騎士が去ってしばらくした後、緊張が解けた訓練生達は我慢していた痛みに悶えだした。


「強かったなぁ。俺、全然ダメだったよ。あぁ、まだ痛い...」

「でも僕はとても良いものを見れたよ。」

「良いもの?」

「東の国の剣術さ。間近で見れて、最高だった。一瞬で詰められた時はゾクゾクしたよ!」

「お前、変わってるって言われないか...?」

「良く言われるよ。それにしても...」


メガネをかけた訓練生が見た方向には最後に立ち合った大男が担架に載せられて運ばれていく所が見えた。後で聞いたら肋骨が折れていたという。


「アーサーの奴、大丈夫かなぁ?」

「ガッツリ心をへし折られたろうな...」


口は悪いが気は優しい力自慢の大男の友人を2人の少年訓練生は心配していた。


「なぁ、あの人、本当に17歳なのかな?」

「何でさ?」

「佇まいがなんつーか達人じゃん?達人って、なんかこう、じいちゃんみたいな感じだろ?あんな17歳なんかいないって。」

「それ、本人の前で言ったらダメだよ?」

「言えるかよ。言ったらバッサリやられるだけだって。」


メガネの訓練生の忠告に笑って答える友人。しかし、その後におとずれたのは自分達はあの女騎士のようになれるかという小さな不安だった。








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