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悪党殺しの伝説  作者: 八千世
目覚ノ刻
3/8

第一話 目覚ノ刻

 「オマエハナニヲノゾム?」


 頭がいてぇ。体中の感覚がない。視覚も、聴覚も、触覚も。五感すべてが機能していない。ただ考えるだけで。動かすことすらできない。なんとなく、ただ沈んでいく。そんな妙な感覚。空間という概念を取っ払って、無限に広がる領域を、ゆっくりと落ちていくような。


 「オマエハナニヲノゾム?」


 聞こえるはずがないのに、聞こえるこの声。頭に直接響く、カタコトの日本語。小さすぎて、聞こえないくらいの。ゆったりとした、女性の声。俺の中の天使様は、どうやら女性らしい。その声が、痛む頭に鳴り響く。


 「おまえはなにをのぞむ?」


 うるせぇな。だんだんと、声が大きくなってきやがった。それどころか、この天使、ちょっと流暢にしゃべりはじめてきてやがる。頭が痛ぇんだから、あんまりでけぇ声出すな。


 「お前は何を望む?」


 だから、うるせぇって。


 「いいから、早く答えてください。あんまりこっちの手間を取らせないでくださいな」


 なんてこった。よくわからねぇが、天使が怒ってやがる。怒りてぇのはこっちのほうだっつの。てか、いろいろつっこみてぇ。俺、これ走馬灯的な奴だと思ってたんだが。よくわからんが、普通こういうのって一方的な喋りじゃねぇのか。会話っていうか、意思疎通とか普通しないんじゃねぇのか。


 「違います、あなたが言っていた通りの普通の天使です。走馬灯とかじゃないんで、死にたくなければ早く答えてください。後がつかえてるんです」


 はっ。皮肉が効いていやがる。すでに死んだはずの俺に対して、死にたくなければ、とはな。それと、二人称、変わってるぞ。


 まぁ、なんとなく理解(わか)ってきた。俺はさっき、車の爆発によって死んだ。その記憶がある。ここは、死後の世界。あると思ってたわけじゃないが、自称天使がいるのだから、状況証拠的に、そうなんだろう。てっきり、お迎えには閻魔様がやってきてくれると思ってたんだがな。


 めんどくせぇ。


 それにしても、早く答えなければ死んでしまうのだから、早く考えねぇとな。一度死んだからって、もう一度死ぬのは一応避けたい。だが、死んだ後に欲しいモンとか、普通ねぇだろ。死ぬ前に聞いとけバカヤロウ。それとも、聞くだけで叶えはしないとかいうギャグ的な展開になんだろうか。


 「ちゃんと叶えますからそこはご安心を。それと、あなたはまだ死んでいません」


 なるほど。記憶があって、なんとなく感覚があって、考えることも出来んなら、まだギリ生きてる判定なのか。それにしても、死ぬ直前過ぎだろ。それじゃ大して変わんねぇだろうが。


 いろいろ考えた。死んだ後に欲しいものなど、あるわけもない。だが、今の俺の考えだったり、気持ちだったり、そういうのをきちんと死ぬ前に整理しておくことは、大切なことだと思った。


 俺は何をしたかったのか、生きていたら、何をしたいのか。意味はないとは思いつつ、考えてしまう。やっぱり、未練があるんだよなァ。あの世界には。

 

 もし、叶うなら、力が欲しい。物理的な力じゃなくてもいい。俺が最も嫌う、正義の面した悪党どもをぶっ潰せるなら、なんでも。正義のヒーローじゃ裁けない、世間にはびこる悪党どもを。何の罪もない一般人を、あざ笑うように踏みつぶすくそったれの悪党を。そいつら全員を、この手で、葬ってから、死にたかった。


 「つまり、力が欲しいんですね?」


 まぁ、究極そうだが、つまりすぎだろ。ちゃんと俺の意思がくみ取れているのか不安になる。


 「いや、わかってますよ。武力に加えて、知力、権力、財力、ほかのもろもろエトセトラ。そんな様々な力でもって、悪事を働く人たちの退路をつぶして、どの方面からも叩き潰したいという願いですよね?」


 おお、わかってるじゃねぇか。むしろ逆にあんな抽象的に説明してよく具体的な理解をできたもんだ。


 「理解に間違いがないのなら、願いを叶えますがよろしいですね?」


 ああ、それでいい。叶えられるんならな。死にゆく悪党の希望にしちゃ、十分だ。


 「では、頑張ってくださいね。おそらく、これから忙しいですよ」


 へぇ、三途の川で石でもつまされるってのか。なんてな。







 「・・・あ?」


 急に視界が戻ったかと思えば、そこは三途の川ではなかった。


 もちろん、死ぬ前にいた港でもない。景色があまりにも違いすぎる。


 

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