いびつな恋物語
『異常な恋愛関係』
世の中には様々な恋の形がある。
遠距離、浮気、不倫、出会い系。
しようと思えば誰でも恋愛ができる時代。
しかし、他人に理解される恋愛は少ない。
どんなに綺麗に見えても、何処かに異常、理解されない癖やルールがあったりする。
これは、確実に理解されることは少ないであろう、いびつで、奇妙で、狂った2人の恋の物語である。
「島田さ~ん。取引先から電話です。」
「はい。」
平日の昼。
人々はせわしなく仕事に従事している。
今名前を呼ばれた男、島田洋平もその1人だ。
彼は会社員で、若いながら課長の地位にいる。
誰からも慕われており、彼の悪口を言うものはほとんどいない。
好青年な人物である。
「島田さん、お茶どうぞ。」
「ありがとう。」
お茶をくれた女性に洋平は笑顔を向けた。
女性は顔を赤くしながらそそくさと去っていった。
「はぁ~、緊張した。」
「島田さんカッコいいよねぇ。」
「ねぇ~。」
女性たちが集まりながらそんな話をしている。
「ちょっと。」
突然の声に女子社員たちは驚いた。
「喋ってないで仕事してくれる?」
「い、井上さん。」
女子社員たちを注意したのは、井上実咲。
結構なキャリアのある女性だ。
注意された女子社員たちはそそくさとその場をあとにした。
「…こわ~。」
「…でもあの年で恋愛話のひとつも聞いたことないよね。」
「…仕事が恋愛みたいな?」
「…ハハッ、ウケる~。」
ギロッ。
実咲は女子社員たちを睨み付けた。
睨まれた女子社員たちは早歩きで去っていった。
「ハァ。」
実咲は溜め息をついて仕事に戻っていった。
洋平はそんな実咲を課長席に座りながらさりげなく見つめていた。
「島田さん、お疲れ様でした。」
「お疲れ。」
洋平は社員たちに挨拶しながら定時に仕事場を出た。
洋平の家は1LDK。
課長と言う役職に就いてはいるが、決してお金を無駄遣いしない。
一般の人とさほど変わらない生活をしている。
家に帰った洋平は直ぐ様パソコンの電源を入れた。
画面に映し出されていたのは女性の部屋。
洋平は誰かの部屋を盗撮していた。
女性は風呂上がりなのか、髪が濡れていた。
女性はパソコンの電源を入れ、ドライヤーで髪を乾かし始めた。
パソコンの画面には男性が映っていた。
この女性もまた誰かを盗撮していた。
『お~い。』
男性は画面越しに向かって女性に語りかける。
しかし、女性はドライヤーの音で聞こえていないようだった。
次に男性は、部屋に仕掛けられている盗撮用のカメラに向かって手を振ってみた。
それに気付いた女性はドライヤーを止めた。
『何?』
『いや、ドライヤーが五月蝿くて会話ができないからさ。』
『あっ、ゴメン。直ぐに乾かしてくるから待ってて。』
そういうと女性はドライヤーを持って洗面所へ向かった。
しばらくすると、女性は戻ってきた。
『お帰り~。』
『ただいま~。』2人はそう言って笑いあった。
『あっ、そういえばさ。』
『何?』
『今日私のことチラチラ見てたでしょ。後輩たちに怒ってるとき。』
『…気付いた?』
『気付くよ。バレるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしちゃった。』
『ハハッ、ごめんごめん。』
この2人は付き合っている。
しかし、周りの人間にはそれを黙っている。
『さて、俺も風呂入ろうかな。』
『ねぇ、洋平。』
『ん?』
『お風呂のカメラ、あれレンズ変えてくれない?』
『何で?』
『曇ってよく見えないんだもん。』
『あ~。でもさ、俺の風呂入ってるところなんて見ても面白くなくない?』
『ダメだよ。私だってお風呂入ってるとこ見られてるんだから。』
『ハイハイ。全く、実咲はそういうところはしっかりしてるよな。』
洋平が盗撮・盗聴している女性、それは会社の同僚の井上実咲だった。
そして、実咲もまた洋平を盗撮・盗聴していた。
2人は付き合いながら一緒に住まず、お互いの家を盗撮・盗聴しあいながら欲望を満たしている、かなり変わった性癖を持ったカップルだった。