大型新人
ダンジョン協会にやってきた人物は、悪道凜音と名乗った。
名は体を表す。と言うが、名前の通り不良っぽい雰囲気だ。耳にはイヤリングをしているし、目は切れ長で、口調は初対面とは思えない程くだけている。というか、木刀を携帯している時点でまともな人間じゃなさそうだ。
「うち、ダンジョン協会に入りたいんっすけど、大丈夫ですか? めっちゃ金が儲かるんっしょ?」
ああ……やっぱり。この娘、ニュースを見てここに来たんだな。
「も、もちろんです。大歓迎ですよ!」
ミカンも、ちょっと引き気味だが、それでも人手不足だから贅沢は言えないんだろう。
だが、俺としてはこんな娘と一緒に働くことになるのは勘弁願いたい。
「あのな、ダンジョンは危険なんだぞ。一年以内に半分が死ぬ。それでも良いのか?」
と、脅しをかけてみた。だが、
「へー、面白そうっすね」
彼女は平然としていた。
「……面白そうって……」
「ともかく、ここで働きたいんスよ。そのために、バイトも辞めてきました。だからお願いします!」
彼女はそう言って、突然土下座をした。
俺とミカンは言葉を失った。
「……あの、頭を上げてください。そんなことをしなくても、勿論大歓迎ですから!」
「そうっすか? ありがとうございます」
凜音は立ち上がると、ミカンと軽く握手した。
「それじゃあ二宮さん。先輩として彼女に色々教えてあげてくださいね。私は今からちょっと別件の用事があるので、これで」
「え、俺が? 俺だって協会に入ったばっかりだぞ」
と、反論しようとするが、ミカンはそそくさとその場を後にして、俺と凜音の二人だけが残された。
「あー……よろしく。凜音」
「先輩、お願いしますッス」
凜音は俺に向かって、直角に、綺麗に頭を下げてきた。
……なんだか、思っていたほど悪い娘じゃないみたいだな。
不良は上下関係に厳しいって言うし……案外悪くないかも。
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右も左も分からない様子の凜音に、俺はまず装備品を見繕った。
彼女は木刀の扱いに慣れているようだったから(どうして慣れているのかは知りたくないが)、武器は剣を使ってもらうことにした。ただ、サブ武器として彼女にもウォーハンマーを持ってもらった。
防具は俺と同じようにチェインメイルを着てもらってもいいが、凜音の体は華奢だから、もう少し軽い、防刃・防弾性能のある化学繊維の織り込まれたチョッキを着てもらうことにした。
「先輩、それで今からダンジョンに行くんスよね?」
「……一応、そのつもりだよ」
「よっしゃ!」
凜音はガッツポーズをとっている。
まあ、俺としてもダンジョンに行くのはやぶさかではない。それにサイレントストーン狩りは相手が反撃してこないから、初心者の凜音でも危険は少ないだろう。
そして俺と凜音はタクシーでダンジョンに向かった。
少し前までは、長距離移動にタクシーを使うなんて贅沢は考えられなかったが、マナトリウムによって懐が潤ったせいで金銭感覚がすっかり変わってしまった。
「へー、ここがダンジョンっすか」
ダンジョンに入っても、凜音はやはり物怖じする気配はない。
暗いダンジョンを見渡しながら、どんどん奥に進んでいく。
「そうだ。それで。今から俺たちが狩るのはサイレントストーンっていう魔物で、外見は完全に岩にしか見えない」
「ならどうやって狩るんスか?」
「俺はそれを見分けられるから、指示する通りに攻撃してくれ。それと、相手は岩だから斬撃はあまり効果的じゃない。サブ武器として持ってきたウォーハンマーを使って戦ってくれ」
「了解っス、先輩」
「あれだ、あの丸い岩を攻撃してくれ」
「おらぁっ!」
俺がサイレントストーンを指差すと同時に、彼女はハンマーを振り上げて飛びかかった。
そして武器を振り下ろし、一撃でサイレントストーンをバラバラにしてしまった。
「あれ? すげー弱いっすね」
一撃……だと? 俺が最初に戦った時は、13回も殴らないと倒せなかったのに。
……どうやら、身体能力は俺よりも遥かに凜音の方が強いようだ。