有能サラリーマンになる
会社に戻った時、時間はまだ夕方の4時だった。
流石にまだ帰るには早すぎる。そう思って、のんびり時間を掛けて日報と週報を書きはじめた。
そうしていると、
「二宮先輩、どうせ今は暇っすよね。仕事、お願いしても良いっすか?」
上司であり後輩でもある山田が声を掛けてきた。
「……ええ、まあ」
「んじゃ、仕事の内容はメールで送るんで、よろしく」
そして、新しい仕事を押し付けられた。
仕事の量はおそらく普通にやつなら半日で終わる量のコーディングだった。
ただし、環境構築とか資料を読む時間も含めるとおそらく1日。俺の能力だと3日は掛かる量だ。
「期限はいつまで?」
「明日の朝までっす」
「え……それは」
「無理とか言わないでくださいよ。先輩、ここ2日くらいずっと仕事してなかったっしょ?」
「うぐっ」
……やっぱり、流石に気づかれていたか。
となると、仕方ない。この仕事はやらないわけにはいかないな。
「りょ、了解です」
これは残業間違いなしだな。と、覚悟を決めてPCに向かう。
同時に頭が重くなる。
<二宮様、よろしいですか?>
(なんだ、メタトロン)
<よろしければ、仕事について助言を差し上げたく存じます>
(へぇー、そんなことも出来るのか。頼むよ)
<ではまず、仕事関連の資料をお願いします>
メタトロンに言われて、今回の仕事の資料のフォルダを開いた。
その中には設計書、コーディング規約、仕様書等々、見ているだけで頭が痛くなるような資料が山積みになっている。
<電子データの解析は難しいので、二宮様の肉眼ですべての資料に一通り目を通して頂けますか?>
(分かった)
言われたとおり、まずは作業フォルダに入っている資料を一通り、軽く目を通した。すると、
<わかりました。それでは次は統合開発環境を開いてください>
(ああ)
俺は言われたままに、開発環境をPCにインストールして、起動した。そしてメタトロンに促されるままに、そのソフトのヘルプページを一通り確認した。
<完璧に把握しました。それでは、今から私の指示する通りにコーディングを開始してください>
おいおい、本当に平気なのか?
と、少し不安に思いながら、俺は頭の中に響く命令に従って手を動かした。
声に従ってタイプするだけだから、作業はほんの10分ほどで終了した。
(……エラー、出てないな)
大量のコードをサササッと書いたというのに、エラーは0。
プログラムを実行しても、仕様書通りのソフトの動きをしている。
資料に目を通していた時間も含めて、1時間も掛かってないな。夕方から始めたのに、まだ定時前じゃないか……
(あー……ともかく、メタトロン。助かったよ)
<お役に立てて何よりです>
俺はすぐに仕事完了のメールを作成して、山田にそれを送信した。
「え」
すると、山田の方から声が漏れた。
「……あの、二宮先輩。今送ってきたメール、なんなんですか?」
「仕事が終わったって、メールに書いてあるでしょう?」
「ふざけないでくださいよ。こんなすぐに終わるわけないっしょ?」
「なら、確認してみてくださいよ」
俺が言うと、渋々山田はカチカチとマウスを動かし始めた。
そして一分ほどすると、彼の顔つきが段々変わってきた。
「……あれ、本当に終わってる」
「どうですか?」
「っチ、誰かに仕事を頼んだんでしょ? 他の部署の人ですか?」
なんだよこいつ。仕事を任せといて、終わらせたら舌打ちって。
ムカつくが、まあいいや。
「ともかく、今日はもう帰ってもいいですか?」
「……どうぞ」
俺は不機嫌そうにしている山田を背に、オフィスを後にした。