何ができるのか
「ともかく、ユニークスキルの確認ができたなら、後は少しだけダンジョンを探索していきましょうよ」
「え~……危なそうだなぁ、俺、武器持ってないぞ」
「大丈夫ですよ、ここ、危ない魔物はでませんし」
ミカンはそう行って、ずんずんダンジョンの奥に進んでいく。
灯りは彼女しか持ってないし、一人きりになったらどうなるのかも分からないから、俺も必然的に後をついていくしかない。
スーツ姿に革靴を履いてダンジョンに挑むなんて、かなり無謀な気がするが……まあ、ミカンが戦ってくれるみたいだし、俺は後ろにいれば平気だろう。
そう思って更に少し進むと、道の真ん中になにか変な生物が待ち受けていた。
小さな体、四足で地面にはりついて、全身にはハリセンボンみたいにトゲがある。
「これは?」
「バリバリトガリネズミです。魔物ですよ、気をつけて!」
「へー、こいつが魔物なのか」
思っていたよりも可愛い。
全然危なそうじゃない。ハリネズミの、ちょっと針が図太くて痛そうなバージョンって感じだな。
<解析しますか?>
(ああ、頼む)
<解析完了:バリバリトガリネズミ マナ所持量:10M
全身を覆う針にはミクロサイズの返しが無数についており、これに刺されると引き抜くのは難しいです。また、ハリを飛ばして攻撃してくるので、防具を着ていない場合は、対面するのは危険です>
……ハリを飛ばしてくるのか。スーツじゃ防御力も無いし、甲冑を着ているミカンに任せた方が良さそうだ。
「ミカン、頼んだ」
「もちろんです!」
ブォン! と、彼女が斧を振り下ろすと、一撃で魔物はバラバラになった。
死体は残らず、光の粒子になって、ミカンの体に吸い込まれていった。
「今のは?」
「魔物を倒したから、そのマナを私が吸収したんです。こうやって魔物を倒してマナを集めて、少しずつ強くなっていくんですよ」
「なーるほど」
「このダンジョンはこのトガリネズミしかいませんから、二宮さんもきちんと装備を整えれば、マナ集めができますよ」
と、ミカンが言った時。メタトロンがまた声を出した。
<いえ、お待ち下さい。先程から周囲を常に解析しているのですが、魔物の反応はバリバリトガリネズミ以外にももう一つあります>
(え? ……そんなの、どこにも見えないぞ)
キョロキョロと周囲を見回すが、あるのは壁と石ばかりだ。生き物の姿はどこにもない。
<石に擬態した魔物です。一切動かない上に、外見は完全にただの石なのでわかりませんが、二宮様の眼前にある直径1メートルほどの岩も、魔物です>
メタトロンの言う通り、俺の目の前にはまん丸い大きな岩があった。
「え? これが魔物なのか?」
ちょっと触ってみるが、なんの反応もない。
手触りも普通の岩と変わらない。
<データ不足なので名称は不明ですが、その魔物の所持マナ量は1000Mですので、倒すことをおすすめします>
(1000!? さっきのネズミの100倍もマナを持ってるのか?)
<その通りです>
「どうしたんですか、二宮さん? またユニークスキルと話してるんですか?」
「ミカン、この岩を斧で攻撃してくれないか?」
「え? なんでですか?」
「良いから、やってみてくれ」
俺が頼むと、ミカンは首をかしげながら、「えいっ!」と、斧を振り下ろした。
岩に斧が直撃すると、「ボォオオオ……」というなんだか物悲しい断末魔が聴こえた。
それと同時に、岩は光の粒になって、またミカンの体に取り込まれていった。
が、その光の粒はさっきのネズミとは比較にならない。目がくらむくらいの圧倒的な量だった。
「うわわわっ! なにこれ……体に力がみなぎってくる。見てくださいよ、これ!」
マナを吸収した後のミカンは、なんと体が宙に浮いていた。
「どうなってるんだ……?」
<マナの量が一定量に到達したことで、彼女のユニークスキル『重力操作』が強化されたようです>
「あはははは♪」
ミカンは楽しそうにダンジョンの中を飛び回り、やがて満足した様子で俺の前に降り立った。
「岩が魔物だなんて、二宮さん、よく気づきましたね!」
「俺じゃなくて、スキルが勝手に解析してくれたんだよ」
「ああ、そう言えばそうでしたね! でも、今の魔物、すごく沢山マナを持っていましたけど、一匹だけしか居ないんですか?」
<岩の魔物――仮に『サイレントストーン』と名付けると、サイレントストーンの反応は半径10メートル以内に2つあります。おそらく、ダンジョン全体には無数に生息しているでしょう>
「いや、まだ沢山居るみたいだ」
「そうなんですか!? ……だとすると、相当沢山のマナが稼げますね……」
ミカンは少し考えてから、
「今日は一度帰って、二宮さんの装備を整えてからまた来ましょうか」
「そうだな」