今更なんのつもり?
「それで、あなたは誰なんですか」
サキュバスのリンリンは至極真っ当な質問をぶつけてきた。
他の連中も、俺を警戒した様子でにらみつけてきている。
「……いや、お前、見覚えがあるぞ」
と、狼男が言った。
「たしかに、わたしもどこかで見たような気がしますな」
王者スライムが、頭に被っている王冠を揺らしながら、俺の顔をジロジロ見てきた。
「俺は足立区の領主、二宮賢治だ」
正体がバレるのは時間の問題だった様子だから、俺は正直に言った。
すると三人は一斉に目を見開いて、互いに顔を見合わせた。
「確かにそうだ! 言われてみると、間違いない。『大間抜け』の二宮賢治だ」
大間抜けって、酷いな。
まあ、本当だから反論はできないが。
「今更何の用なんですか? 言っておくけど、あなたはもうこの街の領主でもなんでも無いですよ」
リンリンは冷たい声で言った。怒っているらしい。
「あなたがまともに統治をしなかったから、この街は今、最悪の状態なんです。ごく一部の魔物だけが幸せになり、他の全ての魔物が不幸になっているんですよ」
「それは分かってる。こんな状態になるまで放置したことについては、申し開きできない」
「だったら早く消えてください」
「それはできない。俺は『フォーリンラブ』をこの街から駆除することに決めたんだ。だから、『ダウナーズヘブン』の所在を教えてくれ」
「……教えるつもりはありません。あなたには無理ですから」
「どうしてそう言い切れる?」
「ランランには沢山の仲間が居ますから。それに、あなたはただの人間でしょう?」
強い怒りと、嘲笑の含まれた言葉だった。
彼女が『足立区を救う会』という組織を本気で運営しているとすれば、この街をこうなるまで放置していた俺に怒るのは当然かもしれない。
ただ、彼女たちとは目的が完全に一致している。
俺はまずこの街を救わなきゃいけない。
だから出来ることなら彼女たちとは仲良くしたいところだが……
彼女の信頼を取り戻すには……どうしたら良いだろう?
<賢治様、わたしに一つ提案があります>
(なんだ、メタトロン)
<彼女たちに『マナ贈与』を使用してはいかがでしょうか?>
マナ贈与。そういえば、メタトロンがそんなスキルを獲得していたな。
(マナ贈与ってのは、文字通り俺のマナを分け与えるってことか?)
<そうです。賢治様は、『ゴールデンストーン』を狩った際に獲得した大量のマナを所持しています。それを分け与えてみてはいかがでしょう?>
(彼らに俺のマナを? ……そうだな、どれくらいマナがあるんだ?)
<約500万Mほどです。ですから、彼らにとりあえず10万Mほど分け与えてみてはどうでしょう? 魔物に対してマナ贈与を使用出来るかどうかはわかりませんが、試してみる価値はあるかと>
本当なら、魔物と馴れ合いたくはない。
将来的には敵になる可能性もあるからだ。
けれど、俺は一人じゃ戦えないのも事実。それに、彼女たちの協力を得られないとしても、彼女たちがこれ以上街を悪くすることはないだろう。
(……そうだな、メタトロン。やってくれ)
<了解しました。では、『マナ贈与』を発動します>
メタトロンが言うと同時に、俺の体から大量の光の渦が生まれた。
それは狭い室内で渦巻のようになった。
「な、な、な……何をッ!?」
「てめぇ! 何をしやがる!」
「こ、これは……」
三人は、俺が攻撃魔法でも使ったのか勘違いしたらしく、臨戦態勢を取った。
俺は敵意が無いことを示すために、両手をあげて其の場に膝をついた。
「君たちに力を渡す。これじゃあ足りないというなら、もっとマナを渡しても良い」
「……私達にマナを渡す? どうして」
「君たちはこの街を救うつもりなんだろ? 俺も気持ちは同じだ。
だから君たちに力を分ける。それだけだ」
そう言うと、彼らは警戒をいくらか緩めてくれた。
そしてマナの譲渡が終わった。
その場に居た三体の魔物達は、自分の体に起きた変化を感じ取ったのか、自らの体を興味深そうに眺めている。
「どうだ、力が湧いてきただろ?」
「……確かに、そうですね。でも不思議です」
「不思議って、何が?」
「魔物は他人のマナを奪うことができないんです。だから、生まれ持った強さから変化することはありませんし、同じ種族ならば強さもほとんど同じです。技の習得やその練度によって強さは多少異なりますが……こんな簡単に『強くなる』ことはありえないんです」
へー……そうだったのか。知らなかったな。
考えてみると、たしかにダンジョン内に居る魔物達は同じ種族なら強さも、持っているマナも同じだったな。
「これなら『ダウナーズヘブン』の連中を叩き潰せそうだ。行こうぜ、リーダー」
「そうじゃな。儂も頑張れそうじゃ」
「賢治さん、あなたはどうするつもりなんですか?」
既に、リンリンの声色から、刺々しい響きが消えていた。
力を分け与えたことで、一応は信頼してもらえたらしい。
「俺? 俺は……可能なら君たちの手伝いをしたい。この街を救いたいんだ」
「……そうですか。わかりました。あなたが勝手についてくるというのなら、止めはしません」
リンリンはそう言って、やさしく笑った。
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