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活動開始

 フォーリンラブについて調べるべく、俺はさらに街を歩こうとしたが、その前におれはショッピングモールの中で商品を漁った。


 食料品はもう荒らされて残っていなかったが、服は沢山見つけられた。

 そこで俺は冬でもないのに冬服をかき集めると、なるべく薄汚い格好になるように、わざとそこらへんの泥を塗りつけ、傷をつけてからそれを着た。


 『二宮賢治』であることも『人間』であることも隠すために。


 なにせ、薬物中毒で頭がおかしい奴らばかりだから、俺を人間だと知れば金を奪おうとして襲ってくるだろうからな。


 そして着替えた後、俺もガチャに並んだ。


 順番が周ってくると、俺はなるべく周囲の奴らに見られないように、こっそりとマイナンバーカードをスキャナーに通して、一万円を入れた。


「11連ガチャ……開始。

 アタリ! アタリ! アタリ!  アタリ! アタリ! アタリ! ハズレ! アタリ! アタリ! アタリ! ハズレ!」


 うぉっ! すごい当たったな。 11回中9回もアタリか。


 あの狼男が引いたときは10回引いてアタリが0だったのに……どうなってるんだろう?


 俺の運が良いのかな? それとも、あの狼男の運が悪かったのか……


 ともかく、商品の取り出し口に手を突っ込んでみると、たしかに商品がそこにあった。

 透明のパケ(容器)に入ったピンク色の粉末。それが9コだ。

 俺は上着のポケットにそれを全部入れた。


「うぉおー 兄ちゃんすげぇなぁ」

「俺にも分けてくれ!」

「頼むよ!」


 すると、ガチャに並んでいた連中が、一斉に俺に声を掛けてきた。

 全員、欲に目がくらんで目つきがヤバい。まじで殺してでも奪い取るって感じだ。


「ちょ、ちょっとまってくれ! 実は俺は新参者なんだ。

 だから少し話を聞かせてほしい。話を聞かせてくれたら、この『フォーリンラブ』をお礼にやるから」


 そう言うと、途端に薬物中毒者達がおとなしくなった。

 ふう。危ない危ない。

「何でも聞いてくれ!」

「そうだそうだ!」

「俺が一番物知りだぜ!」

「あうあうあ~~~」


 中にはクスリで頭がおかしくなっているやつも居るが、問題なく話ができそうなやつもいる。

 

「なら最初の質問だけど、このクスリを作ってるのは一体だれなんだ?」


「『ダウナーズヘブン』だぜ、そんなことも知らねぇのか?」

「そうそう。『ダウナーズヘブン』だ」

「ふぉーるだうん……」


「それは組織か?」


「そうだ。『ダウナーズヘブン』はこの街の情けない領主に代わって街を仕切ってる連中だ」

 との返事。


「あははは、領主。そんなやつも居たなぁ。死んだって噂だが」

「生きてたとしても、誰も従わねぇだろ。人間だからな」

 すると、魔物たちは人間の領主のことで盛り上がりはじめた。


 ふふ、その情けない領主ってのは、俺のことだけどな……

 

「ダウナーズヘブンはどこに居るんだ?」


「そんなことを聞いてどうする? もしかして、盗みでもするつもりか?」

「げははははは、やめとけやめとけ!」


「良いから教えてくれ。これが欲しいんだろ?」


 フォーリンラブをその場に(かか)げると、連中の血走った目が集まった。


「工場だ! ここから南にいくと、デッド・エンドって呼ばれている工業地区がある。

 そこに連中(ダウナーズヘブン)が居るんだ」

 群衆の中の誰かがそういった。


「本当か?」

 一応、確認を取る。ヤク中ってことはデタラメを言ってるだけの可能性もあるからな。


「ああ」

「ダウナーズヘブンだ」

「間違いねぇ」

「サキュバスの『ランラン』がボスだ。すっげー美人だぞ」


 うん。どうやら本当らしい。


「それじゃあ、これはプレゼントだ。でも、やりすぎないようにしろよ」


 俺は『フォーリンラブ』の入ったパケをその場にばらまいた。すると、一斉に魔物たちはそれを取り合いはじめた。

 ただ、ばらまいたのは9コあるうちの6っつだけだ。

 多分、この街の連中はこれが欲しくてたまらないらしいし、持っていれば役に立つだろう。


 


 聞いた話を参考に南に進むと、元々荒れていた景観が、一層悪くなってきた。

 

 地面のコンクリは割れて、道端にはゲロやゴミ、それに使い古しの注射器が頻繁に落ちている。

 人間の姿は全く無くて、魔物達は全員どこか様子がおかしい。

 スラムどころの騒ぎじゃないし、ダンジョンの中を歩いているときよりも緊張する。


<賢治様、お気をつけて>


(分かってる……あれが、デッドエンドかな?)


 川沿いに街を南に進んでいくと、工場地帯に入った。

 といっても、煙突からは煙が出ていないのを見るに、大抵の工場は活動を停止させているらしい。

 まあ、人間がほとんど居ない以上、工場も回すことはできないだろうが。


 そう思いながら道を歩き続けると、メタトロンが声をだした。


<賢治様、『空間認識』で、前方200メートル先、一つの商業ビルの中に魔物の集団の反応を見つけました>


(それがどうした? 街なんだから、それくらい居るだろ)


<彼らの中に、サキュバスらしき魔物の姿があります。彼らは身なりもまともですし、薬物中毒の様相もありませんから、先程の情報を元に考えると、彼らがフォールダウンかもしれません>


(……なるほど。とりあえずはそこまで案内してくれ)


<了解しました>


 メタトロンの『空間認識』のおかげで話が早い。

 解析とは違って、ごく最低限のことしかわからないが、人探しにはかなり便利だな。


 ……しかし、問題なのは、組織の連中と実際に相対してどうするのか、ということだ。


 相手は組織。そして俺はたった一人。分が悪いのは間違いない。


 ま……メタトロンの『解析』と『仮想演算』を使えば勝ち目があるかどうかはわかるし、とりあえず解析の射程範囲にまでちかづいてみるか。


 そして目的地である商業ビルの側に近づくと、


<解析完了しました。中に居る魔物は3体。一体は『サキュバス』、もう一体は『王者スライム』、そして『狼男』です>


(強さはどの程度だ?)


<大したことはありません。『仮想演算』の結果、賢治様一人でも勝率は90%と算出されました>


 よし。勝率9割なら、良いだろう。

 

(他には居ないのか?)


<はい、3体だけです>


 ……よし、行こう。


 覚悟を決めて、扉を蹴破った。


「あんた達がこの街を仕切ってる『ダウナーズヘブン』か?」

 

 部屋に転がり込むと同時に声をあげた。


 すると、部屋の中に居た3体の魔物達は、キョトンとした目で俺を見てきた。

 

「はぁ……? あなたは誰ですか?」

 チャイナ服を着ているサキュバスが口を開いた。

 彼女はサキュバスって割りにはなんだか真面目そうな顔をしていた。

 なんだろう、本当に何が起きているのかわからないって様子だ。


「……あんたはダウナーズヘブンのリーダーである『サキュバス』の『ランラン』だろ?」

 

「違います」

 彼女は即答した。


「え?」


「わたしは『足立区を救う会会長』の『リンリン』です。『ランラン』はわたしの姉です」


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