現状把握
部下0人。
仲間0人。
残金500万円。
子爵の爵位。
足立区の支配権。
……それと俺の体。
それが今の俺の持っているものだ。
何をするにもまず必要な、『仲間』すら居ない。
しかし、みんな死んだわけじゃない。
ダンジョン協会に所属していた頃の仲間たちは今、東京拘置所に収容されている。
それは、戦闘能力のある人間は魔物たちに危険視されているからだ。
万が一にでも『革命』を起こされないように、俺以外のダンジョン協会所属
助け出したいところだが、拘置所のある『葛飾区』は俺の領地じゃない。
勝手に入れば、殺されるだろう。
俺一人で挑むのは良くない。となると、一番最初にやるべきことは……
(メタトロン。俺は子爵として、この領地を治めるべきだと思うが、どうだ?)
<正しいご決断です。賢治様>
今、一応は俺の領地である足立区だが、実際は統治などできていない。
現在の社会では、領主は街に暮らす人間と魔物たちから税収を得るのが普通だ。
が、俺はそうじゃない。そして、俺は統治者としての努力もしてこなかった。
そのせいで足立区の治安は最悪だ。
奴隷である人間たちのほとんどが死ぬか、この街を出ていってしまい、社会システムはほとんど停止している。そのせいで一層治安は悪化するという悪循環だ。
俺には一応爵位があるから、それを利用すれば、部下を作ることも可能だろう。
そのためにまず……今日は外に出よう。計画を練るのは、この街の現状を知ってからだ。
長らく引きこもっていたせいで、今の街の状況には全然詳しくない。
仲間になってくれそうな人間を探すためにも、家の外に出て、現状を把握しなきゃいけない。
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マンションの外に出ると、街にはゴミが散乱していて、それを漁る魔物の浮浪者の姿が見えた。
外見は人の形をしたトカゲのような魔物。たしか、リザードマンってやつだ。
ただ、奴の目は虚ろだ。
そして時々、壊れた機械のようにまったく動かなくなったりする。
(メタトロン、どうなってる?)
<解析中…………完了。
脳機能に異常が確認されました。
彼らは何らかの薬物の影響下にあるようです。気をつけてください>
(分かった)
薬物中毒の魔物……なるほど、世紀末状態だな。
ルシファーがもたらした唯一の恵み『基底言語』のおかげで、魔物と会話することは可能だが、あの状態じゃ話を聞くことはできそうにない。
誰かまともなヤツを探そう。
そう思って、俺はショッピングモールを目指した。
それなりに大規模だし、そこなら人も集まるだろうから。
予想は的中した。が、目的は達成できそうになかった。
「うう……ああ……」
「クスリ、金……」
(酷いな)
ショッピングモールに居るのも、先程遭遇したリザードマンのような薬物中毒の魔物たちだった。
動くは鈍く、もはやほとんど知能が残っていないように見える。
だが、中にはまだそれなりに知能が残っているように見えるやつも居る。
話を聞くこともできなくはなさそうだ。そう思って、誰に話を聞くか見定めていると、
(……なんだ、あれ?)
ショッピングモールの一階のイベント広場に、奇妙な機械が設置されているのを発見した。
自動販売機に似ているが、ボタンは一つしか無く、金の投入口と、あとはカードのスキャナーのようなものがあった。
そして、大量の魔物がその機械に仲良く並んでいた。
ほとんどが人型の魔物で、全員目が虚ろだった。
俺は、柱の陰に隠れてその様子をしばらく観察していた。
そして一番戦闘に立っていた狼男はマイナンバーカードをスキャナーに通し、1000円札を投入口に入れた。
「ぴぴぴぴッ! ザンネンデシタ! マタノチョウセンヲオマチシテオリマス」
なんだかムカつく声が自販機から響いたと思うと、「クソ……」と、狼男は声を漏らしながらさらに金を投入した。
……なんだあれ? 何をやってるんだ?
「ぴぴぴぴッ! ザンネンデシタ! マタノチョウセンヲオマチシテオリマス」
狼男は何度も何度も金を挿入するが、やはり結果は変わらない。
10回ほど繰り返すと、金が尽きたらしくて、その機械を蹴りはじめた。
「ふざけんなっ! くそっ! 10回連続でハズレなんてありかよ!」
「ばーか、最初から1万円いれてれば11連ガチャが引けたのによぉ」
順番待ちをしている魔物の誰かが声をあげた。
……11連ガチャって、ソシャゲみたいなこと言ってるな。
もしかしてあれ、ガチャなのか? それにしても、一回千円って、結構な金額だな。
「うるせぇ、殺すぞ」
狼男はそう言って、また自動販売機……いや、ガチャに蹴りを入れた。
「くそっ、くそっ」
「おい! 馬鹿野郎! やめろ!」
「うるせぇ、この機械が悪ぃんだよ!」
「壊れたらどうなるか分かってんのか? 俺たちまで『フォーリンラブ』が手に入らなくなるんだ」
「知ったことかよ!」
狼男は、ガチャを外した腹いせにそれを壊すつもりらしかったが、列に並んでいる魔物達がそれを許さなかった。
ヤバい目つきをした魔物達が一斉に狼男に飛びかかったと思うと、一瞬でボコボコにした。
そして、狼男は死んでマナに分解され、並んでいる別の客がガチャに金を入れ始めた。
「ぴぴぴぴッ! ザンネンデシタ! マタノチョウセンヲオマチシテオリマス」
(……なんだよ、これ……)
<賢治様、解析の結果、あの機械の中には薬物が入っているようです。
一回に千円で抽選が始まり、当選したら薬物が手に入るシステムのようです>
(薬物……なるほど、そういうことか。それで薬物ってのは具体的にはなんなんだ?)
<薬物の主成分はヘロインです。が、それだけでは無いようです。
混ぜものの原材料は不明、色彩は薄いピンク色で、先程の客の発言から判断するに『フォーリンラブ』という名前だそうです>
(わかった。ってことは、これはフォーリンラブを売っている『ガチャ』ってことだな)
……それにしても、魔物たちがこんなに必死になってるってことは、かなりの中毒性があるらしい。
そしてどうやら、この足立区の問題が何なのか見えてきた。
麻薬は人間を腐らせる。(今回の場合は魔物だが)
そして、そこに暮らす人間が腐れば、街もだめになる。
この街に蔓延している問題は色々あるが、おそらく、その元凶になっているのはこのクスリだろう。
(メタトロン、この悪魔の機械を作っているヤツを突き止めるぞ)
<了解しました。賢治様>




