急変
銀炭について、覚えているだろうか?
俺自身はすっかり忘れていた。
俺が禁区から持ち帰ってきた新素材だ。この一年間、様々な研究機関によって、その素材としての特性が研究されていたわけだが、今のところとくに成果らしい成果はなかった。
……が、今になって突然事態が急変したらしい。
ミカンのところに電話をかけてきたのは、その素材について研究をしている施設からで『突然、銀炭の性質が変化した』とのことだった。
それだけで驚きだが、事態は驚きだけで済まされるものではなかった。
銀炭が突然発現した性質は2つあり、一つは『周囲のマナを活性化させる』こと。そしてもう一つが『少しずつ増殖している』ことらしい。
一晩のうちに、突然銀炭は大量に増殖し、研究所を破壊してしまったらしい。
銀炭は風にのって各地に広がり、そしてまた増殖している。
<現在の増殖ペースだと、ちょうど1月と4日ほどで地上は銀炭に埋め尽くされることになります。ただし、銀炭の増殖が今になって急に始まったことを考えれば、どこかのタイミングで突然増殖が止まることもあるでしょうから、確実とは言えませんが>
とのこと。
しかし、問題はそれだけじゃない。
マナを活性化させる性質のある銀炭で地上が埋め尽くされればどうなるか?
それは、この世界もダンジョンの中と同じような場所になってしまうということだ。
ダンジョンに生息している魔物達は、マナが不活性化してしまうこの地上では生きていけない。
しかし、銀炭があれば話が別ということになる。
つまりこれは、非常に深刻な問題だ。
しかも、俺には銀炭をこの世界に持ち込んだ責任がある。
なんとかして解決しないとまずい。このままだと俺は、とんでもない大戦犯になってしまう。
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ミカン達や、銀炭を研究している『特殊素材研究所』の人たちと協議した結果、突然銀炭が性質を変化させた原因を突き止める必要がある、という結論に至った。
となると、どこに向かうべき場所はひとつ。
銀炭を採取した場所である『禁区』だ。
極めて危険だというのは理解している。
未だに、あの『黒い騎士』の姿を思い浮かべるだけで、背中に寒気が走る。
だがしかし、悲観的になるのは早すぎるかもしれない。
ゴールドストーン狩りをしたお陰で、以前の俺とは桁違いに強くなったわけだし、今度はいくらかマシになった可能性もある。
考えてみると、あの時、黒い騎士が俺たちを見逃すような真似をしたのは、『銀炭』をわざと持ち帰らせるためだったんじゃないか? という推測も成り立つ。
……ともかく、選択肢は無い。
銀炭があった場所が禁区である以上、それをどうこうする
今はメタトロンの『空間認識』という能力もあるし、禁区を改めて調査するリスクは以前と比べればぐっと低くなっているはずだ。
覚悟を決めて、俺は再び禁区の入り口がある『忌呪怨念神社』へと向かった。
ちなみに、同行しているのは幹人、ミカン、凜音のフルパーティだ。
全員が全員、今回の一件にはそれなりに関係があるし、知らんぷりはできない。とのことだった。
まあ、仲間は多いほうがありがたい。なにより、あの不気味なダンジョンに一人で行くなんて、絶対に嫌だったしな。
「ともかく、今回の捜索では『黒い騎士』と鉢合わせにならないように動こう。
実力差がどの程度あるのか不明だし、もしかしたら勝てるかもしれないが、そこまでのリスクは犯せない。良いな? 見かけても、逃げるのを優先する」
「了解っス!」
「はい!」
「わかりました」
そんな約束をしてから、ゲートをくぐった瞬間だった。
「「え」」
俺たちの目の前に、黒い騎士の姿があった。




