ようやくダンジョンに?
ダンジョン協会を訪れた日、俺は一度会社に戻って、部長と少しだけ話しをした。
これから暫くは会社を休みがちになるだろうが、仕事は問題なくこなすつもりだ。と告げると、渋々ながら許可を貰えた。
まあ、もしも断られたら別の『条件の良い会社』に移るかもしれない。って話をチラつかせたから、交渉というよりかは半ば脅しだったが、お陰でうまくいった。
翌日、幹人から無事にダンジョン協会の入会試験にパスしたという連絡が来た。
試験の中に健康診断も含まれていて、心配されていた心臓も、全く問題ないらしい。
俺は朝一で会社に出社してから必要な仕事を一時間で終わらせると、すぐにダンジョン協会に向かった。
「師匠。それで今日はどこに行きますか?」
顔を合わせるなり、幹人はいきなりダンジョンに行きたがった。
よっぽど自分の力を試してみたいらしい。まあ、気持ちは分からなくもないが。
「ミカンの意見を聞こうか。彼女が副会長だしな」
「それもそうですね。じゃあ、彼女の執務室に行きますか?」
「いや、その必要はない」
ミカンがこのオフィス内にいるなら、十分思念会話が可能な範囲内だろう。
(ミカン、聞こえるか?)
そう思って、心の中でミカンに話しかけた。
(二宮さんですか? どうしたんですか?)
予想通り、ミカンから返事が帰ってきた。
(今から幹人とダンジョンに行きたいんだが、今はどういうシステムでやってるんだ?)
(それなら簡単です。ダンジョン協会員の専用アプリがあるので、それをインストールしてください。アプリ内に『ダンジョンデータ収集』『特定素材の収集』『特異級の討伐』などの依頼リストが記載されているので、あとはデータを元に自分で好きな仕事を選んでください)
(アプリなんて作ったのか。やっぱり儲かってるみたいだな)
(あはは、まあそうですね。と……その前に、二宮さんは協会員カードを発行してないので、そちらが先ですね。発行が終わったらオフィスに届けさせるので、それまで待っていてください)
(ああ分かった)
「二宮さん。さっきから黙り込んでどうしたんですか?」
ミカンと思念通話で話していると、幹人が不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
ああ、幹人には結魂について説明しないとな。そう思った時、
「……あ、もしかして『結魂』の力ですか!?」
幹人から以外な答えが返ってきた。
「え? 知ってるのか?」
「もちろんですよ! 今のダンジョン協会じゃ、パーティを組む場合は結魂が必須ですからね」
「そうなのか。それなら話が早いな」
ということで、幹人とも結魂の儀式を行った。それでもまだ会員証の発行が終わらなかったから、軽くすぐにメタトロンの解析で幹人のステータスを確認してみると、
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悪道幹人 マナ総量:0
基礎ステータス
力:100
体力:87
技術:15
素早さ:10
魔力:30
魅力:50
運:1
残ステータスポイント:0
残スキルポイント 0
ユニークスキル:『ブレイカー』:『防御力無視』
スキル:
取得可能スキル:バーサーク 鋼鉄の体 滑舌向上……その他15種
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なになに。ほお、既に力が俺より高いな。
しかし運の悪さは遺伝するのかな? 凜音とまったく同じで1しかない。
ま、結魂すれば運はパーティ内で平均化されるからさほど心配する必要もないだろう。
そうこう考えているうちに、事務員がオフィスにやってきて、俺に新しいダンジョン協会の会員証をくれた。会員証にはQRコードがあって、どうやらそれをアプリで認識させると、会員として認証されるらしい。
アプリをダウンロードして認証を済ませると、まず自分の協会員ランクが表示された。
俺のランクはD、当然、協会に入ったばかりの幹人はFだった。
更に少し触ると、ランク毎に受諾可能な依頼があり、それを引き受けてから目的のダンジョンに向かうシステムらしいことが分かった。依頼内容はほとんどがダンジョン内で獲得可能な資源の納品依頼だ。
俺が居た頃はダンジョンで取得した素材は勝手に自分の物にしてよかったが、現在ではどうやら違うらしい。獲得した素材は協会が一度買取って、その対価として報酬を受け取る。協会に手数料を取られる分、報酬は以前よりも少なくなるが、基本給の支給や、税金・保険の問題を協会側が一様に対応してくれるようになっているみたいだ。
まあ、俺は別にそんなに金が欲しいわけでもないから、面倒が減るのはありがたい。
そう思いながらアプリ内の依頼リストを眺めていると、
<初心者限定!>
という項目があるのを発見した。
俺は初心者じゃないが、幹人は完全に新入りだし、この項目から依頼をさがした方が良さそうだな。
そう思って項目をタップすると、1つの依頼が表示された。
1つ目は『サイレントストーンを討伐して、マナトリウムを納品する』だった。
うわ、懐かしいな。
サイレントストーン狩りが初心者の定番依頼になってるのか。
確かに、安定してマナを稼げるから、初心者には向いてるのは間違いない。
そう思ってアプリを見ていると、
※ただし最近はサイレントストーンの数が減っているので、狩りすぎに注意。一人最大10体まで。
との注意文があった。
(へー、魔物って狩りすぎると絶滅することもあるんだな)
<過去の文献にも、そのような記載がありました。非常に稼ぎの効率が良い魔物は狩りすぎると絶滅してしまうのです。かつてはダンジョンはもっと効率の良い狩場も沢山あったそうなのですが、調子に乗った人間によって魔物が狩りつくされてしまい、『出涸らし』のようなものになってしまったそうです>
(けど、出涸らしじゃないダンジョンもまだまだ探せばあるってことだな)
<その通りです>
(あの、それなら早速『ちいさなダンジョン』に行きましょうよ! 僕も早く魔物を狩ってみたいです!)
幹人は我慢しきれない、という様子で口を挟んできた。
うーん、やっぱり若いな。情熱に満ちているじゃないか、羨ましい。
(そうだな。そうするか)
そんな熱に水をささないように、俺は席を立ち上がった。
そして俺は幹人の装備を見繕ってから、昔なつかしのサイレントストーン狩りに向かった。




