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ダンジョン協会の今

 あれれ? おかしいな。ダンジョン協会の住所が変わってる。

 と、幹人に案内されている最中に気づいた。


 元々ダンジョン協会は東京でも北の外れにあるはずだった。


 だが、俺たちが向かっているのは東京の都心部だった。

 

 そして到着したのは新宿のとあるビルのワンフロア。そこが新しいダンジョン協会東京本部の住所だった。


 自動ドアをくぐって中に入ると、開放的で洗練された空間が俺たちを待ち受けていた。


 大量の観葉植物。なんだかオシャレすぎて機能性を失っているように見えるへんてこな椅子。そして私服で和気あいあいと働いている若者たち。


 なんだかちょっと緊張するくらい、高級感の漂っている場所。まるで新進気鋭のベンチャー企業のような雰囲気だ。


「あれ?? もしかして二宮賢治さんですか?」

「そうだよ、間違いない!」

「すごい、本物だ!」


 若者達は、俺の姿を見て、なんだか少しテンションがおかしくなった。

 まるで芸能人でも、見つけたみたいな態度だ。

 ……なんで俺なんかをみてテンションをあげてるんだか。


「なあ、君たち。ミカンを知らないか?」


「ミカン? もしかして、副会長のことですか?」


「ああ」


「ちょっと待っていてください」

 そう言って、一人の女の子がオフィスの奥に消えていった。

 少しすると、スーツ姿のミカンがやってきた。


「こんにちは。二宮さん」


「ミカン……君はスーツを着てるのか。みんな私服なのに」


「はい。一応はダンジョン協会の顔ですから」


 ミカンはなんだか少しだけ雰囲気が変わっていた。

 前までは快活そうなスポーツ選手っぽい雰囲気だったのに、今はできるOLというか、秘書みたいな感じだな。

 髪の毛も、少しだけ伸びている。大人っぽくなったな。


「あの、ミカンさん。今日こそ正式ダンジョン協会に入りたくて」

 幹人が言った。


「うーん、でも、良いんですか? 二宮さん。凜音ちゃんはダメって言ってますけど……」


「健康そうだし、本人の夢らしいからな。良いだろ」


「そうですか。二宮さんが言うならまあ……わかりました」

 ミカンはうなずいて、幹人の方を見た。

「一応、身体機能のテストを受けてもらうけど、良いかな?」


「もちろんです! はい! 何でもします!」

 幹人は嬉しそうに何度もうなずいた。


「よし。それじゃあ幹人君は向こうの第一面会室に行ってね。その間に二宮さんはこっちでちょっと……」


「ん? 俺に話?」


「はい」


 なんだろう。よくわからないが、幹人は採用担当らしいスーツの男に連れられて別室に行ってしまった。

 俺はミカンの後をついていって、小さな面談室に入った。


「それにしても、こんなにきれいなオフィス。よく借りられたな」

 部屋の中を見渡しながら、俺は言った。

 

「ダンジョンブームの真っ最中ですからね。スポンサーもついてくれましたし、資金面では以前とは比べ物になりませんよ。本当に」

 フフン、とミカンは自慢げに鼻を鳴らした。

 

 本当に、たった一年で大した変わりっぷりだ。以前は公民館みたいな場所に本部を構えていたのに、何もかもが以前とは違う。


「今は何人くらいが所属しているんだ?」


「ダンジョンに出向く戦闘要員は100人ほど。事務仕事のために採用しているのが100人ほどですね。昔は東京本部しかなかったんですけど、今は全国各地に支部ができているんですよ」


「そうか。そりゃすごい」


「二宮さんが作ってくれたデータベースのお陰で、ダンジョンでの事故率も減って、この一年での死者0ですよ! そのおかげもあって、どんどんダンジョン協会に入ってくる人が増えているんです。そのせいで、入会のためにテストをするようになってるんですよ」


 ああ、そういえば、ダンジョン協会から距離を取る前に、協会にあるデータを元に完全なデータベースを構築していたな。それが役に立ってくれているみたいだ。


「データベースか。あれは俺じゃなくてメタトロンが作ったようなもんだよ」


 以前はダンジョンの難易度はおおまかに管理されていたが、<ダンジョンの難易度を正確に把握できれば、死亡事故はかなり少なくなるはずです>というメタトロンの提案で、厳密に数値化することにしたんだ。(もちろん、全てのダンジョンのデータがあるわけじゃないから、完璧じゃないが)

 

 ダンジョンの難易度はFからSまでに分類され、例えて言うと、サイレントストーン狩りで利用した『ちいさなダンジョン』は難易度F。ドラゴンと遭遇した白花ノ獄は難易度Dになっている。

 それに(ともな)って、それぞれの人間の実績から現在の適正ランクを割り出す数式も作成した。(ちなみに、俺の適正ランクはEだ)


 もちろん、データが十分とは言えない以上、それで完全には判断できないが、それでも目安となる指標があったほうが色々便利だろうというアイデアだったが、うまく機能しているみたいだな。

 

「ともかく、それでまたお願いが有るんですけど、二宮さんにはまたダンジョン協会に戻ってきてほしいんです。以前は歩合での給料しかありませんでしたけど、今なら相当額の報酬を用意できます」


「なんだ、そんなことか。もちろん良いよ」

 どうせ幹人の保護者としてしばらくダンジョン協会に身を置くつもりだったし、むしろこっちからお願いする予定だったが、話が早いな。


「え、良いんですか?」


「もちろんだよ。実は最近退屈しててさ、ちょっとここに戻りたくなってきていたところなんだ」


「助かります!」

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