ひさしぶりに
「お久しぶりっス。先輩」
待ち合わせの喫茶店で待っていると、凜音が大声で叫んで俺の席に向かってきた。
なんだか、妙な感じだ。
一年近く会ってなかったからかな。
彼女はまずパフェを注文して、俺はランチセットを頼んだ。
昼飯にパフェなのはどうかと思うが。ジェネレーションギャップって奴だろう。きっと。
「「………………」」
品物が届くまでの間は、なぜだかちょっと沈黙があった。
気まずいというか……変な感じだ。ダンジョンに居る時はさほど気にもならないが、一回り年下の女の子と同じテーブルに座るのって、なんだかいけないことをしてる気分になる。
それでもやがてパフェがテーブルに運ばれてくると、凜音はそれをすぐに口に運んで
「故郷の味っス!」
と、感動したように笑った。それでようやく場の空気が少しだけ柔らかくなって、話をしやすいムードに。
「凜音はちょっと焼けたみたいだな」
「そうっスね。向こうは日差しが強くて」
「幹人君の体調はどうなんだ?」
「バッチリっス。お医者さんも驚くぐらいの回復っぷりっすよ」
そう言った時の凜音は、神妙な顔だった。なんだろう。回復が早いのは良いことだろうに。
「なんか問題あり、なのか?」
「そうなんス。それで困ったことがあるんスよ」
凜音はそう言って、パフェを食べる手を止めた。
「困ったこと?」
「幹人のやつ、ダンジョン協会に入りたいって言って、聞かねーんス。困ってるんス」
「……おいおい、心臓の手術をしたばかりなんだし、そんな無茶は絶対だめだろ。ダンジョン協会になんて入らせるなよ。健常者でも一年以内に半分が死ぬんだぞ」
流石に心臓移植の手術をしたような人間が、ダンジョンに挑むのは正気じゃないだろう。
ダンジョンのお陰で命を救われたからっていうのも有るんだろうが、折角助かった命のなのに、無駄遣いするような真似はやめてほしいところだ。
「そうなんスけど……ていうか、もう……ダンジョン協会に入り浸ってるみたいなんス。まだ正式に登録はしていないみたいっスけど、時間の問題で」
「なんで止めなかったんだ?」
「だって、無理やり止めたりしたら幹人に嫌われちゃうっス」
凜音はそう言って、俺の手をぎゅっと握ってきた。
「だから、二宮さんから言って欲しいっス! 幹人は二宮さんのことを尊敬してるんで、きっと話も聞いてくれると思うんス」
「なるほど、それで呼び出したのか……」
面倒事に巻き込まれてしまった。
が、元気になった幹人君にも会ってみたいし、最近なんだか退屈していたところだ。
そんなに悪くないのかもしれない。
「分かった、なんとかしてみるよ」
「本当っスか? ありがとうっス! じゃあ今からここに呼びますね」
「え? 今から?」
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一時間ほどして、一人の少年が店内にやってきた。
……おかしいな、アレじゃないよな。そう思っていたが、一直線にこちらに向かってくるから間違いなく、アレが幹人君なんだろう。
「……幹人くん、久しぶり。随分大きくなったな。というか、本当に幹人君なのか……?」
一年前に会った時の幹人君は、線が細い文学少年的な感じだったはずだが……今の彼は、なんていうか、ボディビルダーというのが近いかな。
体つきがともかくすごい。筋骨隆々のムキムキマッチョ。成長期なのか、身長もすでに俺より若干高いし。身体能力だけみると、すさまじそうだ。
顔つきが変わっていないのがなんともアンバランスで、ちょっと不気味ですらある。
「二宮さん! お久しぶりです!」
ガシッ!
と、力強い握手。
「ああ、久しぶり。もしかしてその体……もう随分と冒険しているのかな?」
「いえ、ダンジョンには入ったことは無いですけど、毎日筋トレばかりしていました! 実は、二宮さんに弟子にしていただきたくて!」
「いや、その……」
うーん。話の流れがおかしいな。
本当なら断るはずだったんだが……どう見ても俺よりも健康体に見えるし、別に断る理由もないか?
「医者はなんて?」
「健常者以上だって言ってもらってます! 宇宙飛行士にだってなれるって」
「そうか分かった。なら良いよ。でも、俺なんて別に大したこと無いぞ」
「ちょ、先輩! 何言ってるんスか! 幹人のこと説得してくれるって約束だったじゃないっスか!」
凜音がテーブルを叩いた。
「だって、俺より健康そうだし、医者が問題ないって言うなら、本人の自由だろ」
「そんなぁ……」
というわけで、申し訳ないが凜音の期待に沿うことはできなかった。
まあ、幹人を弟子にしておけば、一人で放っておくよりは安心できるし、そんなに悪くないだろう。
「じゃあ二宮先生! 今からダンジョン協会に行きましょう!」
そして、俺は幹人の力強い手に引っ張られて、ダンジョン協会に向かうことになった。




