とりあえずは?
「いやーご心配おかけしましたっス!」
凜音の容態が安定した、という報告をされた翌日には、彼女は完全に回復した。
元気ハツラツで、入院していたというのが信じられないほどだ。
退院の手続きを済ませると、俺と凜音とミカンの三人で、一度ダンジョン協会に戻ることにした。
凜音は、「次のダンジョンに行きたいっス!」と言っていたが、病み上がりということもあるし、無茶はさせられない。
それに、あのドラゴンがドロップした3つの品についての相談もしなくちゃいけなかった。
俺は凜音とミカンの二人に、『ドラゴニウム』と『アイス槍』『技能結晶』のことを説明した。
「なら、ウチはドラゴニウムが欲しいっス」と、凜音は即断した。彼女の目的は金だから、当然の選択だろう。
「なら私は武器にします」
ミカンはアイス槍を選んだ。
そして俺は、必然的に残り物の『技能結晶』を受け取ることになった。
ただし、技能結晶についてはミカンも使われたのを見たことも、聞いたことも無いらしい。
本当にユニークスキルを獲得出来るのかな? ていうか、こんなガラス玉みたいなアイテム、どうやって使うんだ?
<文献によると、技能結晶は握りつぶすことで使用が可能だそうです>
メタトロンの言葉を聞いて、早速俺は技能結晶を神の風呂敷から取り出して、両手で思いっきり握った。
……けど、中々砕けない。硬いな、これ。
「フン、ギギギッ!!」
中腰になって、更に全身の力を込める。
「ふぬんうぬぬぬぬうううううう!」
……あれ? おかしいな。全然砕ける様子が無いが……
<賢治様、お待ち下さい。たった今技能球を解析し、仮想演算にかけた結果、ステータスの『力』が500以上は無いと破壊できないという結論に至りました>
(え、500って……全然足りないぞ。俺、力はたしか100も無かったよな)
<残念ながらその通りです>
がっかりだ。折角期待していたんだが……
(そうだ、道具を使って壊したらどうかな?)
<文献には『素手で壊すように』とハッキリ書かれていますから、道具を使うのはまずいでしょう>
なんだそりゃ……俺だけ損した気分だ。
(なあミカン、やっぱり交換しないか?)
と、ミカンに交換を持ちかけたが、
(ダメです)
あっさり拒否された。
@
その後、俺たちは3週間でいくつかのダンジョンを巡った。
だが、白花ノ獄で得られた程の成果は無く、低空飛行が続いた
ただし、ダンジョンについては良くないことが続いたが、良いこともあった。
まず第一に、これは予想通りのことだが、凜音がドラゴニウムの売却によって1億円を手に入れたことだ。売却には若干手続きが必要になり、2週間ほどのタイムラグがあったが、なんとか無事に売却に成功し、現金を手にいれた。
そしてもう一つ、禁区で拾った未知の物質を預けていた研究所から返事がきた。
新物質であることの確証がとれ、無事に現金を支払ってくれる運びになった。
当初の約束は2億円だったが、それではあまりに少額だから、ということで10億の報奨金を受け取ることになった。
これで凜音が『幹人』の心臓移植手術のために必要としていた2億円は十分に工面できたことになる。
つまり一気に問題解決だった。驚くほどあっさりと、棚からぼたもち的な終わり方だったが、これで人の命が救われるなら、まあなんでも良いだろう。
そして今、俺は凜音の頼みで、2億円を集める理由である『幹人』と会って話すことになった。
実は前々から『一度会って欲しい』と、凜音から言われては居たんだが、恩義せがましい感じになるのが嫌で、目的達成までなんとか断り続けていたんだ。
が、金を工面できた今となっては、面会しない理由もない。
「あなたが二宮さんですね。姉さんから話は聞いてます」
病室のベッドの上に横たわっていたのは、まだ10代前半といったところの少年だった。
声は元気そうで、笑ってくれているが、体はひどく痩せている。
姉である凜音とはなんというか、真反対のタイプだ。生真面目そうで、物静か。
冒険とかには絶対に向いていなさそうな、文学少年って感じだ。
「君が幹人君か。はじめまして」
「本当に、ありがとうございます。でも、びっくりしました。会ったこともないぼくのために、必死になってお金を工面してくださるなんて……」
「良いんだよ。別に、やりたくてやっただけだから」
「謙遜しないでください。ぼくは、あなたのことを本気で尊敬しているんです。見ず知らずの人のために、ここまでしてくれるなんて……本当に、あなたはヒーローです」
……なんだか、こっ恥ずかしい気分になる。
面と向かってヒーローだなんて。けど、悪い気分じゃない。
「手術はとても怖いですけど、二宮さんのことを考えて、きっと乗り切ってみせます」
「そうか」
「本当にありがとうございます。本当なら、ぼくはもうすぐ死んでしまうはずだったのに……」
気がつくと、幹人と凜音は二人とも泣いていた。
……なんだか気恥ずかしくて、「それじゃあ手術の時も頑張ってくれ」とだけ言い残して、俺は病室をあとにした。
これにて、第一部は終了です。
ここまでお付き合いしてくださり、ありがとうございました。
誤字報告、ブクマ、評価等々、大変ありがとうございます。おかげでなんとかここまでたどり着く事ができました。今後についてはまだ未定ですが、モチベーションが続けば第二部へと続ける予定です。




