表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/37

戦いの末に

 ドラゴンとの戦いは、かなり長く続いた。体感時間だとおよそ30分か、それ以上だろう。


 ミカンがひたすら回避に専念し、俺と凜音が隙をみて攻撃を仕掛ける。


 一撃食らったらアウトな以上、あまり深追いすることも出来ないから、完全な一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)の戦いだ。


 そのうえ、あまり本気で攻撃しすぎると、俺たちがヘイトを集めてしまい、ドラゴンの攻撃対象が変わってしまう。そうならないように、攻撃はある程度手加減する必要すらあった。


 強敵相手に手加減しながら戦うってのは奇妙なものだが、それをやっただけの価値はあった。


「ギィ……ギィ……」


 ドラゴンの肉体には、既にダメージがひどく蓄積していた。

 両翼はズタボロで、まともに空を飛ぶこともできない。そして、出血のせいだろうか、動きも鈍い。


(そろそろトドメを刺そう。ミカン、また君にまかせても良いか?)


(任せてください)


 ミカンはそう言って、ドラゴンの遥か頭上に飛び上がった。


「『超重化』!」


 ミカンの手に持ったタダでさえ重そうな巨大な斧が、隕石のように落ちてくる。


 そしてドラゴンの頭に直撃すると、ドラゴンは頭を雪に(うず)めて完全に動かなくなった。


 けれど、油断はできない。そう思いながら様子を伺っていると、ドラゴンの体はマナに分解され、俺達の体の中に入っていった。


「やったっス!」

  

 凜音の叫びで、俺もようやくそれを理解した。

 勝った! 勝ったんだ! そう思うと同時に、凜音がバタリと倒れこんでしまった。


「さ、寒いっス……」


 戦っている最中はそんなことに気づく余裕もなかったが、凜音の顔面は蒼白だった。


「大丈夫か! 凜音!」

 

 凜音を抱き起こすと、その体は驚くくらい冷たい。

 生きているのが不思議なくらいだ。


 ……どうやら、無理をさせてしまったみたいだ。

 最初から懸念していたことだったが、ドラゴンとの戦いで、思慮の外になっていた。


<凜音様は低体温症を引き起こしています。ただちに神の風呂敷に収納しますが、急ぎ病院に向かった方が良いかと思われます>


(分かった。けど、メタトロン。絶対に凜音を死なせないでくれよ)


<……了解しました。ドロップ品はすでに神の風呂敷に収納してありますので、急いてご帰還ください>


 それから、俺とミカンはがむしゃらになって走った。

 俺たちは今、山の上のダンジョンに居る。外に出てもまだ、下山が残っている。


 ふと、凜音の運が悪いことが頭をよぎった。こんなこと、考えてはいけないと分かっているのに、最悪の事態が頭から離れない。


(くそ)


『ダンジョン協会に入った人間の半分が一年以内に命を落とします』


 ミカンの言葉が、今になって重くのしかかってくる。


 ……もしもこれで凜音が死んだりしたら、責任は俺にある。


 このダンジョンに向かおうと提案したのは俺だし、ドラゴンと戦う覚悟を決めたのも俺だ。


(くそ……おれのせいで……)


(二宮さん、落ち着いてください。動揺すれば、結果はより悪い方向に向かいます)


(ミカン……そうだな。悪かった)


 そうだ。焦ってはまずい。


 実際、俺とミカンだって安全に帰ることができるわけじゃない。


 下山するときには、またあの断崖絶壁を通らないと行けないし、ダンジョンの中には雪男も居る。


 ……落ち着け、俺。


 そう言い聞かせながら、可能な限り早く走り続けた。




 結論から言えば、俺たちは無事にダンジョンから帰還することに成功した。


 さらに下山を終えて、麓の病院にたどり着くと、凜音はすぐに集中治療室に運ばれた。


 症状は深刻、深部体温が下がっていて、予断を許さない状況だった。


 なにか出来ることがあれば良いが、俺に出来ることはない。


 ただ、待つことしかできない。


 ……俺は、馬鹿野郎だ。


 後悔の念が膨れ上がる。


 メタトロンという力を手にして、万能感で無茶をしすぎてしまった。


 そのせいで、このザマだ。


「クソ!」


「二宮さん、病院ですから静かにしましょう」


「……そうだな。ごめん」


「謝らないでください」


 ともかく、今は待つことしかできない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ