白花ノ獄3
ミカンがまず、俺たちの立っている場所に着地すると、その直後に、ドラゴンが谷底から飛び上がってきた。
「キシャァーー!」
そして咆哮とともに、ドラゴンは俺たちの正面に降り立ち、俺たちは崖とドラゴンに挟まれる形になった。
(メタトロン、解析はどうだ?)
<解析中……………完了。
名称:不明
所持マナ:100000M
概要:巨大なマナを内包した魔物。おそらくはドラゴンの一種に分類されるが、体温が異常に低く、体の内部の一部器官はマイナス180℃程度になっている>
(マナ100000M!? やばすぎますよ!)
ミカンはひどく驚いている。ミカンがやばいというからには、危険そうだ。
それに、100000Mっていうと、単純に考えて、さっきまで戦っていた雪男の100倍以上ものマナ量だ。
(逃げたほうが良さそうだが……どうする? 空を飛べる向こうのほうが機動力は高いだろう。逃げ切れるか?)
<少々お待ちください。仮想演算開始……………完了。現時点での逃走成功確率は1%です>
(……逃げられないか。勝つ確率はどうだ?)
<賢治様、その計算をしている余裕は無いようです!>
メタトロンの声と同時に、ドラゴンが動いた。
巨大な口を開くと、吹雪のように白いブレスが口から放たれた。
……さっきのメタトロンの解析から考えるに、あれは、ヤバそうだ。
おそらく超低温のブレスだろう。食らったら、体が凍ってジ・エンドってところだろう。
(みんな、避けろ!)
俺は右に、凜音は左に飛び、ミカンは重力操作を駆使して真上に飛び上がってなんとかブレスを躱した。
(……それで、メタトロン。勝利の確率は?)
<計算中…………完了、勝利確率20%です>
……おいおいおい、20%って、絶望的な数値が出てきたな。
5回戦って、勝てるのは一回だけってことかよ。
……でも。
(20%ってことは……勝てなくはないってことか。逃げるよりも生き残る可能性が高いなら、戦った方が良さそうだ)
(まじっスか!?)
(戦うの!?)
凜音とミカンの二人は驚いている。
<賢治様、ひとつ注意点がございます。ドラゴンの膂力は並大抵ではございません。一撃喰らえば、致命的なダメージとなりますから、ミカン様をタンクとして運用することはおすすめしません>
(分かった。つまり、全員攻撃を喰らわないように動く必要があるんだな)
(そのとおりでございます)
(ならミカン、君は崖際で戦ってくれ。そして『挑発』を使うんだ。その隙をついて俺たちが攻撃する)
<賢治様、話を聞いていましたか? 重装備のミカン様とて、一撃喰らえばそれで終わりです>
(分かってるさ。俺にも考えがあるんだ。そのとおりにしてくれ)
(……わかりました)
ミカンは崖際に着地すると、自らの鎧を叩き、ドラゴンを挑発した。
すると、ドラゴンは彼女に向かって容赦ない突進を仕掛けてきた。
(凜音、俺たちは左右から攻撃するぞ)
(了解っス!)
俺は右、凜音は左から、ミカンに向かっているドラゴンとすれ違うように攻撃を仕掛けた。
ドラゴンの体は、鳥によく似ているが、地上を歩行する際はの姿勢は大きく違う。鳥は地上にいる時には翼を閉じているが、ドラゴンは地上にいるときも、滑空しているときのように翼を開いたままだ。
そうなると、当然、左右から攻撃を仕掛ける場合、狙えるのは翼の先端部分になる。
「どりゃぁ!」
「ていっ!」
俺と凜音は、翼の皮膜部分に攻撃を一発食らわせた。すると、皮膜は少し破れて血が吹き出した。
だが、ドラゴンはそれでも俺たちのことは無視してミカンに向かって突進を続けている。
(そ、それで……わたしはどうすれば?)
(ミカン。飛び降りるんだ!)
(わかりました!)
ミカンは崖に向かって飛び降りた。
ドラゴンもその後を追って崖の方へと滑空していくが、その飛行はやや不格好で不安定。
俺たちがたった今、翼の皮膜部分を切ったからだろう。
(ひぃっ! ひゃぁっ!)
そのおかげか、ミカンはなんとかドラゴンの追撃を躱し続けている。
俺達の中で一番素早さが高いのは凜音だが、空を飛べるミカンの方が崖際という立地を活かした場合、回避能力が高い。それに、敵のヘイトを集めるスキルもあるから、やはり囮として彼女が動くのが適任なのは間違いない。
……ただし、一撃で大ダメージというわけにもいかないから、戦いは長引きそうだ。