白花ノ獄2
最初に遭遇した雪男を皮切りに、俺たちは連続して魔物と遭遇し続けた。
ミカンが前衛として立ち、俺と凜音がそのバックアップをする。その方式で処理を続けた。
ミカンによると、雪男は『結構強い』魔物に分類されるらしいが、三人で相手をしている限り、さほど脅威では無かった。
雪男を倒して時折ドロップするのは、白い毛皮のようなものだった。
メタトロンの解析によると、防具の素材として活用するのに向いているらしい。
(しかし、これが金になるかな?)
(珍しいものには間違いありませんから、意外な値段がつくかもしれません)
(だと良いが)
そんな会話を続けながら、俺たちは白花ノ獄を進み続けた。
しかし、いつまでも地形は変わらない。
白花ノ獄の地形は平原。今まで訪れたことのある場所は洞窟と塔だが、この場合、果たしてダンジョンに終わりってものがあるのか?
今までのダンジョンは何かしらの壁に覆われていたが、この白花ノ獄の場合はそれらしきものは見当たらない。
そんなことを考えながらまっすぐ道を進み続けると、ついにこのダンジョンの『終わり』が見えてきた。
(ここで行き止まりのようです)
(すごいな、下が見えない)
平原の周囲が崖になっていた。
崖の下は底が見えないほど深い。もしかすると、底がないのかもしれない。
なるほど、この崖がこのダンジョンを覆っている壁なのか。
だが……待てよ?
(ミカン、君が重力操作を使ったら、この下を調べられるんじゃないか?)
ミカンは、自分の体重を操作して、体を浮かすことができる。
それなら当然、この底知れない暗闇の一番下まで、ゆっくりと下降することも不可能じゃないはずだ。
(ええーー、この下を調べるんですかぁ!? 無理ですよ無理ぃ!)
(何か面白い発見があるかもしれないだろ? メタトロンはどう思う?)
<それは大変興味深いアイデアです。ぜひとも、どうなるのか知りたいですね>
(えー! 本当にやるんですかぁ……?)
(ミカンさん、女は度胸っスよ)
意見は3:1で賛成多数だった。
ただ、当のミカンはすごく嫌がってる。
しかし、
(わかりましたよ! もう、やれば良いんでしょ!)
ミカンは半ばヤケクソという様子で崖から飛び降りると、ゆっくり闇の中に下降していった。
どんどん姿は見えなくなっていって、やがて、姿は完全に見えなくなった。
(どうだ? 何か見えるか?)
(まだ何も見えません)
思念会話はこういう時に便利だな。
見えなくなるほど距離が離れていても、タイムラグなしに話せる。
(そういえば、凜音。寒さは平気か?)
(ウチは大丈夫っス。戦闘したら、体が暖かくなってきたので)
(そうか、なら良かった)
確かに、凜音の顔色はダンジョンに入ってきたときより、若干赤い。
とりあえず問題はなさそうに見えるが……
(ちょっっ! わわわわわっ! 助けて!)
突然、ミカンの叫び声が脳内に響いた。
(どうした!? 何があった!)
(ドラゴンッ! 多分、『特異級』の魔物です!)
(特異級?)
<わかりやすく言えば、『ボス』と言ったところでしょう>
(それはわかりやすいっス!)
(感心してないで! 今から急いでそっちに戻りますけど……追いかけられてます! 戦う準備をしてください!)
(分かった。捕まらないように、気をつけて戻ってきてくれ)
俺と凜音は武器を構えた。ドラゴンって……勝てるのかな?
(メタトロン、戦う前に手短に聞いてきたいんだが、特異級ってなんだ?)
<特異級とは、文字通り、通常の魔物とは異なる性質を持つ魔物です。各ダンジョンに一種類のみ生息しているのですが、そのダンジョンに生息する他の魔物とは一線を画する強さを持ちます。また、一度倒されると、スポーンするまで数十年から数百年規模の年月が掛かるため、滅多に遭遇することはありません>
(他の魔物とはどれくらい差があるんだ?)
<場合によるのでなんとも言えませんが、油断は禁物です。解析を終えて、危険と判断した場合、即座に逃げることを推奨します>
……なんだか、不味いことになった感じか?
(凜音、メタトロンが撤退の判断をしたら、即座に煙幕を頼むぞ。その後は、全力で逃げる。良いな?)
(分かったっス)
(そろそろ着きます! 気をつけて!)
ミカンの警告と同時に、暗い崖下から巨大な翼を持った怪物が姿を表した。