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ダンジョン協会へ

 ダンジョン協会東京本部は、東京も北のはずれにあった。

 

 ギリギリで都内に入る境界線上、俗に言うベッドタウンの小さな一軒家。


「……ここ、だよな」


 入り口の大きな木戸の横には『ダンジョン協会東京本部』と書かれた木製看板があるし、間違いない。


 けど、建物の外観は古い公民館みたいな感じ。築100年くらいは経ってそうだ。


 本部なのにこれなのか? と、聞き返したくなるレベルでボロボロだった。


 俺のアパートの方がまだ外観は綺麗だ。扉は木製だし、蹴ったら簡単に壊れそうだ。


「し、失礼しまーす」


 扉に手を掛けて開いた。すると、中は想像とは少し違う光景が広がっていた。


「……へー凄いな」


 壁中に武器防具が飾られていた。甲冑、鎧、剣、斧、槍、弓……古今東西、多種多様な武器が揃っている。それに、どれもかなりの一品なのが素人目にもわかるくらい、異様な重圧感を放っていた。


 どうやら、ダンジョン協会ってのは本当らしいな。


「あれ? もしかしてさっきの人ですか?」

 さっき公園でビラを渡して渡してくれた女の子が、ふすまの向こうからあらわれた。


「ん? ああ、どうも。ちょっと話を聴かせて貰いたくて立ち寄ったんだ」


「そうなんですか! ありがとうございます! 私、『爪田蜜柑(つめだみかん)』って言います。ダンジョン協会には入ったばかりですけど、なんでも質問してください!」


 彼女は俺の手を握ってニコニコ笑い始めた。

 俺みたいなオッサンが来ただけでこんなに喜ぶなんて……どうやら、人手不足がよっぽど深刻らしい。


「ダンジョンってさ、中に入ってモンスター達と戦うんだろ? 俺みたいな素人でも平気かな?」


「えーっと……それは……」

 彼女はいきなり言い淀んだ。

 

「……大丈夫じゃないってことか」


「ま、まあ、しっかりと訓練をすれば平気ですから!」


「そんなに危ないのか?」


「正直言うと、危ないですね……かなり」


「どれくらい?」


「えっと……ダンジョン協会に入った人間の五割が一年以内に死にます」


「え……それは……」


 なんだそれ、ブラックどころじゃないぞ。 


 ……やっぱり、人が集まらないのには、集まらないだけの理由があるんだな。


 世の中そんなに甘くない。別の仕事を探すか……


 そう思ってミカンに背を向けると、


「で、でも、大丈夫ですからっ! 私が全力でサポートしますし、とってもやりがいのある仕事なんですっ!」


 ガバッ!


「うわっ! 抱きつくな!」


「お願いですー! ちょっとだけですから、お試しだけしましょうよー!」


「そんなこと言ったって……」


「そうだ! あなたのユニークスキルを調べてみませんか?」


「ユニークスキル?」


「そうです! 人はみんな、一つだけ特別なスキルを持っているんですよ。それがもしもすっごく強いスキルかもしれませんよ。ね、ね?」


「……分かったよ、ちょっとだけな。でも、どうやって調べるんだ?」


「ユニークスキルを調べるには、ダンジョンに入ってマナを活性化させる必要があります」

 

「ダンジョンに入らないといけないのか……」


「大丈夫です。魔物がとっても弱い、安全なダンジョンがありますから」


「本当に安全なのか?」


「はい!」


「……分かった」


「いやったぁ! それじゃあその前に書類にサインしてもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」


「ああ、分かった」

 

 なんだか断りきれなくて話を請け負ってしまった。

 正直、そんなに危険な仕事ならやりたくはない。いくら俺みたいな人間でも、命は惜しいからな。

 けど……ここまで他人に必要とされるのも、悪くない気分だった。




 その後、俺は彼女が持ってきた書類にサインをした。

 

 ダンジョン協会に正式に加入しなくても、免責同意書にサインをして、ダンジョン協会員の同伴があればダンジョンに入ることができるらしい。


 ただし、今日はもう昼を過ぎているし、そろそろ夕方という時間だから一度会社に戻ることにした。


 さっきは感情的になってとびだしてしまったが、少し時間が経って冷静さを取り戻した。会社を辞めるにしても、正式に退社の手続きを取らないとまずいしな。


 ……本当は嫌だが、仕方ない。


 明日、ダンジョンに向かう約束をミカンと交わしてからオフィスに戻って、部長のデスクに向かった。


「あの、部長すみませんでした」


「なんだ? 二宮、何を謝ってるんだ」

 部長はキーボードを叩く手を止めて、不思議そうに俺の方を見た。


 ……あれ? 怒ってる感じじゃないな。それに、心配してる様子もない。


「いや、その、今日は昼過ぎから俺……全然仕事してなかったじゃないですか。オフィスに居なかったし」


「ん? そういえば今日、お前会社に居なかったか。気づかなかったよ」


「……え?」


 俺、会社から抜け出したのに、全然気づかれてさえ無かったのか?


 ……なんだよ、それ。俺なんて居ても居なくても同じってことかよ。


「いつまで立ってるんだ。今日はもう帰って良いぞ」


 部長は俺に欠片も興味がなさそうだった。


 俺、本気で悩んで、苦しんでいたのに。眼中にすら無いってことかよ……


「……はい」


 他のみんなはまだ忙しそうにしている中、俺は一人で会社を後にした。


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