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古文書

 凜音と分かれて、会社に向かった後。俺は、軽くオフィスに顔を出して、メタトロンの力を借りて仕事をいくつかこなした。普通の人間なら1日掛かる量を1時間ほどで終わらせたから、またしても山田から怪しまれてしまった。


「二宮先輩、最近変っすよね。昼間はずっとオフィスに居ないし、帰ってきたらすごい速さで仕事を終わらせるし……何をしてるんすか?」


 山田の声にはもう、軽蔑の色はない。俺が仕事を完璧にこなしているからだろう。

 ただし、その代わりに彼は苛ついてる様子だった。多分、突然俺が仕事を出来るようになって、ストレスのはけ口が無くなったからかな。


「色々あるんですよ」

 俺は口を濁した。正直、本当のことを話してクビになっても生活は出来るが……いつまでもダンジョンで稼ぎ続けられる保証は無い。あくまで俺にとってダンジョンは副業だし、ここをクビになりたくはないからだ。


「いくら仕事ができても、サボリは良くないっすよ。俺が部長にサボリをチクったら、どうなると思います?」


「分かってます。だから、このことはどうか内密にしてもらえませんか? 幸い、他の人達は気づいてないみたいだし」


「……良いっすよ。ただし、俺の仕事をもっと手伝ってもらえればっすけど。今までは、先輩一人分の仕事をしてもらってたっすけど、明日からは俺の分の仕事もしてもらえます?」


「わかりました」


 俺は即決した。メタトロンの力があれば、おそらく1人分だろうと2人分だろうと、問題なく仕事はこなせる。今は一時間で済んでいる仕事が、せいぜい二時間になるだけだ。


「わかりましたって……」

 山田は自分が提案したことなのに、いざ俺が了承すると、やや戸惑っている。


「話がそれだけなら、これで失礼させてもらっても良いですか?」


「ふん……どうぞ」


 俺は山田に頭を下げて、会社を後にした。そしてその足で、再びダンジョンに向かう。

 おそらくは『神の加護』によってマナが活性化している影響だと思うが、最近ひどく調子が良い。

 夜になっても元気溌剌(はつらつ)で、眠気が全然やってこない。

 その元気、無駄にするのは勿体ないということで、夜の間は一人でサイレントストーンを狩ることにした。昼間は仕事と凜音の手伝いがあるし、夜の間くらいしか自分のために使う時間はないから。


 

 ボコン、バカン、ドカバキドッカンとサイレントストーンを狩り続ける。

 

 はっきりいって簡単過ぎるくらい簡単な狩りだ。マナの獲得効率も良いし、ドロップ品も良いから文句は無いんだか……退屈だ。


 はっきり言って飽きた。そろそろ他のダンジョンに挑んでも良いのでは無かろうか? そんな気持ちを憶えながらも、今は夜だし、相談しようにもミカンは居ない。仕方なしに、俺は夜の8時から深夜の2時までひたすら狩りを続けた。


 そして翌日、いつもより1時間早く出社した後、1時間かけて山田の分の仕事を終わらせ、出社してきた山田にそのことを報告した。


「……もう終わったんすか?」


「ああ、だからちょっと外回りしてきます。問題ないですよね?」


「自分の分の仕事はどうするんすか」


「外回りが終わったら始めます。心配ありません」


「……ま、俺はどうでもいいっすけどね」


 そして他の社員たちが出社するのと入れ違いで会社を飛び出して、ダンジョン協会に向かった。


「オハヨウゴザイマスっス!」

 元気な、というかウルサイぐらい大声の挨拶が迎えてくれた。凜音だ。

 体もしっかり90°に折り曲げて、うん、キレイなおじぎだ。

「……ああ、おはよう」


「二宮先輩! 今日もお願いしますっス!」


「分かった。けど、その前に……ミカン、ちょっと良いかな?」


「なんでしょうか?」


「俺ってさ、今の所『小さなダンジョン』にしか行ってないだろ? そろそろ他のダンジョンに行ってみたいんだけど、駄目かな?」


「それなら、ちょっと待っていてください。えっと……これかな」

 ミカンは壁に設置されていた棚から、一冊のバインダーを取り出して、俺に渡してきた。

「これに国内のダンジョンデータが記載されています」


「へー、ありがとう」

 ……やけに薄いバインダーだな。と思いながらページを捲る。が、中身は期待外れだった。

 ダンジョンの位置と、その中に出没する魔物達がわずかに記載されているだけ。それも、かなり歯抜けの情報らしい。おおよその難易度が記載されているが、あまり信頼はできそうにない。

「全然データが無いな」


「人手不足で……すみません」


「本当にこれしかデータが無いのか?」


「一応、資料室に大昔の資料がありますけど……」


「資料室? そんなのあったかな?」

 ダンジョン協会本部は、あまり大きくはない。既に一通り見て回ったつもりだったが、資料室なんてものは無かったはずだ。


「資料室は地下にあるんですよ。ほら、ここから入れます」

 ミカンは床の一箇所を指差した。すると、そこには小さな取手があった。

 どうやら床下に地下への階段があるらしい。

 今まで全然気づかなかったな……


「ただ、資料の大半はとっても古くて読むのが難しいので、読むのは大変かもしれませんけど……」


「そうか。ありがとう」


 俺は取手を引き上げて、その先にある暗闇に降りていった。

 ひどく埃っぽい。そして、階段を一番下まで降りてスマホのライトを点けると、周囲は本の山だった。


「凄いっすね」


 すぐ後ろをついてきた凜音が、一冊の紐でまとめられた本を手に取る。が、どうやら100年以上は昔に書かれたものらしく、表紙の文字は達筆過ぎて読めない。周囲にある本も同様で、おそろしく古いものばかりだ。


「……なるほどな。確かに、ダンジョン攻略が盛んだったのは、産業革命以前って話だから、200年以上は昔の資料ってことになるか」


「これじゃあ読めないッスね」


「……いや、どうかな」

 確かに、俺には絶対に読めないし、ダンジョン協会メンバーも同様だろう。

 が……もしかすると……


(メタトロン、読めるか?)


<可能です。紙媒体でしたら、この部屋の中にある資料すべて解析可能ですから、少々お待ち下さい>


「読めそうだ」


「え! マジっすか!?」


 驚いている凜音をよそに、俺はメタトロンの処理が終わるのを待つ。

 そして1分ほど経つと、


<解析完了、全データをデータベース化……完了、全資料の内容を把握しました>


(よし、それでどうだ? 役に立ちそうな内容はあるか? 特に、効率の良い狩場の情報が欲しいんだが)


<……データは大量にあります。国内のダンジョンデータ、ダンジョン攻略の心得、戦闘技術等々の知識を獲得しました。が、残念なことに、『効率の良い狩場』に関する情報は見つかりませんでした。他のダンジョンにも、サイレントストーンのように効率良く稼ぐことが可能な魔物は生息しているかもしれませんが、データにそのような記載はありません>


(……そうか)


<しかし、気になるダンジョンのデータは見つかりました。『禁区』と命名されたダンジョンです。本が記述された当時の人々は、これらのダンジョンに近寄らないようにしただけでなく、人に見つからないように、厳重に隠蔽していたそうです。先程、ミカン様に見せて頂いたデータには、禁区と合致するダンジョンが無かったことから、現代ではその存在は忘れられてしまっているようですが>


(禁区?……やばそうな響きだな)


<如何なさいますか?>


(禁区ってのは、近くにあるのか?)


<日本全国に12の禁区があり、ここから一時間以内にアクセスできる場所も、2箇所あります>


(……そうか。でも、今はやめておこう。明らかにやばそうだしな)


「二宮先輩? どうなんスか? なにか分かったんスか?」


「あ、ああ。ここのデータはメタトロンが全部解析してくれたから、もうここには用は無いな。行こう」


「えー、ここにある本全部っスか!? 何百冊もあるのに!」


「ああ」

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