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8話 だいたいゲッウェイのせい

【ギア視点】


 太陽が傾きかけた午後

壊れた扉の玄関、俺はその土間の真ん中に座り目を閉じていた

ダンジョン内でやっている休息方法だ、鞘に入った剣にもたれ掛かるようにして身体を休めている

いつでも飛び起きれるように心を研ぎ澄ましながら


 昨夜ハグルマが居なくなったのに気付いた俺は、外に走り出そうとしたのをゲッウェイに止められた

(あて)があるのか?探しだせる自信はあるのか?と言われ、俺は動けなくなった


 そして、「私が絶対に探し出してみせるから、ハグルマちゃんが万が一にでも戻って来てもいいように、ギアは家に居て」と言われ、俺は土間に座り待つことにしたのだ


 帰って来ることも見付かる事も無いと分かっていながら待つことにしたのだ


───ハグルマが自力で帰ってくるなんて万が一にもあり得ない

これでも俺はソロでダンジョンへ潜っているから、視線や気配には人一倍敏感なのだ

そんな俺に気付かれずに、ハグルマが一人になるまで監視していた人間から逃げられるとはとても思えない


 冒険者課から検分に来た者も、家の中の空間が捻れている為に玄関の扉を壊して侵入したのだろうが、それ以外に侵入した痕跡が一切残ってないと言っていた


 間違いなく人拐いに長けたプロの犯行だろう

そんな奴らから逃げれるはずがない……居場所を簡単に突き止められる分けがない


 いや、正確には拐った奴らを探す方法ならあった(・・・)

ここらを縄張りにしている裏組織(やくざ)を脅せば情報を聞き出せたかもしれない……

もっとも、その裏組織を潰してなかったらという仮定の話しだが


 一年前にコサメを助ける為に俺が話し合いに行ったのだが……何故か壊滅したのだ

……拘束されて殴られてるコサメに自殺しろと強要するカスどもを見た後の記憶が朧気(おぼろげ)だが、その後逮捕も記事にも至ってないのだから、誰も不幸な事にはなっていないはずだ


 今は元裏組織があったビルには興信所(たんてい)が入っているみたいだな

ペット探しが得意と聞いた事がある……


 ダメ元で依頼してみるか?

興信所ならば多少は裏社会にも顔が利くかもしれない…………アホか、ドラマじゃあるまいしそんな興信所があるわけないだろ

だいたいペット探しが得意な裏社会に顔が利く興信所ってなんだ?常識的に考えて、裏の仕事をしている人間がそんな仕事をしているはずが無いだろ

……それに依頼するにしても金が無い……ダンジョン産のアイテムを現物支給で渡しても、受けて貰えるとは思えないしな……


「あーくそっ!俺に出来る事は何かないのか!?」


 煮え切らない思いに、つい叫んでしまった

こうしている間にもハグルマは辛い目に会っているかもしれないんだぞ!

絶対に守ってやると言っておいてなんて(ざま)だ、俺はあいつを助けるヒーローじゃなかったのかっ!



 立ち上がり壁へと歩く

元は人一人が通れるくらいの小さな玄関だったのに、その面影は土間の隅に置かれた靴箱くらいしかない


 壁を手で触ると微かな温もりを感じた

この温もりが俺の業なんだろうか?俺に幸運を運ぶ感謝の念なのだろうか?


 両手と額を壁に付けて目を瞑る

気が付けば、藁にでもすがり付きたい思いを乗せて、俺は家に語りかけていた


「なあ、お前は俺に幸運を運んでくれているのだろ?……ならその幸運でハグルマの居場所を教えてくれないか……運でもなんでも全部使ってくれてかまわない……お願いだ……俺にハグルマを助けさせてくれ」


 身勝手な願いだ……叶えてくれるはずがない

せっかく中身だけだが立派になったのに、俺はそれを全部差し出して、元のボロ屋に戻れと言っているのだから



 だが俺の葛藤とは裏腹に───何かが(またた)いた気がした



 目を開けると壁が……いや、家中から淡く光る粒子が俺の左手に集まって来ている


 ホッとするような光だ

視界を真っ白に染める程の光なのに眩しくない、むしろ、目覚めた時に見る朝の光のように安らぎすら覚える


「これは……」


 次第に光が収まっていくと周囲を見渡せるようになった

……土間が消えている、元の靴箱がギリギリ置ける狭い玄関に戻っている

果てが見えない程の長い廊下……はそのままだが、両脇に並んでいた(ふすま)が消えていた、中を見るのが怖くて開けれなかった襖が消えていた!



 そして───俺の左手には、明るく濃い緑色の糸があった


 糸は俺の手から壁を突き抜けて虚空へ伸びているようだ

これはハグルマが言っていた縁の糸か

初めて見るが確信できる……何故なら感じるからだ

ハグルマのか細い想いが、助けを呼ぶ声が、ゲッウェイに告白しろという嘆きが、キャラッゲが美味しかったという喜びが


「これはお前が見せてくれているのか?」


 糸を握り締め天井を見上げると、家が淡く瞬いた気がした


「……この借りは必ず返す」


 俺は家に礼を言うと外に駆け出し、電柱の上まで駆け登った

左手を高く伸ばし縁の糸を見る───向こうか、東の方へ伸びているな


 俺は糸の示す先を見ながらゆっくりと深呼吸をして身体中に魔力を巡らせる


「今すぐ行くからな、待ってろハグルマ」


 決意を新たに収納袋から真紅の宝玉を取り出し、胸に押さえ付けるように当てた

宝玉は俺の魔力と同調し、まるで鼓動するかのように紅い光を放ち始める


「黄昏に眠る覇王の欠片よ、目覚めよ、蹂躙(じゅうりん)の時間だ」


 俺が紡ぐ起動の言葉(パワーワード)によって、ピシリと宝玉にヒビが入り、隙間から更に強い光が漏れ出る


「我と汝が力をもて、絶望も希望も……紅く……紅く……紅く……染め上げようぞ」


 続く言葉にヒビは更に大きくなり、ビキリッと音をたて砕けるが、宝玉は紅い光を放ちながら辛うじて球体を維持している


「我が身さえ焼き尽す狭間の光よ、世界に終焉の(なげ)きをあげさせろ」


 宝玉の欠片が飛び散り俺の身体を(おお)うように纏わり付く……胸には真っ赤な光だけが残り紅い光の支流を流し出した

欠片は紅い光で繋がっており、今の俺はまるで炎を纏ってるかのようだ



「目覚めよ覇王の鎧、黄昏(トワイライト)バーニング!!」


 パワーワードの完了と共に爆発したかのように紅い光は膨れ上がり、炎となって俺の身体を包み込む


 電柱の上でまるで業火のような光に包まれながらも腕を振るう

俺が右手を振るうと右手に、左手を振るうと左手に、身体中に散った欠片を中心に炎は収束していき鎧を形作っていく

同時に燃え落ちた服は真っ黒いインナーとなって俺の身体に張り付いていく


 ……電柱の上で松明のように燃え盛る炎が収まった後には

真紅に金色で縁取りされた鎧に身を包んだ俺が(たたず)んでいた



 これが俺の深層決戦用魔導鎧トワイライトバーニングだ

黒のインナーの上にプロテクターのような全身鎧、フルフェイスヘルメットのような兜、そのどちらにも炎を模した意匠が施されている

各部には突起が付いており、特に両肩の突起は右肩がトワイライトキャノン左肩がバーニングキャノンでどちらも強力な射撃武器だ、引き抜けば炎を纏う剣にもなる


 他にも数々の武装が搭載されているが割愛しよう

今の俺に必要なのは武器ではなく、胸で紅く輝くトワイライトストーンの力なのだから


 このトワイライトストーンは鎧の中枢とエネルギー源でもあるが、その本質は重力を操るマジックアイテムなのだ


 このトワイライトバーニングをダンジョンで手に入れた当初は、学の無い俺では機能を一割も使えず持て余していたのだが

ゲッウェイに解析してもらいパワーワードを設定してもらったお陰で、俺でも十全に使えるようになったのだ


 俺はトワイライトストーンに意識を集中させ、その力を解放させる

フワリと身体が軽くなり重力を無視して空へ浮かび上がる

更に意識を集中させ急上昇させると、あっという間にビルを遥か下に見えるまで高度が取れた

上空千メートル、遮るものが無くなったことにより縁の糸は地平線の向こうまで一直線に伸びている


 よし行くぞ

心の中で気合いを入れた瞬間に、それは縁の糸から伝わって来た


「なっ、縁の糸からハグルマの恐怖が!」


 心が焦燥で満たされた

目指すは糸の先、この糸の先にハグルマがいる

俺は一刻でも速く辿り着く為に、背中に炎の翼を展開させるとトワイライトバーニングをトワイライトバードモードへと変形させ飛翔した!


「頼む……間に合ってくれ」


 炎の鳥へと変形した身体を精一杯羽ばたかせながら糸を辿る

ハグルマの縁の糸から伝わってくる……死への恐怖を裁ち切る為に



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