5話 働くギアさん
【ギア視点】
ハグルマが病院で点滴を打ち終わったら帰り道、昼食も兼ねて俺達はファミレスに入った
詳しい話を聞きたいとゲッウェイが言ったからだ
「すまないなゲッウェイ、診察代だけじゃなく飯代まで出させて」
「ハグルマちゃん誤解しないでね、これ全部ギアのお金だから……ギアがダンジョンで取ってきた素材を、彼に代わって換金して預かってるだけだからね」
いや、家の光熱費とかを代わりに払ってもらう手間賃込みで素材を渡してるんだから、光熱費以外はゲッウェイの金なんだが
今度ちゃんと説明しておこう、それでなくても色々と世話をかけているのに
「えっと、要するにご夫婦のお金なんですよね?必ず返しますので、心配しないで下さい」
「ハグルマ、俺達は夫婦じゃないぞ、それに、子供が金の心配をするな…」
「残念だけど、私達はまだ結婚してないわよ、それよりお腹空いたでしょ?色々と聞きたい事もあるけど、取り敢えず注文しちゃいましょうね」
「す、すいません、お二人の縁がとても綺麗で強かったので、てっきり……」
シュンとするハグルマを他所に、俺は小声でゲッウェイに話し掛ける
(おい、ハグルマは十人前は食うけど、手持ちは大丈夫なのか?)
(えっ、本当に?)
(今朝は炊飯器の米を二回食べ尽くした)
(……亜人には特殊な身体の人もいるから、ハグルマちゃんもそれかしら……でも大丈夫よ、カードもあるから)
(すまんな……いつか絶対に返す)
(だから、あなたのお金って言ったでしょ!ってハグルマちゃんが見てるから、先に注文するわよ)
内緒話をしたせいで、ハグルマがさっきより不安そうな顔でこちらを見ている
いかんいかん、折角の外食をつまらない事で台無しにする所だった
俺はメニューを見て、即決した
「よし、俺は豆腐御膳にする、ハグルマは何にする?好きな物を好きなだけ頼んでいいんだぞ」
言ってメニューをハグルマに渡す
基本的にダンジョンで狩った魔物肉が主食な俺は、たまの外食ではあっさりした料理を頼む
ゲッウェイに無理を言って米だけは買って貰ってるけど、これからはハグルマもいるから、心苦しいが野菜も頼むか
……そうだった、コサメに貰ったスマホで頼めばいいんだ!あいつにも頭が上がらないな、今度余ってる魔法の収納袋を送っておこう
などと、考え事をしてる内にハグルマも決まったようだ
ゲッウェイは俺と同じ豆腐御膳にするみたいだな……なんでこいつは一緒に食事する度に、同じ料理を頼むのだろう
「……あの、このランチセットのハンバーグを頼んでいいですか?」
まさかの一つだけ!
どう考えても足りないのは目に見えているが……まあいいか、どうせ聞きたいことがあるのだ、足りない分はその都度頼めばいい
ゆっくりと食事を楽しむとしよう
俺は店員さんを呼んで、ドリンクバーを追加して注文した
───
──
─
俺は今、信じられない光景を見ている
ハグルマがランチセットのハンバーグを食べきれないで、苦しそうにしているのだ!
「は、ハグルマ、体調が悪いのか?」
「す、すいません、せっかく頂いたご飯なのに……食べます、食べきりますから……うっぷ」
「ハグルマちゃん、無理に食べなくてもいいのよ……ほらギア、どうせまだ食べ足りないんでしょ?」
「お、おう、追加で頼むつもりだったから、ハグルマが食べ切れないなら俺が食うぞ」
言って、無理やりハグルマからハンバーグセットを取り上げる
何の冗談だ?いや、ハグルマみたいな小さくて痩せてる子供なら、普通のランチセットは食べ切れないのは分かるが……土鍋いっぱいのお粥を食べたり、炊飯器のご飯を食べ切るハグルマだぞ!
しかし実際にハグルマは苦しそうだ……出来合いの食べ物だと、体型に似合った量しか食べれないのか?
これは晩飯も、量を加減できる物を作るしかないな
今夜は鍋にするか?それなら足りない分を随時追加出来るから……いや、バーベキューだな!素材の肉が大量に余ってるし、すぐに焼けるから加減が簡単だ
余ったら俺が食えばいいしな……ついでに近所の奴らも呼ぶか、素材の肉もいい加減に処理したいからな
俺はハグルマのハンバーグセットを食べながら、心配そうに聞く
「それにしても……モグモグ……ハグルマは、本当に大丈夫なのか?たったこれだけで腹一杯になるなんて、どこか調子が悪いんじゃないのか?」
「ちょっとギア、女の子に向かってそれは失礼よ」
何故かゲッウェイが反論した
言われたハグルマは、怒られたと思ったのか小さくなっている
「す、すいません、いつも私は少ししか食べれないのですけど、ギアさんの作った料理だけはいっぱい食べれたから……つい、このくらいは食べれると思ってしまって……」
は?あの食欲は俺の料理限定だったのか?
うーーむ、分からない
亜人は種族によって色々と変わるからな、もしかして貧乏神の料理は座敷わらしには沢山食べれる料理になるのか?
「ハグルマちゃんは謝らなくていいのよ、ほら緑茶と紅茶と烏龍茶を持って来たけど、どれがいい?」
「えっあの……私は、余ったのでいいですよ」
「ふふっ、なら緑茶ね、食べ過ぎには緑茶がいいから……ギアには烏龍茶を上げるわ」
「いや、俺は紅茶の方が…」
「烏龍茶も砂糖やミルクを入れたら美味しいって知ってる?」
「……烏龍茶うまいなー、そのまま飲むのが一番うまい」
「ふふっ、一度試してみて、本当に合うから」
うん、ハンバーグと烏龍茶は合うな……個人的には緑茶が欲しいけど
俺がハンバーグを食べてる間に、ゲッウェイがデザートを頼んで、ハグルマへの質問が始めるみたいだ
ハグルマはもう腹一杯なのに、三つのビッグパフェを頼みやがった
余ったら食う気だな
「ハグルマちゃんにはいくつか質問があるけど、正直に話してね」
「はいですよ、なんでも聞いて下さい」
ハグルマの返事を聞いて、ゲッウェイはボイスレコーダーのスイッチを入れ、手帳を開いて万年筆を構えた
「では最初の質問、あなたの名前と種族と年齢を教えて頂戴」
「はい、私の名前はハグルマです、座敷わらしの亜人で、年齢は二十三歳になります」
「うん、二十三歳じゃないわよね、本当は何歳なの?自然発生型なら何年前に生まれたか覚えているでしょ」
「え、七年前に生まれましたけど……自然発生型の亜人は生まれた時が十六歳だって、社長さんが言ってたですよ」
そんな訳あるか!
確かに自然発生型は、ある程度の体格と知識を持って生まれるが、そんな法律は無いぞ
その社長ってやつ、働かせる為に騙してやがったな!
「ハグルマちゃん、あなたは七歳よ、詳しい話は後でしてあげるけど、質問を続けるわね」
「そんな、七歳じゃ働けないですよ……」
落ち込んでる所悪いけど、働かせる気は無いからな
それにしても見た目通りの年齢だったか、自然発生型は生まれた時の年齢に達するまでは歳を取らないから、見た目じゃ分からないんだよな
俺も自然発生型だからよく勘違いされた……孤児院では浮いてたな、一人だけおっさんだったから
「では次の質問、ハグルマちゃんの力でギアの家は広くなったの?家に届いた荷物もそのせいなのかしら?」
「あれは私の力じゃないですよ、あれはギアさんの力なのです」
「えっと、どういう事、詳しく教えて」
「私には、人の縁が見えるのと、お家に溜まった悪い気を掃き出して、住人の貯めた良い気で、お家を少し元気にする程度の力しか無いのですよ」
あれは少しなんてレベルでは無いんだが
俺が今まで助けた人達からのお礼の品や、俺を騙していた奴等が捕まったのも、ハグルマのお陰だよな?
「自業自得という言葉があるのです、お家があんなに広くなったのは、ギアさんの業がとても大きくて、小さなお家では収まらなかったからですよ……だから良いことがいっぱい起こったなら、それはギアさんの日頃の行いのせいなのです、お家がギアさんに感謝の気持ちを運んでいるのですよ」
「なるほど、ギアの家が広くなったのも、コサメさんがやって来たのも、お礼の食材なんかが大量に届いたのも、ぜーんぶ、ギアがこれまで無節操に人助けをしてたせいなのね」
何故にトゲのある言い方をするのだ?
……いや、人助けの度に騙されたりして、ゲッウェイの世話になったからだな
すまない、いつも尻拭いをさせてるのに、美味しい所だけを持って行ったようで心苦しい……
「だいたい分かったわ……次の質問だけど、辛いだろうけど正直に答えて………………その身体中のアザは……ハグルマちゃんに暴力をふるっていたのは、社長さんと呼んでる人物なの?」
「っ…………はい、私が役立たずだから、毎日愛の鞭を受けてました……」
ギリッと歯軋りが聞こえた
ゲッウェイにも証言を取るためとはいえ、嫌な役を押し付けてしまった
冒険者の査問官をやっているゲッウェイと違って、俺では証言能力が低いのだ
ハグルマを保護する為には、ここは我慢して聞かなくてはいけない……いけないが………………何が愛の鞭だ!
女の子なんだぞ、子供なんだぞ、それをアザだらけにするとか、それが人のやることか!
「くっ……そのゲス……社長さんと一緒に暮らしていたの?」
「はい、発生まれてすぐに社長さんに連れて行かれてから、ずっと会社の一室にいたですよ」
「一室って、まさか閉じ込められてたの!?」
「えーと……外から鍵が掛かっていたので、そうとも言うですよ」
そうとしか言わないんだよ!
「……ご飯は食べれてたの?」
「いえ…………あそこでは、数ヵ月前に食べたのが最後です……ネット通販で食材を買っていたのですけど……会社の経営が悪くなってからは、社長さんに「貧乏くさいのを買うな」と禁止されて食べてません」
数ヵ月!?
痩せているから録に食べてないとは思っていたが、録にどころか食べて無かっただと!
反射的に腰に手が伸びた───落ち着け俺、今は帯剣してないだろうが
だいたい相手の居場所も分からないんだ……分かったら、ただじゃおかねぇけどな!!
「そう頑張ったのね、でももう大丈夫よ、私が絶対にそんな男の元には帰らせないから!ギアだって絶対にあなたを守ってくれるわ」
ゲッウェイも限界みたいだ
万年筆が手帳を貫通して、机にめり込んでいる
本当は聞きたいことがもっと有るのだが、今日はここまでにした方が良さそうだな
「ああ、俺が守ってやる…」
「だ、ダメですよ!社長さんに逆らっちゃダメなのです!逆らったら殺されるのですよ!……アレは絶対にやります、何匹もの猫ちゃんを私の前で殺したのですよ」
ハグルマの絶叫が店内に響き、客が一斉に静まり返り視線が向いた
俺は身体を縮こませて震えるハグルマを抱き寄せ、背中をポンポンと擦ってやる
ハグルマが怯えた顔で俺を見る
俺はニコッと笑って、ゆっくりと話しかけた
「大丈夫……大丈夫だ……俺は強いんだぞ……俺もゲッウェイも殺されたりしない……逆にワンパンで倒してやるよ」
「……でも」
ハグルマは本気で心配してるのだろう
クソムカつく事に、恐怖で心を縛ってやがる
自分の力を誇示するために、猫を殺して見せていたのか…………俺なら鼻で笑う行為だ、そいつは小さな猫ぐらいにしか優位に立てない弱者と言ってるようなものだからな
でもハグルマには違う
力のない子供に、いつでもお前を殺せると実演していたのだから
───ハグルマに教えてやろう、そんな弱者に俺は絶対に負けないと
……そうだ、確かいいやつがあったよな
「ゲッウェイ、資料用に俺の戦闘動画撮ってたよな?あれ見れるか?」
「任せて、飛びっ切りのやつを見せて上げる」
ゲッウェイは俺の意図に気付いたのか、微笑んで親指を立て
バッグからタブレットPCを取り出すと、ハグルマに見えるように立たせ動画を再生させた
動画は俺が十階のボスと戦っているやつか、何故かゲームのBGMが流れている
ボスは体長二十メートルはある巨大な真っ赤な蜘蛛で、足が人間の手のような形をしており、複眼の代わりに、頭に無数の女性の顔が張り付いている
動画が始まった瞬間にハグルマが息を飲んだのが聞こえた、それほどまでに醜悪な外見だ
「さあ見てハグルマちゃん、ギアは本当に強いんだから!」
「え、あ……はい」
ゲッウェイがハグルマの隣に座って、片手で抱き締める
俺も片手でハグルマを抱いているので、ハグルマを中心に身を寄せ合うような形になった
動画の中の俺は、淡く輝く青い縁取りの白銀の軽鎧を身に纏い、同じく白銀に輝く剣を握っており、まるで勇者のような出で立ちだ
撮影用に見栄えする装備に着替えさせられたのだが、無駄に光ってウザいから、実際の探索では絶対に着ない逸品だが……
それでも性能は良い、まるで鎧を着ていないかのような足取りで、巨大蜘蛛の突進を、手を、糸を、牙を、難なく避けている
人を簡単に潰し、絡め、貫きそうな攻撃が怖いのか、ハグルマは巨大蜘蛛が俺を攻撃する度に小さな悲鳴を上げた
「ハグルマちゃん今の見た!ギアは糸を吐き出す時の筋肉の動きを見て、糸が出る前に回避行動に移ってるのよ、凄くない!」
ゲッウェイの興奮した声をスルーするかの如く、動画の中の俺は巨大蜘蛛の攻撃を避け続ける
ただ避けるだけではつまらないのか、時折思い出したかのように剣を振るい、蜘蛛の足を一本づつ切り落としていった
切り落とす度に、ハグルマは小さな拳を握り締める
「よく見てハグルマちゃん、蜘蛛の手の攻撃に合わせて切ってるのよ、それも自分に向かって来る手の間接を正確にね!動いている物を切るだけでも難しいのに、ギアは相手の力を利用して、一撃で切断してるの!これ本当に凄い事なんだから!!」
ゲッウェイは絶賛しているが、二級冒険者ならこの程度は余裕でできるぞ
元々ボス戦用の教材か何かの撮影だったので、なるべく相手に色々な攻撃をさせてから倒すように言われていたからここまで長引いているが
それさえ無ければ一分ほどで倒せる自信がある
それでも数分も経つと、足の半分を切り落とされた巨大蜘蛛は動けなくなり、残った足でなんとか身体を支えている状態になった
「見ててハグルマちゃん、ここからが凄いんだから!すっごくカッコいいんだから!!」
興奮したゲッウェイが大きな声で解説するせいで、店内の視線が集中して痛い
……困った、食い入るように動画を見ているハグルマの邪魔をしたくないから、ゲッウェイの口を閉じれない
頼むからもう少し静かにしてくれ、ここがファミレスだと忘れていないか?
もっともハイテンションなゲッウェイのお陰か、ハグルマの顔から不安な表情が無くなりかけている
……仕方がないな、動画が終わるまでは何も言わないでおこう
動画のボス戦も佳境のようだ
巨大蜘蛛に張り付いている顔が悲鳴のような合唱をし、無数の魔法の槍を作り出した
真っ白な槍が空中に百本以上はあるだろう
「あ、危ないです」
「これからよ、ここからギアのヒーロータイムが始まるのよ!」
百本の槍が俺に向かって降り注ぐ
まるで雨のように降り注ぐそれを、俺はギリギリで避けながら、または剣で切り裂きながら巨大蜘蛛へと突き進む
「凄いです!全部避けてるですよ!」
「そうよね、凄いよね!避けるだけでも大変なのに、魔法を切りながら進んでいるのよ!もうギア最高!!」
ハグルマまで叫び始めた
お願いだから、俺の名前を叫ぶのは止めてくれ
本気でファミレスに居るのを忘れてるだろ!周りの客がボソボソと俺達の事を話してるのに気付いてくれ
全ての魔法の槍を避けきった俺は、巨大蜘蛛の背中へと飛び乗る
動くことが出来ない蜘蛛はもう一度魔法を発動させようとするが、それよりも俺の魔法が……俺の右手に巨大な炎の槍が出現するのが先だった
動画の俺が炎の槍を構えるのと同時に、ゲッウェイが片手で右目を覆い呟いた
「我が爆炎にて灰塵と化せ」
「ギアさんカッコいいです!」
「そんなセリフ言ってないからな!」
炎の槍を巨大蜘蛛の背中へと叩き込むと、巨大な火柱は背中から腹まで巨体を一気に貫ぬいた
炎は貫いただけでは飽きたらず、地面で跳ね返り巨大蜘蛛を包み込み燃え盛る
ドサリと力尽きた巨大蜘蛛は、炎に飲まれ燃えていく
それをバックに俺がカメラへと歩いていく所で動画は終わった
「ねっねっねっ、最高にカッコいいでしょ!最後なんて特撮ヒーローのようでしょ!!」
「はい、ギアさん凄いです!本物のヒーローみたいです!!」
興奮しているハグルマの頭をポンポンと叩く
満面の笑みで俺を見ている、どうやら不安は払拭されたみたいだな
「ハグルマ、それは違うぞ」
「え?」
「俺はヒーローみたいじゃなく、本物のヒーローなんだ……ハグルマくらい簡単に守れるくらいのな」
ニカッとハグルマに笑いかける
一瞬驚いたような顔をしたハグルマだったが、俺に抱き付いて顔を上げた
「……はい!ギアさんはヒーローです!」
嬉しそうに言うハグルマの背中をポンポンと擦ってやる
安心しろ、俺とゲッウェイが絶対に守ってやるから
なんたって俺はヒーローなのだから
「そのヒーロー様と万札ナンパ様にお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「誰が万札ナンパ様よ!」
突然かけられた言葉に振り向くと……ウェイターの格好をした中年の紳士みたいな男性が、笑顔で立っていた
手の上のトレーにはビッグパフェが三つ乗っている
「他のお客様もおりますので、お静かに願えますか?」
「す、すまない」「ごめんなさい」「す、すいません」
迫力に負けて即効で謝ってしまった
いや、あれだけ騒いでたら怒られるのは当然か……しかし、笑顔なのに凄い圧を感じたぞ
「分かって頂けたらよろしいのです……こちらご注文のビッグパフェになります」
ウェイターから圧が消え、優しげな雰囲気に戻ると、コトンコトンコトンと俺達の前にパフェを置いた
あれ、ハグルマの分だけ果物が飾り切りしてある
「わぁー、リンゴがお花です、チョコが蝶々ですよ」
「あの、これは?」
「サービスでございます、子供には笑顔が一番ですからね……それではごゆっくりご賞味ください」
なんだこのダンディー、カッコいい!
さっきまで俺をヒーローのように思ってくれていたハグルマも、今はパフェに夢中だ……なんか、美味しい所だけ持っていかれた気がする
「良かったねハグルマちゃん」
「はいです、とっても美味しいですよ」
まぁいいか
ハグルマの機嫌も治ったみたいだし、些細なことだな
俺達はゆっくりとパフェを楽しんだ
……不思議なことに、ハグルマはビッグパフェを完食した
絶対に残すと思っていたのだが……どうやらハグルマの食欲には、まだ謎があるようだ
「私としては、なんで万札ナンパと呼ばれたかの方が知りたいわ……まさか広まってるの?」
不安そうなゲッウェイから顔を背ける
さっき動画を見ていた時に、近くの客が「万札ナンパさん、おおはしゃぎだな」と呟いていたのは黙っておこう
多分、昨日の写真は予想以上に拡散している