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DAY 2 従業員ゲットだぜ

アネットにグラニュー糖1壺を渡して、明日会う約束をした後、手付けで貰った金貨3枚を手に、俺とマイユは服と食べ物を買いに大通りを歩いていた。

イテテと言いながら歩く俺に、マイユは今度でも構わないと言ってくれたが、約束は約束だ。


簡素だが清潔な服をマイユとシャロンに2枚づつ。あとは肉や野菜をいろいろ購入して、こっそり収納へと突っ込んだ。

使ったお金は、なんと11,000ラディール。金貨1枚と銀貨1枚だ。うんうん。俺も出世したなぁ(まだ二日目だけど)


DPの不安もあるが、金貨1枚は100DPだからな。とりあえずノルマは果たしたと言えよう。

そうして俺たちは「素人さんは踏み込まない方が良いかな」エリアに突入した。マジかよ。


「ただいまー」


マイユがそう言ってくぐったのは、これを家と言っていいものかどうか、ちょっと迷いそうな場所だった。


「あのー、マイユさん? 南側の壁は?」

「北と東と西側にはちゃんとあるし、考えようによっては、見晴らしが良くて素敵でしょ。この辺じゃ屋根があれば御の字だから」

「ええー?」


こんなところで寝ていてシャロンって大丈夫なのか?


「あ、お姉ちゃん、お帰りなさい。けほけほ。そっちの人は?」

「カモ。お人好しの」

「おいっ!」


くすくす笑っているシャロンは、あまりマイユに似ていない。

病弱そうだが、ガリガリというほどでもなかった。マイユが自分の分も食べさせているのかも知れない。


壁がないから、なんとも言えないが、とりあえず掃除するか。


俺は、ダメ元でショルダーバッグを床に置いてダンジョンを展開してみた。

すると、ダンジョンは何事もなく展開された。

いくら廃屋とは言え、元の所有者がいるはずなのに不思議だったが、そのときは単にうち捨てられた場所なのだろうと思っただけだった。


「なあマイユ、掃除しても良いか?」

「掃除?」

「ああ、すぐ終わるから」

「まあいいけど」


良し、許可が出たぞ。コア、埃も汚れも彼女たちが意識して所有しているものと利用しているもの以外は全部吸収だ。


『トータルで12DP必要』


なぜ?! 吸収って、ダンジョンにあるものを吸収してDPにする機能なんじゃないのか?!


『そんなに都合のいい話はない』


なんだよー。もしそれが出来るのなら、ダンジョン内にどんどんゴミを搬入させて、後はそれを吸収するだけで、あ~ら不思議。なんとDP大もうけ、って目論んでいたのに!


どうやら、本来吸収は、それを発動するDPとそれによって得られるDPの差が、吸収で増えるDPになるらしい。所有者のいない埃やゴミの吸収でDPが大きく増やせるはずもなく、こまかい制御を追加したため結構な支出が必要になったようだった。


ちっ。まあ仕方ない、OKだ。そう思った瞬間家中が光に包まれた。


「な、何?!」


マイユが焦ってまわりを見回す。


「大丈夫、ただの掃除だ」

「はぁ?!」


光が収まると同時に、家の中は誇り一つ無い状態になった。彼女たちの服や体や寝床の汚れも根こそぎだ。


「お姉ちゃん、なんだかきれいになったよ? けほっ カモさんって魔法使いだったの?」

「まあね。ほら、魔法使いのお兄ちゃんからプレゼントだ。こっちの服に着替えな」


そう言って買ってきた服を取り出した。


「うわー、お姉ちゃん、これ着ていい? けほけほけほ」

「ほら、あんまりはしゃがないで。服は着て良いけど、カモはあっちむいてろ」

「へいへーい。お前も着替えろよな」


そう言って俺は台所っぽいところを探した。


「これは台所なのか?」

『竈と推察』


そこにあるのは石を積み上げて囲っただけの竈もどきで、水の入った鍋っぽいものがその上に乗っていた。


「まあ、ここじゃ水を手に入れるのも苦労しそうだもんな」


くそ、ますます捨ておけんな。見なきゃ、知らなきゃ、放っておけるんだがなぁ……


「カモさん、着替えたよ」

「お? おう」


俺は料理を作るのをあきらめて、マヨハムサンドをクリエイトすることにした。


「お、ふたりとも可愛くなってるな」


汚れを落として清潔な服に着替えたふたりは、生き抜く気概に溢れた姉と、ほわんとした妹で、タイプはまるで違うのだけれど、どちらもなかなか可愛らしかった。


「お世辞はいいから、ごはんにしましょ」


マイユが少し照れたことを隠すようにそう言った。

俺は、ふたりの前に、さっき買ってきた出来合いのスープ(なんと蓋付きの器がある)と、マヨハムサンド1セット(12個)を並べた。


「ほら、喰え」

「「いただきまーす」」


二人はマヨハムサンドを美味しそうに口に入れていた。柔らかすぎて獣人には少し物足りないのではないかと心配したが、そんなこともないようだった。


「その食事の前の挨拶って、この国で普通に使われてるのか?」

「いただきますってやつ? そうだよ」


ふーん、ごちそうさまといい、どこかで俺達の世界が関わっている感じだな。

もしかしたら現地オリジナルの挨拶が、俺の耳にそう聞こえているだけかも知れないが。


しかし、こいつら食事の挨拶ひとつとってもそうだけど、ストリートチルドレンにしては、品も知識も一端にあるというか、ありすぎる気がする。

もしかしたら、こうなったのも、最近の話なのかも知れないな。


そんな想像をしながら、俺はシャロンの何処が悪いのかをコアに尋ねてみた。


『わかるのは状態だけ』


状態は?


『呼吸器に問題がある』


ぜんそくとかか?


『不明』


対処方法は?


『一般的には、ポーション』


は? ポーション? 吸入ステロイド薬みたいなものじゃないんだ?

うーん、流石魔法のある世界。


じゃ、代表的なポーションのリストを頼む。


 --------

 ポーション          5DP

 キュアポーション      10DP

 マナポーション       20DP

 ハイポーション       50DP

 ハイキュアポーション   100DP

 ハイマナポーション    200DP

 エリクサー      10,000DP

 ネクタール     150,000DP

 --------


『ポーションはケガ、マナポーションは魔法力の回復、キュアポーションは状態異常からの回復』


じゃあ病気の回復は?


『ポーションとキュアポーションを症状にあわせて使用する』


うーん。よくわからんが、最下級なら15DPか。とりあえず両方飲ませてみるか。

てかそれしかクリエイト出来ないしな……


俺はこっそり、ポーションとキュアポーションをクリエイトした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


「ごちそうさま」

「よし、食べたな。そしたら、シャロンはこれを飲め」


おれは机の上に、ポーションとキュアポーションを並べておいた。


「え? これって、ポーション?」


マイユが驚いたように言った。


「まあそうだが。珍しいのか?」

「そういうわけじゃないけど……」


珍しいと言うほどではないが、教会専売で高いそうだ。

薬師とか錬金術師とかいないんのかな?


「まあいいや。シャロンに効くかどうかわからないけど、とりあえず飲んでみろ」

「え、だって、そんなお金……」


「うーん。じゃあ二人で俺の仕事を手伝ってくれよ」

「仕事って、屋台をやるとか言ってた?」

「まあそれもある。他にもアネットさんとの関わりとかな。具体的に何をやるかははっきりしてないが、人手があると助かるし。もし手伝ってくれるのなら、ポーションや食事は福利厚生の一環だ」

「ふくりこーせー?」

「えーっとつまりだな、働く人のいろんな面倒を見るのが、雇った人の責任、みたいなことだ」

「そんなの初めて聞いたよ」

「いいんだよ。俺のところはそうなんだ」


あんまりな発言にマイユは呆れていたが、シャロンがポーションを持って、お姉ちゃんと言うと、こくりと頷いた。そうしてシャロンは、そのままポーションを飲み干した。


「どうだ? 効いた感じあるか?」

「うーん、わかんないけど、ポカポカして元気が出た気がする」

「よし、こっちのキュアポーションも飲んでみろ」

「うん」


キュアポーション?! とマイユが目を白黒させていたが、無視だ、無視。


「あ、こっちはなんだか体が軽くなった気がする!」

「そうか。まだ効果があるかどうかわからないから、しばらくは大人しくしてろ。なにかあったらすぐに言うんだぞ」

「うん」


「よし、じゃ、行くか」

「え? どこへ?」

「とりあえず引っ越しだな。なにしろここは壁が3方向しかない奇抜な建築だから、ちょっと不便だろ? 持って行きたいものがあれば俺が運ぶからまとめとけ」

「ええ?! ちょっと、いきなりすぎない?!」

「ポーションを飲むことを許したってことは、俺を手伝うって事だろ?」

「……まあ、それはそうなんだけど」


彼女はまわりを見回して、少しためらうように見えた。

俺はそれを見て、都合が良すぎて怪しいし、もしかして人買いなのかも、なんて考えているのだと思った。それが勘違いだったと分かるのは、ずっと後の事になる。


「心配するな。衣食住を保証するのは雇い主の責任だ」

「それも、ふくりこーせーってやつ?」

「ま、そういうことだ」

「変なヤツ」


ふたりが持って行きたいものは、ひとつの箱に全て収まっていた。


他人が見ればがらくたに見えても、本人達にとってはとても大切なもの。そこにはそういうものが詰まっていた。


そういや俺も、河原でひろったきれいな石とか持ってたよな。なにか俺に拾われるのを待っていたみたいな……運命っての? そんなものを感じてたっけ。


こうしてみれば、ふたりとの出会いもそれと同じようなものなのかもしれないな。


『顔に似合わず、ロマンチスト』


やかましい!

コアの突っ込みに、少しだけ上気した俺は、つっけんどんにそう返した。


その日はもう一度、微睡みのノール亭に3人で泊り、翌朝約束通りマイヤー商会を訪ねることにした。


銅貨の罠? もちろんふたつともセットしたとも。


DP:6 (debt:-10,000) RD:19,630

金貨 1, 銀貨 9, 小銀貨 6, 銅貨 3



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