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DAY 1 ミルダス

門――南門と言うらしい――をくぐってみると、そこは中々大きな街のようだった。


「ま、領都ほどじゃないが、ミルダスは、この辺じゃ一番大きな街だからな」


ミルダスという街なのか。

そう言うベイリーの姿には、その街の治安を守る一員としての誇りを感じた。


西側には大規模な庶麦や貴麦の畑を有する地域が多く、王国の食料通商路の拠点となっている街だそうだ。

また、東側には広く森や山脈が広がっていて、狩り場も多く、護衛依頼の多さも伴って、冒険者の数も多いらしい。


「カネも身分証もないショータじゃ、すぐにギルドへ行くことになると思うが、面倒を起こすなよ」


冒険者の数が多いと言うことは、血の気が多いものの数も多いと言うことで、喧嘩などは日常茶飯事。

取り締まる側も、行き過ぎなければ大目に見ているようだった。


ひ弱なダンマスなんか、ワンパンだな。


「起こしませんよ! ところで、ベイリーさん。奥さんやお子さんは?」

「なんだ、突然。一応5つになる娘が一人いるが……やらんぞ」


いや、それ貰ったらロリですがな。5歳の女の子なんかいりませんがな。


「いえ、お礼にこれを」


そう言っておれはミルカン飴を4個彼に渡した。オリジナルなんで、個別包装されたまんまだけど、まあいいか。


「なんだこれ? 透明な……紙? 一体なんでできてるんだ?」


あー、やっぱり包装材に目がいくか。ポリプロピレンやポリエステルはこの世界にはなさそうだもんな。似たような魔物素材はあるかもしれないが。

しかし裸で渡すわけにもなぁ……ここは華麗にスルーで。


「それは飴です。娘さんと奥さんへのおみやげですよ。こうやって袋を破いて中の丸いやつを取り出して舐めて下さい」


そう言って取り出した別のひとつを、破いて見せて中身を取り出し、彼に渡した。


「ぬおっ! これはっ!?」


想像だにしなかった味に、ベイリーは思わず目を見開いた。


「砂糖を使った菓子か? まろやかな甘みと言いそれだけではなさそうだが……しかし、あまり高価なものは立場上受け取れんのだが……」


ああ、門番だもんな。賄賂はNGだろう。


「砂糖は高価なんですか? それは俺の故郷では、それほど高価なものではないのですが」

「なんだ、ショータの村は南部にあったのか」

「へ?」

「同じような調味料でも、塩と違って、砂糖は南からの輸入でしか手に入らないから、ここらじゃとても高くておいそれと手が出せないんだよ」


砂糖は大陸南端付近の特産で、生産量の少なさもあってこのあたりでは高値で取引されているらしかった。

塩の方は、王家が専売にしていて、比較的安定した価格で提供されているそうだ。昔の専売公社みたいなものか。必需品だしな。


ちっ、コンビニで買うとき、塩と砂糖を逆にしていれば……って、あれ? まてよ?

俺はそのとき、とある事を思い出していた。


「そういうわけだから、この辺じゃ結構貴重なものになるぞ。本当に貰っても良いのか?」

「ええ、ベイリーさんにはお世話になりましたから」


そう言うとベイリーは嬉しそうに笑い、最後に色々と注意をしてくれた。

曰く、南東にあるスラムには迷い込むなとか、現金を作るためにものを売る店やギルドの場所だとか、金が出来たら泊まると良いお薦めの宿とかだ。


「じゃあ、気をつけてな。犯罪は犯すなよ」

「犯しませんよ! いろいろとありがとうございました」


そうして手を振りながら、去っていくベイリーを見送ったころ、空は大分赤味を増していた。


「とりあえず、宿かな」


そう呟いて、ベイリーが教えてくれた、そこそこ安くて清潔で、それなりに料理も美味いという宿に向かおうとした。


「宿を探してるの?」


ん? 突然かけられた声に、後ろを振り返ってきょろきょろする。


「下」


んん? と見下ろすと、そこには俺の半分くらいの身長の、ぼろを着た女の子?が俺を見上げていた。

やせこけてはいたが、目には強い光が宿っていて、頭の上には――


「耳?」


獣人キタコレーーーーーー!


いや、俺は断じてケモナーなどではない。

とはいえ、ファンタジー世界を感じさせるものといえば、角の生えたでっかい兎としか遭遇していなかった身としては、なかなかに感動ものだったのだ。


「なに? 獣人が珍しい?」


俺はかがんで、彼女と目線を合わせた。


「まあね。俺の住んでいたところには居なかったんだ」

「変わった場所なのね。それで宿を探しているわけ?」

「ああ。ええっと、『微睡みのノール亭』って知ってるか?」

「知ってる。冒険者御用達で、ノールって言うのが、地の妖精の一種だなんて言ってるけど、実は初代店主の奥さんの名前だって事までね」

「そりゃすごい。じゃあ、そこまで案内してくれるか?」


彼女は黙って頷くと、小さな掌を差し出してきた。


「ん?」

「案内料」


あ、これは失礼しました。

俺は黙って、ポケットの中で収納から小銀貨を取り出すと、そっと彼女の掌の上に置いた。

掌の上に置かれた、それを見た彼女は、目を見開くと、急いでそれをポケットに入れて、探るような視線を向けてきた。


「あなた、少女に欲情するタイプ?」

「なんですと?!」


いきなりなんてことを言い出すんだこいつ。誰かに聞かれたら風評被害も甚だしいだろ。


「じゃあなんで? 小さい子供の案内なんて、奮発したって銅貨でしょ。ケチは賤貨くらいしか……あ、ケチならあっちへ行けって追い払われるんだった」


なんかませてるというか、達観している子だな。


しかし俺が持っている金で一番桁の小さいのは小銀貨なのだ。銅貨も入れておけば良かったが、それは後の祭りだった。

いまさら、彼女からお釣りを貰うわけにも行かず、「いや、このあたりの常識に疎いんだ。もしかして、多すぎた?」とごまかした。


「あなたが、慈善が趣味のお金持ちか、少女をたぶらかそうとする変態か、その両方でないならね。ま、貰えるものは貰っておくけど」


そう言って彼女は北に向かって歩き出した。


「ついてきて」


その小さな背中を見ながら、俺は立ち上がって、彼女の後を付いていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


南門から、右の脇道に入り、入り組んだ小径をぐねぐねと歩く。すでに何処を歩いているのかよく分からなかった。

きょろきょろと辺りを見回している俺を見て、女の子が「心配しなくてもこの辺りはまだ大丈夫」と声を掛けてくれた。


まだ大丈夫ってことは、大丈夫じゃない場所があるって事なんですね、わかります。


「この先を今の倍くらいあっち(たぶん東の方向だ)へ進むと、ちょっと心配した方が良い場所になるから、素人さんは踏み込まない方が無難かな」

「あ、はい」


思わずかしこまって返事をした。

その後10分ほど歩いたところ、目の前には確かに「微睡みのノール亭」の看板が掛かっていた。


「ここから北にまっすぐ行くと冒険者ギルドに出るから。それじゃ」

「あ、ちょっと待て」

「なに? やっぱり少女に……」


違うっての。


「ここまで歩いてきたけど、とても元の場所に帰る自信がないから、もし良かったら、明日も街の案内をしてくれると助かるんだけど」


彼女は少し逡巡する様子を見せたが、すぐに頷いた。


「いいわ。今日はたくさんお金を貰ったし、明日も雇われてあげる」

「助かる。俺は翔太だ」

「ショータね。私はマイユ」


マスタードみたいな名前だな。


「なに?」

「いや、良い名前だな」

「そう? それでショータ。明日はいつ頃来ればいいの?」


うーん、この世界の時間ってどうなってるんだかわかんないからな……


「朝、宿で朝食が出されている頃、適当に来て呼びだしてくれ」

「わかった。それじゃまた明日」

「ああ、よろしくな」


そういうとマイユは宿の前から駆けだして、南の角を左へ折れていった。

え、そっちは素人さんは踏み込まない方が良い場所なのでは……大丈夫なのか? まあ、考えても仕方がないか。

俺は宿を見上げて、もう一度看板を確認すると、扉を開けて入っていった。


そういや、字、読めるんだな。いや、便利で良いけど。


◇◇◇◇◇◇◇◇


宿はこぎれいな個室で、1泊小銀貨2枚。2食付きで小銀貨3枚の安さだった。


お湯の代金や、灯りの代金など、銅貨レベルでいろいろオプションがあったが、全部加えたところで小銀貨4枚にもみたないだろう。

もちろんもっと安い部屋もあったが、コアのことを考えると個室しか選択肢がなかったのだ。


ともあれ、食事付きで3~4000円だと考えれば、安そうに思えるが、冒険者の宿としては立派な中堅どころと言ったところのようだった。


俺は、夕食(思ったより旨かった)をすませて部屋に上がると、ショルダーバッグを床に置いてダンジョンを展開した。

どうやら借りている間は、所有権を主張できるようだった。部屋の備品の解析はNGだったが。


「2Fで展開したダンジョンって、領域はどうなってるんだ?」

「立体的な配置の場合、半径5mの球」


マップを展開してみると、2Fの廊下と、丁度真下にあたるらしい1Fの食堂の一部が含まれていた。

公共部分も俺が利用できる場所ならダンジョン化できるようだ。


これはつまり、廊下や1Fの道を誰かが通る度に、なにかアクションを起こさせることができれば、寝ててもDPが追加されるってことだ。

一応銅貨を落として拾わせるという宝箱作戦を考えたのだが、拾われた後配置することが――


「できる」


なんだと?


「宝箱の自動ポップ機能を使う」


ダンジョン内に宝箱を設置する際、リポップを設定しておくことで、宝が持ちさられた後、設定した内容でリポップさせることができるらしい。

必要なDPは、設置に1。中身をクリエイトするならその分のDPが別途掛かる。中身を外部で用意すれば、その分のDPは不要だとのことだ。

ダンジョンが広大になると、とても一つ一つ管理していられないからこういう機能が必要になるらしい。


「宝箱の中のお金は、外から来た冒険者が持っていたものを使うのが普通」


DPを使うと、その世界で回っている貨幣の枚数が増えたり減ったりするからなぁ……って、そんな理由かどうかはわからないけれど。

外部から与えるのはクリエイトされたアイテムでも構わないらしい。吸収も出来るそうで、NGなのは解析だけのようだ。


「まあ、やってみるか」


俺は2DPを銅貨20枚にして、廊下と道に配置した。

リポップ時間は2分に設定しておいた。自動ポップの宝箱を設定するコストに2かかるため、残りDPは6。一応温存しておこう。


「同じやつが連続して拾って、もしDPが得られなかったらリポップ時間を倍々に伸ばしてくれ」

「了解」


「しかし、1日平均100DPか。今日がゼロだから、明日は200DP。どうすっかなぁ……」

「マスターの攻撃力で、攻撃は絶望的」

「だよなぁ。肩たたきは長時間続けられないし……」

「大丈夫。マスターは狡賢い。きっと何か思いつく」

「え、これって、ちょっとデレてるの? だが、全然誉められてる気がしねぇ……」


ま、元手を作って屋台で商売でも……


「あ、そうだ!」


俺は、ベイリーと砂糖の話をしたときに思い出したことを思い出した。


収納から取り出したのは、インスタントのカップコーヒーだ。

そう、この商品にはコーヒーの粉とミルク、そしてスティックのグラニュー糖が付いているのだ!


早速ひとつをバラして、グラニュー糖を取り出した。その量なんと3g。しかし1gでも解析さえしてしまえば――


--------

グラニュー糖 3Kg/DP

--------


――ってわけだ。


もし、これが売れれば、そのカネを元手に屋台でも開いて、後は売りまくるなり配りまくるなりすればDPが得られるはずだ。


んー、なんだかイケそうじゃね?


何とかなりそうな気分にもなれたし、俺はコアに誰かがドアをあけようとしたら起こすように指示をして、そのままベッドで目を閉じた。

ダンマスも眠る必要があるのかーと、少し安心したところで、俺の異世界生活は1日目の幕を下ろした。


DP:4 (debt:-10,000) RD:1,800

金貨 0, 銀貨 1, 小銀貨 6, 銅貨 20


街に入れたところで、第1章は終了です。

第2章は最初の10日間が描かれます。

主人公は果たして利息が払えるのか?! お楽しみに。


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