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DAY 1 侵入者

「侵入者? なんだそれ?」

「ダンジョン内に、僕や眷属以外が入ってきた」


(しもべ)ってのは、作り出したモンスター達で、眷属ってのは、その中で特別な位置づけの個体のことらしい。


コアがそう言うと同時に、目の前に展開されたダンジョン内マップの端に、赤いピンが立っていた。どうやら、この3Dマップがダンジョンの範囲で、赤いピンが侵入者を表しているらしい。

マップの中央にある水色がダンジョンコアで、緑が俺のようだ。


「で、侵入者って?」


そう聞いたとたん、赤いピンの横に情報が表示された。


○-- 角兎 lv.2


「角兎?」

「角の生えた兎」


いや、それ、まんまじゃないか。アルミラージみたいなものかね?


ピンが示す方向を岩の上から覗いてみると、茂みの中から、鼻をひくひくさせた灰色の兎が顔をのぞかせた。……って、あれ、兎なの? 1mくらいありそうなんだけど。


「とても美味しい」


さりげなくコアが重要な情報を付け足した。

そうか、美味しいのか。確かに食いではありそうなサイズだよ。


しかし、そう言われたところで、武器になりそうなものはなにもないし、素手じゃ、どうやっても勝てる気がしない。


「石でもぶつけてみるか?」

「妥当なアイデア」


俺は手近な所にあった20cmほどの岩石を拾うと、狙いを定めて兎に向かってそれを投げつけた。


だが世の中、そんなに甘くはない。岩石は兎を直撃せず、砕けた破片がそれを擦ったに過ぎなかった。当然兎は逃げていく。文字通り脱兎のごとく。


「ヘタ」

「う、うるさいやい!」


そこそこ大きなサイズとはいえ、屋根の上から変な形の石を投げて命中させることは意外と難しい。練習もしていないんだからなおさらだ。


しかしコアのやつ、容赦ないなと苦笑いしていると、またピコンという音が聞こえて、視界の左側にあるログに表記が追加されていた。


『角兎を撃退。1DPを取得した』


「……は?」


そのとき、俺の頭には、はじめて月に降り立った宇宙飛行士の台詞が飛来した。

"That's one small step for Dungeon Master, one giant leap for me."


左上の赤字部分を見ると、確かに


DP:1 (debt:-10,000)


となっていた。

そして、マップ上には、俺と同じ位置に灰色の点が数個ごちゃっと現れた。


「コア。DPってダンジョン内で侵入者を倒して取得するんじゃないのか?」

「正しい。でも撃退するだけでも取得できる」

「なぬ?」


詳しく話を聞いてみると、どうやらDPというのは、侵入者がダンジョンに入ってきたあと、死ぬか、ダンジョンを出て行った時に加算されるものらしい。


侵入者を倒したときに得られるDPを100%とすると、撃退時に加算されるDPは、ダンジョン内での行動や与えたダメージにもよるが、最大で50%、最低で1だということだ。


「入って、出ただけで1は得られるってこと?」

「そう。ダンジョンの範囲に入った後、ダンジョンに対して何らかのアクションを行うと侵入したとみなされる」


なるほど、ただ足を踏み入れただけではだめなのか。


いまの場合は、ダンジョンに属する俺が攻撃して、それが当たったからダンジョンに入ったとみなされ、ダンジョン範囲から出たところで撃退と判定されたようだ。


「それなら、罠とか仕掛けておけば――」

「DPが必要」

「くっ、罠もDPで設置するのか。手で作った罠は?」

「それはダンジョンの攻撃とみなされない。ただ、マスターや眷属が手動で発動すれば別」

「それなら、石でも投げた方が早いな。あと、なんだか灰色の点がごちゃっと現れたんだけど」

「それは、解析可能オブジェクト」

「解析?」


ダンジョン内では、ダンジョンが所有するアイテム――通常は倒した冒険者の持ち物だ――を『吸収』してDPに変換できるらしい。そこまでは普通?なのだが、INF系コア(インフェルノモードのコアらしい)では、それに加えて『解析』が利用できるそうだ。


『解析』は、対象を解析してDPでのクリエイトリストに登録する機能だが、実行にはDPを消費するため、ゼロの時点では点が表示されなかったようだ。


「消費って、いくつ?」

「1」


なるほど。灰色の点はミルカン飴か。

コンビニの商品は俺の所有物だから、DP1を使うことでクリエイトリストに登録することが出来るのか。


「解析したものをクリエイトするのにかかるDPは?」

「最初のひとつは1。それ以降は、そのものの価値による」

「解析のサイズに制限は?」

「事実上ない」


お? なら質量兵器が作れるんじゃ……


「クリエイトしたものの出現位置は?」

「ダンジョン内で任意」


簡易ダンジョンの領域は、作成時点でコアを中心に大体半径5m。質量兵器は無理だな、俺も潰れかねん。


しかし、入れたものはどんなものでも1で取り出せるってことだよな。

……それってDPを2使えば時間停止、容量無制限のアイテムボックスと同じ事ができるんじゃ。


「なにか制限があるか?」

「現在解析保持限界数は20。また、DPでクリエイトしたものは解析対象にできない」


ああ、出し入れしたら、2度と入れられないってことか。DP2を使ったアイテムボックス無双は無理だってことだな。それに、適当に纏めて解析しちゃうと、後からバラで解析をやり直すことができなくなるってことだな。気をつけよう。


俺は試しに手元のミルカン飴を解析してみることにした。


「まてよ」


個別包装材は、ポリプロピレンやポリエステルだ。後で取り出すときに説明に困りそうだから、取り出して飴本体だけを解析させた。その瞬間、掌の上の飴が光の粒になって溶けるように消え、視界左上の赤字表示が、


DP:0 (debt:-10,000)


になった。

そしてクリエイトリストの「解析アイテム」項目には、

--------

ミルカン飴 80個/DP

--------

が追加されていた。灰色文字で選択不可なのは、DPがないからだろう。


他のコンビニアイテムも、チャンスがあったら解析して登録しておこう。


しかし、もし領域に入って出ただけでDPが加算されるなら、兎を捕まえて、領域に入れたり出したりすれば……もしかしてイケるんじゃね? 


「撃退のDPは、その個体が自分の意志でダンジョンに入らないと得られない」

「え?」


コアの話によると、冒険者の養殖対策でそういうルールが出来たらしい。


捕まえた冒険者を拘束して死ぬ間際までダメージを与え、ダンジョンの外に放り出してポーションで回復させる。気絶している冒険者をもう一度ダンジョンに引きずり込んで、気付かせるとまたダメージを与え……とういのを延々と繰り返してDPを稼ごうとしたやつがいたんだそうだ。


「そりゃまた……賢いというのか、なんというか」

「ダンジョン運営がずさんになるから対策された」

「そういう理由なのかよ」


つまり、餌でもまいて自発的にやってくる個体しか対象にできないわけで、それを撃退したとしても、せいぜい1日に数ポイントにしかならないだろう。10日に1000ポイントとか絶対に無理だ。ヘタすりゃ100ポイントだって怪しい。大体、熊でもやってきて、反撃されたら確実に詰む自信がある。


俺はしばらく考えていたが、結局これしかないという結論に辿り着いた。


「よし! 人が一杯いる街へ行こう」


要するに簡易ダンジョンの中に多数の生物が入ってくればいいわけで、それならレベルの高い者がいそうな、人間の街がいいだろう。


街に住んでいる社会性のある文明人なら、むやみに攻撃してきたりしないし。……しないよね?


問題はダンジョンに入ったと認識させる方法だな……


「コア。DPゼロでやれることって、なにかあるのか?」

「管理機能は有効」


あー、さっきのマップとか情報表示とかか。

あれで、情報を表示するだけで、攻撃したとかされたとかと見なす事ってできるのか?


「無理」


ですよねー。


「まあ、道すがら考えるとするか」

「さすマス。行き当たりばったり」


なんだよ、さすマスって。俺の記憶から構成されたボキャブラリーだとすると、流石マスターか?


「さすマス。正解」

「うっせ!」


そう言って俺はコアをショルダーバッグごと拾い上げて肩に掛けた。

岩の上に立ち上がって、尻をパンパンとはたく。


日はまだ高い。

道は丘の下にある。

腹はとくに減っていない。というか喰う前に解析したい。


カネはないしDPもないが、俺の先行きは明る――


「しまった。街がどこにあるのか分からん……」


――くなさそうだった。


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