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DYA 8 モンスター召喚

「マイヤーの前で、砂糖をまぶした甘い菓子が、ひとつ銅貨1枚で売られている、だと?」


ミルダスに流通する砂糖の大部分を押さえている、ダブリン商会で、レイフト=ダブリンは、部下のサーチルから報告を受けていた。


「銅貨1枚だと、ほんのわずかだろう?」

「いえ、それが……ためしに買ってこさせたところ、たっぷりとまぶされていました」

「それで、うちがマイヤーにだけ安く卸したんじゃないかと苦情が来たわけか」

「はい」


しかしたっぷりと砂糖をまぶした菓子が銅貨1枚だと?


「うちで同じ量を出すとしたら、どのくらいだ?」

「小銀貨1枚でも難しいかと」

「なんだと?」


いくら安売りしていたとしても、10倍は無理がありすぎるだろう。どういう根拠なんだ?


「使われている砂糖に雑味がありません。同程度の質ともなると、銀貨でも怪しいです」

「そんな馬鹿な話が――」


あるはずがないと、そう言おうとした時、サーチルがその菓子だと思われるものを差し出した。


「こちらになります」


レイフトは黙ってそれを受け取り、細かく検分すると、一口囓ってみた。


「むっ、これは……」


確かに、この雑味のなさは、うちの最上級品に勝るかも知れない。サーチルが言うのも、もっともな話だ。

屋台での販売と言うからには、今はまだ最上級品など口にしたこともない庶民が食べているだけだろう。それが、非常に美味しいということ以外はわからないだろうが、もしも最上級品を口にする層がこれを食べたりしたら、砂糖で暴利をむさぼっていたと勘違いされかねない。


「調べろ」

「は?」

「マイヤーがこれをどこから仕入れたのかを、だ」

「わかりました」


くそ。今のうちにバーリアンに命じて隣の屋台を潰させるか?

いや、それは下策か。あのクソジジイが亡くなったとはいえ、仮にもマイヤーだ。


仕入れ先を調べて、マイヤーの数倍の価格で買い占めてやればいいだろう。

本当に価値通りだとしたら、数倍どころか100倍でも利益が出るかもしれん。


願わくばうるさい貴族どもにかぎつけられる前に、仕入れ先を見つけたいものだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


ダンジョンバトルのことを聞いた俺は、もう少し外の世界に監視の目を向けた方が良いんじゃないかと考えていた。前の世界でも情報は力だったしな。


「なあ、コア」

「なに?」

「しばらくここでダンジョンを開きっぱなしにしているわけだし、周囲の索敵用にモンスターを召喚してみたいんだ」

「良い心がけ」


そういうと目の前に召喚モンスターリストが開いて、ずらっと表示された。ものすごい数だ。

系統で表示/非表示を切り替えることもできるようだったが、もっとも安直な方法を選んだ。


「お薦めはあるか?」

「希望は?」

「言われたことを自立的に判断できる知能があって、必要なときだけ通信を要求してくるようなモンスターかな」

「それくらいなら大抵できる」

「え? 虫とかでも?」

「そこそこ」


そこそこかよ! まあ、出来るなら問題ないんだけど。


「後は、街の中で活動できることも重要だな」


リストの数がごそっと減った。まあ、街中で活動できるモンスターは少ないよな。


 --------

 シャドウラット 120DP

 --------


小さな鼠なのに高いな!

因みに、ゴブリンやスライムのベース(何も装備していない状態)は1DPだ。


「かなり強くて賢こい。影に潜るスキルを持っている。別名アサシンラット」


むう、物騒な別名まであるとは、さすが120ゴブだけのことはあるのか。


「なあ、コア。このステータス部分にある、x 0.4ってなんだ?」

「インフェルノモードのモンスターの強さは、ノーマルの4割」

「は? インフェルノモードって、開始時の負担が大きいだけじゃないの?」

「甘い」


よく考えてみたら、この手のゲームの高難易度モードは、敵が強くなったり堅くなったりすることは普通だ。しかしこの世界じゃ、いろんなモードでプレイしているやつらが混在しているから、敵を強くするわけにはいかない。だから、相対的に自分が弱くなるのか!


「その代わり、(しもべ)の成長上限はノーマルの8倍」


8倍?! 育てればものすごく強くなるのか……しかし育てるって、どうやって?


「人間や他のモンスターと戦えば強化される」

「他のモンスターを倒すと、ダンジョンバトルになるんじゃないの?」

「野良なら大丈夫。あと、ダンジョン内に攻め込んだりしなければ、判定はかなり緩い」


偶然のエンカウントくらいじゃ、ダンジョンバトルにならないってことか。


「それと、ダンジョンに侵入してきたものを倒すのは問題ない」

「それだって、相手が侵入してきたのなら、ダンジョンバトルになるんじゃないか?」

「その場合、バトルの開始は侵入された側に権利がある」


なるほど。

しかしそう言う状況だと、うちのダンジョンの場合、侵入者とコアの距離は最大でも10mしかない。(しもべ)の強化以前に、命の危機だと言える。

そもそも、あっというまにやられちゃいそうだから、成長する個体そのものがいるかどうか怪しい。まさに絵に描いた餅。捕らぬ狸のなんとやらを地でいっている。


「強いモンスターを召喚して、弱い敵と戦わせるとか?」

「モンスターには適正レベル帯がある。それ以下との戦いは、成長効率が著しく悪い」


ああ、ありますよね、そういうシステム。


はぁ~、八方ふさがりだな。

だが、今作ろうとしているのは偵察用だ。だから多少弱くても問題ない!

4割は全然多少じゃないけどな……


よし、鼠は、一応保留で。


 --------

 ナイトバーディ 40DP

 --------


黒い色をした10cmくらいの小鳥らしい。

これも中々強く、くちばしを吹き矢のように飛ばして、冒険者の目を奪う性質から、ブラインディングデビルとも呼ばれるそうだ。怖いな。


鳥だと素早くいろんな所へ行けてよさそうだが、地下室とかに潜り込むのは違和感があるか。

いろんな場所に潜り込むなら虫かな。


 --------

 G       1DP

 --------


Gって……いるんだ、この世界にも。

しかし、小さくて素早くて、空も飛べるし、中々死なない素晴らしい体なのに、なんで1ゴブなんだ?


「繁殖力が強いから安い。斥候としては、すぐに駆除される傾向にある」


なるほど……有名だけに駆除技術も確立しているわけか。


しかし夜の闇に乗じて、これを100匹くらい街に放てば、結構な情報網が……

そこまで考えて、報告しに100匹のGが夜な夜な部屋にやってくる様子を想像した俺は、そのアイデアを却下した。


そうして、いろいろ悩んだあげく俺が選択したのは、タイニーモスキートだ。

お値段10ゴブ。


タイニーモスキートは、蚊という名前が付いているが、れっきとしたモンスターで、そのサイズはわずか2mmほどだ。そのため防御力はほぼゼロで、赤ん坊に叩かれても死ぬらしい。


しかし、さすがに10ゴブもするだけあって、高速で飛ぶことも出来るし、オプションで毒を持たせて血を吸う代わりにそれを注入したりも出来る。

小さいのでよほど強力な毒を持たせないと相手を倒したりはできないが、即死級の超高額な毒を持たせて、大量に送り込んだりする戦術もあるらしい。

外で活動させる際の問題は、すぐに蜘蛛や鳥や蝙蝠の餌になってしまうことなのだとか。


隠密的な使い方には便利だろう。

なにしろ体長2mmの虫だ。普通は気がつかない。


「よし、タイニーモスキートを10匹召喚する」

「わかった」

「名前は、TM0~TM9だ」

「ネームドオプションを有効にする」


え? オプション? なにそれ? もしかしてDPがいるんじゃ?!

召喚を止めようとした俺を尻目に、コアは10匹のネームドタイニーモスキートを召喚した。


「こ、コア。ネームドオプションのコストって……?」

「5倍」

「のおおおおお!」


俺は頭を抱えてヘドバンを繰り返した。5倍って、全部で500DPかよ?!


ちらりと左上の数値を確認すると、700DP弱。げふっ……

ま、まずい……金で払うにしても、あと3万ラディールはかかるぞ?!


「後1日あるとはいえ、明日が雨だったりしたらどうなるかわからん……返品は?」

「1/10」


デスヨネ。


くそっ。後は祈るしかないか。

召喚してしまったものは仕方がない。俺は肩を落としながら召喚されたTM0~TM9のステータスを確かめた。


「おい、コア。リストされてたのと10倍以上違いがあるんだが……」

「ネームドオプションのせい」


5倍のコストでステータス10倍キャラならお得なのか?

もっとも最弱防御力が10倍になっても、弱弱(よわよわ)であることに違いはない。

それでも、赤ちゃんが叩いてもしなないかも、くらいにはなったようだ。

ただし、もともと高い素早さなどは凄い数値になっていた。これなら捕食者に襲われても逃げ切れるだろう。


「こいつら眷属化するとどれくらいコストが掛かる?」


TMシリーズの活動は、どう考えてもダンジョンの外だ。

召喚モンスターをダンジョンの外で運用すると、維持にDPが掛かるらしいから、眷属化のほうがお得かも知れない。それにダンジョンを閉じる度にパーになるのはちょっと避けたい。なにしろ500DPもかかったのだ。


「各レベル1。たぶん1DP」

「じゃ、全部眷属化する」


いまさら、10DPをケチっても始まらないからな。


気がつかないくらい小さな光が発生したかと思うと、TMシリーズの体に吸い込まれた。

吸い込まれたよな? 何しろ2mm。ちょっと離れるとよく見えないのだ。


『『『『『『『『『『よろしくマスター』』』』』』』』』』


なんと、蚊なのに話せるとはすごいな!


「よし、TM0~3は、東西南北の門で待機。ダンジョン関係者を見張れ」

『『『『カー』』』』


YESはカーなのかよ! いやまあ、プーンとか言われたら、NOと勘違いしそうだからいいんだけどさ。


とにかく、俺がダンジョンバトルで恐れなければならないのは、今のところ不意のエンカウントバトルだけだ。なにしろリストには載りようがないからな。


見張りを門のところに配置して、それっぽい相手を確認しておけば、それも防げるはずだ。ていうか、防げろ。


どうやら、ダンジョンモンスターや眷属にとって、自分達以外のダンジョンの眷属やモンスターは見れば大体分かるらしい。大体というのは、ずっとそのダンジョンに潜り続けている人間を、ダンジョンの眷属と誤認したりすることがあるからだそうだ。


なにかダンジョンエキスみたいなのが、出てるのかね、ダンジョン。

それに浸り続けていると、ダンジョン臭が移るとか?


ともかく、近場のダンジョンの連中も、自分達のお客さんである街の情報を収集していないとは限らない。屋台でばったりあってバトルが始まったりしても困るんだ。


「TM4~8は、街を分担して徘徊。俺たちに対する敵意や情報を収集」

『『『『『カー』』』』』


そう命令すると、彼らは一瞬で消えたかと錯覚するような速度で、表に飛び出していった。すでに蚊とは思えない。


「TM9は、表の二人の見守りだ。コアは常時そいつらの視覚や聴覚をチェックしておいてくれ」

『カー』

「コア使いが荒い」


そのとき俺は、眷属にした瞬間、INFコアの係数が掛かることをすっかり忘れ去っていた。


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