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DAY 8 ダンジョンバトル?

初日こそ、サンド10個、耳揚げ75個、ニモカラ63個で、経費を引いた利益は、+138DP, +2,610RD だったが、2日目以降は、口コミで広がった噂につられて、耳揚げとニモカラの売り上げはかなり増えた。特に耳揚げ。1本銅貨1枚から買える気楽さも手伝って、試しに囓った後、制限一杯の4本を購入していく客が多かったのだ。


サンドは、それほど多くは売れないが、固定客がいて、その人達が毎日買っていくって感じだ。

そういや、件の研究者気質のウォーレンは、毎朝顔を出しては、サンドをひとつ買っていく。


DP RD

初日 138 2,610

2日 260 6,160

3日 384 8,500


8日目の朝にして、俺の視界の左上にある文字は、


--------

DP:1093 (debt:-10,000) RD:44,420

--------


となっていた。

最初の借DP返済日に死亡しないため最低ラインは1,000DPだ。


「よしっ」


思わずガッツポーズを決めていると、シャロンが「どうしたの?」と聞いてきた。


「最初の10日を乗り切れそうだ」


ころころと転がってきたシャロンが、あぐらをかいていた俺の太ももに顎を乗せる。


「それってよくわからないけど、今のままいられるってこと?」

「まあ、そうとも言えるな」

「ならいいやー」


へにゃっと笑って、足をばたばたさせる。


「ほら、朝飯にしようぜ。今日もよろしくな」

「うん!」


そう言って、シュタッと立ち上がると、テテテーとダイニングに向かって走っていった。

和む。なんだかもう、ダンジョンなんか作らないで、利息だけ返しながらダラダラするのもいい気がしてきたぞ。


「10日で100万円の維持費」


速攻でコアの突っ込みが入った。

確かにそう考えると、凄いコストのかかる平和だよな……


まてよ、インフェルノ以外のモードなら維持費(利息)もかからないし、元手もあるんだから、簡易ダンジョンモードだけでこうやって生きていけるんじゃ。

とくにウルトラハード。借金なしの1,000DPスタートだろ。しょぼいダンジョンを作るよりずっとましな気がするが……なんでやんないんだ?


「ウルトラハードのマスターは稀少。それに、普通そんなことは考えない」


まあ、ダンジョンを作れと言われてDPを渡されたら、最初にダンジョンを作成するか。

俺の場合は単に作れなかったから足掻いただけだしな。


「それに、条件がシビア」


街が近くにあるかどうかも分からないし、売るものだって難しいらしい。


「なんで? 魔物素材とかは?」

「魔物素材は、魔物にくっついてる」

「くっついてる?」


コアの話だと、魔物の素材というものは、ダンジョン内で敵がモンスターを倒すとドロップするものであって、単体でクリエイトするものではないんだとか。

しかも味方が倒してもドロップ率は0%。共食いしたり餌になったりしたときドロップが出るとバラバラとドロップ品がばらまかれることになるからだ。


「なら、宝箱の中に入っているような武器や防具なら……」

「露天で数を売るようなものではない」


そりゃそうか。普通なら店に売りに行くものだしなぁ。この方式でDPを稼ぐためには、簡易ダンジョン化した場所で、短時間で大量に捌ける物じゃないと無理だ。

ポーションなら可能性がありそうだが、なにしろ最下級でも5DP。割に合うかどうかは難しいな。


「ダンジョン内に生える、薬草類とか茸は?」

「あれは、直接クリエイトできない」


そういうものはダンジョンの環境として設定するものなので直接クリエイトできないんだとか。


「なら、銅貨でいいんじゃないか? 販売対象じゃないから配る?」

「お金をただで配っていたら、怪しいし、たぶん襲われる」


うん。怪しい。俺なら近づかない。

それに、襲われたら、コアまで奪われて終了の可能性が高い。不意を突かれたときに、モンスター召喚や罠設置が出来るとは思えないし。


なお、俺たちがやったような食料だが、ダンジョン内なら、ダンジョンマスターもモンスターも、何も食べなくても生きていけるため、クリエイトで作り出す食料は基本的に嗜好品扱いで、やや高価だ。大体3DPくらいからで、一般人の撃退で元が取れるかどうかは微妙だ。

そういや、宝箱から食べ物が出てくるというのはあまりない気がするな。


「てか、俺、何も食べなくても生きていけるわけ?」

「死なないだけ。お腹は空く」


そりゃ、最悪だ。ご飯はちゃんと食べよう。


「それに、ダンジョンバトルを乗り越えられない」


……ん? 今何か耳慣れない単語が聞こえた気がするんだが。


「ええっと、コアさん? なんですか、それは??」


そのときダイニングから、俺を呼ぶ声が聞こえた。


「ショータ? ご飯食べないと、間に合わないよ」

「あ。おお、今行く」


あまりに不穏な単語に、後ろ髪を引かれながらも、俺はダイニングへと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「ありがとうございましたー」


表から軽快なマイユの声が聞こえてくる。うんうん。今日の売り上げも順調そうだな。

俺はさっきの不穏な単語が気になって、部屋に戻って、コアにそのことを尋ねていた。


ダンジョンバトル。

それはダンジョンをランクづけるための戦い……などではなく、たんなるダンジョン間の戦争だった。


「なにそれ? ダンジョンマスター同士って、仲が悪いのか?」

「ヒトとおなじ」


ああ、仲が悪い人もいればいい人もいるってことか。


ダンジョンバトルが起こる原因は様々らしい。

あのダンジョンマスターが気にいらねぇ、とか、近くにあり過ぎて冒険者の奪い合いが激しいとか、実に下らないことでも諍いは発生するようだ。


隣接するふたつのダンジョンで冒険者の数を取り合って、宝箱の中身が日々豪華になり続け、終いには1Fで20F相当のアイテムを登場させて共倒れしたダンジョンの話が有名だそうだ。

なんだか昔あった、近隣スーパー同志の安売り戦争で、豆腐1円みたいなやつを思い出すね。


それは、言ってみればダンジョン間のただの争いなので、特設リングっぽいものや、ルールみたいなものがあるわけではなく、お互いのダンジョンをお互いのモンスターや眷属で襲ってコアを押さえるだけの原始的かつ柔軟なものらしい。


「柔軟?」

「冒険者を全部横取りして、DPを干上がらせた例がある」


ははあ、ただ武力に任せて闘うだけじゃないってことか。しかし、ダンジョンをモンスターが襲う?


「それって、ダンジョン間に街があったりしたらどうなるんだ?」


そうそう隣り合わせの近場にダンジョンがあることなんてないだろう。


「ヒトの世界では、それをスタンピードと呼んでいる」


なんと、スタンピードって言うのはダンジョンバトルが原因なのかよ!

冒険者がダンジョンに潜って、魔物を間引いていないと増えすぎた魔物が溢れてくるっていうのが定番じゃないのかよ!


「間引かれないほど冒険者が訪れないと、DPに困ってダンジョンバトルを起こすマスターもいる」


ああ、完全に間違いってわけでもないのか。


「で、勝ち負けって、どうやって決まるんだ?」

「相手のコアを破壊するか、サブコア化して支配下に置けば終了」


ダンジョンコアには、自分の下に他のダンジョンコアをぶら下げ、サブコアとする機能があるらしい。

ダンジョンマスターの部下作成的な機能で、サブコアは取得DPの1~70%をコアに徴収されることになる。比率は最上位コアが任意で決定し、子コアや孫コア以下には一斉にその比率が適用される。


「子コアが襲われたりしたとき、親コアには力を貸す義務が?」

「ない」

「ないのかよ! ほんと吸い上げるだけのシステムなんだ……それって、離反されたりしないのか?」

「サブコアはダンジョンバトルを開始できない」


下克上もNGなのかよ。厳しいな。

もっとも子供を一杯持っているダンジョンコアが切り離されると、減収が激しいので、奪われたくない場合は手を貸すらしい。そりゃそうか。


「あとは時間切れ」

「制限時間があるのか?」


そこで聞いた話は衝撃だった。


ダンジョンバトルの期間は開戦後30日。

その期間で勝負が付かなかった場合は、騒ぎを起こしたペナルティなのか、両方負けになる。


その結果、仕掛けた方のダンジョンはリセットされDPは全没収。仕掛けられた方のダンジョンはDPの全没収となる。

仕掛ける側はまさに背水の陣というわけだ。仕掛けられた側も籠城するだけではDPの取られ損になる。


「それならDPをカネにしておけば……」

「厳しい」


ダンジョンバトル中は、DP/金銭の変換に、非対称の負荷が掛かるらしい。

例えば通常 100RD/DP が、DP->RDの場合、1RD/DP になり、RD->DPの場合、10,000RD/DP になったりする。


「行ってこいで、1/10,000かよ!?」


酷い比率もあったものだ。

仕掛けられる側は、いつ仕掛けられるのかわからないから、あらかじめ対策を打っておくことも難しい。


「とにかく、まともなダンジョンがないと、ダンジョンバトルを仕掛けられたときに防御力がゼロで詰むってことか?」

「そう」


なるほど。半径5mのダンジョン空間に大量の魔物が押し寄せてきたりしたら、そりゃ一瞬でアウトだろう。

しかしなぁ……


「だけど、ダンジョンバトルって、どうやってはじめるんだ?」


その瞬間目の前になにかのリストが表示された。


「これは……」


それはダンジョンのリストのようだった。名称とダンジョンランク、それに自分のダンジョンからの距離が並んでいた。

名称は、いわゆる通称の内一番有名なものが記述されているらしい。それがない場合はマスターの名前だ。

ランクは1が一番下なのか。距離はご丁寧にKmだ。


「こっから選択してバトルを仕掛けるわけか」

「違う。これは単なる他のダンジョンのリスト。普通はダンジョンを作るときに使うもの」


ダンジョンバトルは、時間切れ以外、ダンジョン管理システムの上にあるシステムというわけではない。

つまり戦争をするつもりがあるなら、どのダンジョンも好きに他のダンジョンへ攻め込めるというわけだ。


そして、その開始は、お互いが何らかのアクションを起こしたときに、何らかの基準で開始が宣言されるらしい。

よーするに、よくわからないけれど、お互いちょっかいを掛け合っていたら、そのうち時間制限を管理している誰かによって開始が宣言されるってことだろう。

カケラも安心できない情報だな……


俺は近くのダンジョンを知りたくて、なんとなく距離でソートしてみた。


「あれ? うちのダンジョンは?」


距離0のうちのダンジョンが先頭に来るはずだが、その表示がない。


「ランク0のダンジョンは、リストされない」


ダンジョンのランクは、いろいろな要素が絡むが、標準的な構成だと床面積の広さで決まる。

1フロアの広さが標準的な大きさだとすると、フロアの数ー1がそのランクに大体等しくなるそうだ。


つまり、ランク0は、フロアがひとつ以下のダンジョンだ。

出来たばかりのダンジョンをどんどんダンジョンバトルでサブコアにしちゃう初心者キラーをさけるためだろう。

俺のダンジョンは、出したり消したりしている都合上、常にランク0になるはずだ。なんというか、ひと安心だと言って良いだろう。

しかしコアからは否定的な印象が伝わってきた。


「リストに表示されないだけ」

「ん?」


そうか。戦争行為自体はシステムの外側にあるんだから、リストを見て攻撃されないだけで、リアル世界で見つかっちゃえば良いカモってことか!

もしも何かで目立ってしまって、ダンジョンの位置を知られたら攻撃を受ける可能性がある。で、攻撃を受けてしまえばダンジョンバトルの開戦だ。


しかし俺のダンジョンは今のところリセット上等だ。


「ダンジョンを閉じて逃げちゃえば?」

「難しい」


ダンジョンバトルというものは、ダンジョンがあろうとなかろうと、要はコアの奪い合いだ。

見つかってしまえば、ダンジョンのないコアなど雑魚と同じだし、ダンジョンがないほうが不利になりかねない。


空飛ぶ眷属で、ひたすら離れる方向に逃げて、時間切れを待つのがよさそうだが、こんなプレイ?をしているダンジョンマスターにそんなものがあるはずもなく、とても逃げ切れないだろうとのこと。

そもそも、最初の攻撃で終わることがほとんどだそうだ。


まあ、そうだね。バトルが開始されるってことは攻撃されると言うことだから、そのときはすでに俺がコアが攻撃を受けてるってことだもんね。あ、今はふたりの眷属もか。

これは参った。何か対策を考えておかないと。


しかし、流石冒険者の街。

最も近いダンジョンは、僅か1.6Km先だ。ランクは24。他にも4Km先にランク12が、12Kmにランク16が1つずつ存在している。

ええ、ダンジョンって、こんな沢山あるわけ??


「ダンジョンが集まっている場所に街が作られたと考えるべき」


なるほど。ダンジョンを、資源を産出する鉱山だと見なせば、当たり前のことなのか。


「ごめんください」


そのとき店の方から誰かの声が聞こえてきた。


え、客? アネットには、開けるも閉めるも好きにしろとは言われていたが、開け閉めが面倒なので、コアの範囲に入る側の入り口は以外はすべて閉じてある。

ちょっと見た目には、店は閉まっているように見えるはずなんだが……一体何の用だろう。


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