DAY 3 と思ったら、ゲットされた
「ちゃーす」
「お、来たか。入れ、入れ」
翌日、早い時間に俺たちはマイヤー商会を訪ねていた。因みに銅貨トラップは銅貨20枚使用で+33DPだった。
--------
DP:39 (debt:-10,000) RD:19,630
金貨 1, 銀貨 9, 小銀貨 6, 銅貨 3
--------
アネットはすぐに俺たちを応接間に迎え入れて、お茶を入れ始めた。
「なんだ今日は一人増えてるのか?」
「シャロンです。よろしくお願いします」
「おおー、3人の中で、一番礼儀が出来てるぞ。アネットだ」
まあ、最初の二人の大きい方なんか、店の前でボコボコにされて転がってましたからね。礼儀もクソもありませんね。
一通りお茶を配し終わったところで、アネットが切り出した。
「昨日、ベルファスト公爵夫人のところへ、預かった砂糖を添えて連絡を取った。そしたら早速これが来た」
そう言ってアネットがやたらとゴージャスな紋章のついた封蝋がある手紙を差し出してきた。
公爵家の紋章だそうだ。
「え? 公爵家ですよね? よく知らないのですけど、それでも昨日の今日って、いくらなんでも話の通りが早過ぎませんか?」
「ま、それくらいこの問題は大きくなってるって事さ。おかげでそこにあるとおり、王都まで行かなければいけなくなった」
「砂糖なら必要なだけ用意しますけど」
「よし、言質は取ったぞ」
アネットは笑いながらそう言った。
「代わりと言っては何ですけど、お願いがあるんです」
「なんだ?」
そこで俺は屋台を出したいことを伝えて、手続き等にアドバイスが欲しいと言った。
「なんだ、そんなことか。うちの前……というより横か。なら、特に商業ギルドに加入しなくても屋台を出して構わないぞ」
一応そこは一等地とも呼べる場所だ。ありがたいが、どうにも不思議な疑問があった。
「そういえば、なんでこんな細い路地側に入り口があるんです? 南大通りに面しているのに」
「昔はその細い路地が南門通りだったんだよ」
「は?」
南大通りは、中央区画を四角く囲んでいる4つの大通りの南側で、東西に延びている大きな道だ。そして、南門通りは、南門から南大通りの中央広場へと繋がっている、こちらも大きな道なのだ。
現在ダブリン商会の建物が建っている場所は、もともとは南門通りの路上だったそうだ。
最初はマルシェ形式のテント型店舗がそこに立てられ、いつの間にか家になって、南門通りは家一件分狭くなったんだとか。
それに便乗した連中が大勢いて、建物の列はあっという間に南門まで伸びたらしい。昔の路面店は路地裏に追いやられて消えていったそうだ。
「そんなことが許されるんですか??」
「まあ、領主や代官とつるんじまえば、何でも可能だ。やったもん勝ちってところだろうな」
どこかの会社の電柱利用かよ。呆れた話だな。
「ただ、もしショータが商業ギルドに加盟せずに営業すると、うちの商業権で屋台を出すことになるから、税務的にはうちの売り上げになってしまうが……」
「正式に俺に使用許可が貰えるなら、その辺は気にしませんけど」
使用許可が俺自身にないとダンジョン化ができないからな。
「ならもう、いっそのこと、お前ら、うちの従業員になるか?」
「は?」
「爺ちゃんが亡くなってから、この家には誰もいないし、部屋は売るほどあるから住み込みでも構わないぞ。給料は払えんから勝手に稼ぐなら、だが」
給料無しの従業員なんてありえるのかよ!?
そこはともかく、これは結構いい話じゃないか? もし俺が居なくなっても、彼女たちの屋根と壁がキープできるわけだし。
「それはいいんですけど、マイヤー商会って、主に何を取り扱ってるんです?」
客が居ないのに公爵家にすぐ連絡が取れるとか、どう考えてもおかしいだろう。
「うーん。南門通りが狭くなってからは、小売りと言うより貴族相手の問題解決商会みたいな事をしてたみたいだったな、爺ちゃん」
ああ、今回の砂糖問題の解決みたいな事をやってたわけか。
「それって収入がある時と無いときの落差が激しいのでは‥‥」
「そう。だから定期的な給料は払えんのだ。客も来ないし」
そういってアネットはカラカラと笑った。
「よし。部屋は、俺が使っていない部屋なら好きなところを使っていい。店番はしてもしなくても構わないが、店にあるものは売ってもいい。仕入れは大体5掛けくらいだ。利益の半分は売った奴の取り分な」
「はぁ」
仕入れの5掛けって言っても、その仕入れ値が分からないとどうしようも無いんですけど……
「屋台は勝手に出せ。うちの裁量内だから、商業ギルドへの許可はいらん。大体こんなもんでいいか?」
「あまりにおおざっぱすぎて声も出ませんけど、アネットさんがそれでいいなら特には。食事はどうします?」
「各自勝手にとれ、と言いたいところだが、用意してくれるなら食べるとも。食費は後で請求してくれ。俺は料理がダメなんだ」
と豪快に笑った。
いや、この人ホントに美人なんですよ。黙ってさえいれば。
「あ、もうひとつあった」
「なんです?」
「マイヤー商会を勝手に大きくしても構わんぞ」
何を言っているんだこの人は。
「俺は早速王都に向かう。砂糖は、そうだな……こないだの壺でまずは12壺用意できるか?」
12壺っていうと18Kgか。6DPだな。
「入れものは用意してくれますか?」
「そちらは引き受けよう」
「なら大丈夫です。入れものが用意され次第、それに詰めますよ」
「よし、じゃ、その行李に頼む」
それは薄い金属が張られた箱が、木を編んだ籠に入れられた小型の行李だった。18Kgなら充分入りそうだ。
「わかりました」
「俺は馬の準備にいってくるから、あとはよろしくな」
そう言って、アネットはあわただしく出て行った。
馬? 馬車じゃなくて?
「ねえねえ、カモさん」
アネットが出て行くと、シャロンがおずおずと聞いてきた。てか、その呼び名で定着しとんのかい! まあいいけど。
「結局どうなったの?」
「うーん、俺とマイユとシャロンは、マイヤー商会の従業員になった」
「え? 私たち商会で働けるわけ?」
マイユが驚いたようにそう言った。お前、話を聞いてなかったな。
「うんまあ。定期的な給料は出ないけどな」
「えー、それって奴隷?!」
あ、やっぱりあるのか、奴隷制度。
「違うよ。正確に言うと、マイヤー商会の商業権を使って、勝手に商売することが出来るようになった、かな。もちろん売り上げは自分達のものだよ」
「よくわかんないけど、カモさんの言うことを聞いていればご飯が食べられるってこと?」
「うん、もうそれでいいです」
「やったー! それでどうすればいいの?」
「ふたりは部屋を決めておいてくれ」
「え、私、カモさんと同じ部屋がいい」
まじかー。
まあ、数年もして年頃になったら、カモさんくさいとか言われちゃうんだろうなー。
世のお父さんは大変だよ……ただの妄想だけど。
「あー、うん。じゃ一緒に見にいくか」
「わーい」
「マイユも」
「あ、うん」
マイヤー商会は確かに大きな商会だったようだ。南大通りに面している部分こそ、道の角の10m弱ほどだったが、奧には倉庫らしき部屋もあったりして中々に広かった。
アネットは2Fの一番階段に近い部屋を使っているようだったが、とくに広いわけでもなく、たぶん、面倒だったからに違いない。
1FのLDKっぽい部屋と店舗の間にある、両方に繋がっている南大通り寄りの12畳ほどの部屋が、ダンジョン的には使い勝手がよさそうだ。一部在庫みたいなものが積み上がっていたが、これは倉庫か店舗に移せばいいだろう。
「俺はこの部屋にするかな」
「じゃあ、私もこの部屋にするー」
とシャロンが言うと、仕方ないとばかりに「なら私もこの部屋ね」、とマイユが言った。
俺は苦笑して、南大通りと店舗に一番近い角にショルダーバッグを下ろすとダンジョンを展開した。
丁度この壁の向こうが屋台の場所になるわけだ。
「じゃあ、ここにある在庫を倉庫へ移してくれ。できるか?」
何しろ彼女たちは小さい。重いものは――
マイユがひょいと重そうな箱を持ち上げると、倉庫にぱたぱたと走っていった。
――すみません獣人の身体能力舐めてました。俺よりよっぽど戦力になりそうです。
とりあえず俺は、指定された行李に砂糖を詰めようと店舗へ移動した。
ついでに、銅貨20枚をクリエイトして、銅貨トラップを仕掛けておいた。
「終わったよ!」
使うことにした部屋から、マイユの元気な声が聞こえる。
「今行く」
俺はその部屋に吸収をかけた。必要なDPは3だった。
2Fから持ってきたらしい寝具もきれいに埃が取れて新品同様だ。
『吸収を普通の部屋の掃除に使ってるダンマスは、マスターひとり。断言する』
ふっ、合理的だろ?
その後俺たちは、戻ってきたアネットに引きずられて、商業ギルドに連れて行かれ、従業員登録証とギルド共通口座を作らされた。
従業員登録は、責任を商会側が持つので、面倒な審査も手続きもなく、個人を識別するらしい魔紋とやらの登録だけですむ。
いろいろと調べられたくないことの多い俺にとっては、これ以上ないくらい都合の良い証明書だった。もちろん、マイユとシャロンの分も同様だ。
家に帰っても、ふたりが嬉しそうに、いつまでも自分の登録証を眺めていたのがとても印象的だった。
DP:28 (debt:-10,000) RD:19,830
金貨 1, 銀貨 9, 小銀貨 6, 銅貨 23




