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2話

 クラスに戻って自分の席でぼんやりと外を眺めながら、ユウは朝見た夢を思い出していた。

 よく見る夢のことを。


 「この世界は偽物……か」


 偽物があるならば本物があるということだ。

 では、本物とは何なのか。

 ユウにはわからなかった。

 自分が生きている場所が本物ではないのか。この世界が自分の場所なのではないのだろうか。そう考えてしまう。そう考えては、行き詰る。 

 だが、この夢を見すぎてしまったために、この世界に違和感を覚えたのも事実だ。

 そんなことを考えていたら、不意に横から声がかかってくる。


 「おはよ~。お、またなんか考えてんな」

 「おはよう」


 朝の挨拶を返しながら、ユウは声がした方に顔を向ける。

 そこには金髪で、少し筋肉質な少年、リアムが立っていた。


 「どうした? また、あの変な夢でも見たのか?」

 「ああ、そうなんだ。よくわかったな」

 「そりゃ、わかるさ。変な夢を見た時に限って朝早くに学校に来るし、そして、一人で何か考え込んでるんだもんな、ユウは」


 朝の朝礼までまだ時間はあり、人はあまり着ていない。

 リアムにしてはこの時間に来るのは珍しい。いつもは朝礼の5分前くらいに急いで来ている気がする。

 リアムはユウの前の空いている席に座り、ユウの方に体を向ける。


 「んで、今回はあの女性の顔は見れたか?」

 

 リアムはユウの夢の内容を知っている。もちろん全てを知っているわけではない。この世界が偽物だということは言っていない。信じてもらえるはずもないのだから。


 「いや、見れなかった。まぁ、いつもと同じだな」

 「そうかぁ。いつか見れるといいな」


 そういった後、リアムはユウの夢に出て来る女性について「可愛いのかな? それとも綺麗系? どっちだと思う?! 俺は綺麗系がいいかなぁ」っと一人花を咲かせていた。

 ユウはリアムの想像の世界から現実の世界に帰ってこさせるべく、話題を変えることにした。


 「なぁ、リアム。今日は早く来たな。どうしたんだ?」

 

 大体予想はつく。


 「ん? あ! そうだよ! 今日は何の日か知ってるか! 知ってるよな!」

 「知ってるよ。テ―――」

 「テストの順位発表だ!」


 ユウが答えを奪うようにリアムが大きな声で答える。

 答えるならいちいち聞いてこないでほしい。そう思うユウだが、声には出さない。

 言ったところで、直さないし、直らないのだから。


 「よし! 見に行くぞ!」

 「え、俺もう見たんだけど。行くなら一人で行って」

 「え? もう見に行ったのか?」

 

 ユウはコクリと頷く。

 リアムは少し残念そうにしてユウの方を見る。

 一緒に行けないことがそれほど残念なのか。


 「俺に負けるユウの姿を拝みたかったのに!」

 「はぁ」


 ユウは呆れて何も返せなかった。

 というか、すでに結果を知っている。

 顔に出ていそうだと思ったユウは顔を隠すように下を向く。

 その行為に何を思うったのか、嬉しそうにする。

 

 「まさか! 等々、俺がユウに勝つときが来たのか!」


 リアムはそう言って急いで教室を後にした。

 とても嬉しそうに駆けていく。

 

 「どうやって戻ってくるんだろ」


 ユウは掲示板を見た時の顔と、その後の落ち込みながら教室に帰ってくる表情を想像しながら一人笑った。

 


 案の定、リアムはユウが想像した通り落ち込んで帰ってきた。

 先ほどまでとは対照的だ。

 

 「どうだった?」


 結果を知っているユウだったが、あえて聞いてみる。


 「あ、ユウ! お前、嘘ついたな! ぬか喜びさせやがって」

 「いや、勝手に俺の表情を決めつけて喜んだのはお前だろ。別に俺、負けたとは一言も言ってないしな」

 「う! 確かに」


 リアムは自分の勝手な勘違いで起こした行動だと自覚していた。

 自分で勝手に舞い上がって、勝手に落ちたのだ。

 そこにユウは関与していない。

 

 「あ、そうだ! ユウ、2位おめでとう!」

 「ありがとう」


 ユウは照れたように返す。

 人に言われるととてもうれしくなる。


 「やっぱり、お前はすげぇよ! 俺は親友としてとても誇らしい!」


 褒められ慣れてないユウは、これ以上褒められると居心地が悪くなるため、話題を変えることにした。


 「俺のことはいいから、リアムは何位だった?」

 「総合は言うまでもないね」


 胸を張って答えるリアムに大体予想はついた。

 

 「なるほどね」

 「いや! まだ答えてないからな! なにわかった気になってるんだよ!」

 「大体わかった。当てようか?」

 「よし! 当ててみろ!」


 ユウは朝見に行ったが、自分とルイーズの順位しか知らない。

  

 「答えはわからない、だ」


 わからない。これが正解だ。

 掲示板に出される順位は上位50名。リアムはそこに名前が入っていなかったのだろう。

 ユウの答えが正しいことをリアムの表情が物語っていた。

 

 「正解だ! さては、知っていたな!」

 「いや、知らなかったよ。でも、今までの順位とかで大体想像はつくからね」

 「まぁ、そうだよな。だが、総合なんてどうでもいい!」

 「よくなくはないかな」

 

 総合成績はとても大切だ。

 なんといったて、力を得ることができるのだから。

 そして、ユウはいつもあと一歩でそれを手にすることができない。

 

 「勉強とか苦手だしなぁ」


 ユウの考えとは別にリアムは呑気な声で答える。

 

 「そこは頑張れよ」

 「次頑張るから、この話はおしまい!」

 

 リアムはこれ以上話したくはないのか、この話を終わらせる。


 「さぁ、こんなことより次の話をしようじゃないか! 俺の実技の順位さ!」

 「う~ん。10後半から20前半あたりじゃない?」


 今まで通りならこれくらいの順位を行き来していた気がする。

 リアムは得意げな顔をする。人差し指を上にさしながら、横に振る。

 無性に腹立たしくなる。


 「残念。今回の俺は少し違う。なんと! 15位」

 「へぇ。すごいな」

 

 感嘆の声を上げる。

 実技のテストは模擬戦だ。模擬戦の勝率が直接順位に影響する。

 ということは、前回よりも勝ったということになる。

 それは素直にすごいことだ。

 上位の順位はほとんど変動しない。力量が大体決まっているからだ。

 

 「だろ!」

 

 本当に嬉しそうに話す。

 

 「確かに、模擬のとき。勝ったって言ってたもんな」

 

 リアムは模擬で自分より上位の順位のやつ数人を倒していた。

 今回それが大きかったのだろう。


 「いや~。嬉しいな! これもユウのおかげだな!」

 「俺は特に何もしてない。自分の頑張りが成果につながったんだよ」


 ユウは特にこれといったことをした覚えはない。したことといえば、模擬戦をよくしていたことくらいだろうか。だが、これといったアドバイスなんてしていない。


 「いやいや。ユウとの模擬戦のおかげだ。これからもよろしく頼むわ」

 「そういってくれるとなんだかうれしいよ。俺もリアムとの模擬戦はとてもためになるからこれからもよろしく」 

 「あ、そうだ。今回も惜しかったな。総合順位11位」

 「思い出させないでくれ」


 思い出したように言うリアム。

 ユウは嬉しくなさそうに、ぶすっとした顔で答えた。

 


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