異世界小説で異世界を学んだので異世界で無双します!?(下)
長い間、馬車に揺られて着いた所は小さな街だった。その街の奥へと進んでいき、高い塀で囲われた兵舎みたいな建物の前で俺たちは降ろされた。
付添の人に建物の中に入れと指示されるので入っていく。そこで毛布と短パンとシャツを渡されて部屋に入るように言われた。(注1)
部屋は広い部屋で二段ベッドが二列に五台ぐらい並んでいる。空いているところならどこでも良さそうだ。これから冒険者の新人君達と共同生活かワクワクするね!
その日はベッドメイクの仕方を先輩冒険者からとことん教え込まれた。きっちりやらないと最初からやり直しでヘトヘトだよ。冒険者になるのも大変だね!
晩飯を食堂で一斉にとって食べる。晩飯は何時もの硬いパンと硬い肉と薄味の具のないスープだ。流石に飽きてきたね!
ご飯食べたらシャワーを浴びるように言われて俺らは列を作って順番に浴びていく。浴び方も個室があるわけではなくて、ベルトコンベアの流れ作業のように二つのシャワーの間を数珠つなぎ状態で進んでいく。最初にシャワーを浴びて体を濡らして石鹸と布で体を洗いながら二つ目のシャワーを浴びて洗い流すという感じだ。
シャワー浴び終わったらすぐに消灯で寝るように言われた。夜遅くまで起きていた大学生時代と比べると健康的な暮らしだね!
翌朝、夜が明ける前から叩き起こされる。ベッドの前に整列させられて着替えた服装をチェックされる。ちゃんと着てないともう一度やり直しだ。冒険者の朝は早くて厳しいね!
朝食を食べた後、中庭に総員整列して兵舎の裏手にある岩山に連れて行かれる。ついに本格的な訓練だね!
岩山には穴があって入るように言われた。入る時には一人ずつツルハシを持たされた。これで戦えて言うのかな?
所定の場所に着いたら、ここを掘るように言われてみんな掘り始めた。なるほど、この肉体労働が訓練代わりか。確かにこれなら筋肉つきそうだ。冒険者目指して頑張るぞい!
帰宅時にはツルハシは回収された。ベッドまで持ち込んでも役に立たないしね!
俺達は毎日毎日、掘り続けた。それは嫌になっちゃうほど。
そして毎日、こっそりとベッド下の床に傷を刻み続けて一年ぐらい経っただろうか?
俺は屈強な体を手に入れたし何時でも冒険者になれるぞ!
この頃には流石に俺も現地語は日常会話ぐらいは出来るようになってきたので何時もお世話になっている女性教官に聞きに行ったのだ。
「教官殿!お話があります!!」
教官は厳つい顔を俺に向けると。
「発言を許可する」
「自分が冒険者になれるのは何時でありましょうか!そろそろこの冒険者学校も卒業の頃だと思います!」
女性教官は思案顔になると暫く考えてからこう言った。
「君は何を言っているのだ?ここは冒険者学校?などでは無いぞ」
「と、言われますと?」
あれ?俺、何か間違ったこと言ったかな?
「ここは刑務所だ、君は記録によると、とあるキャラバンにオーガをけしかけて危険にさらし、その場にいた護衛を負傷させた上に、キャラバンの馬車を破損。君は無一文だったために、その罰で強制労働に従事しているのだ」
何言っちゃっているのかな?この人は!
「君の刑期はあと四年だ、それまでは出ることは出来ない。用が済んだらさっさと戻れ!」
俺は何のことか分からずボケッとしていると。
「返事は?」
「イエス!マム!」(注2)
と訓練で染み込んでいるので条件反射で答えてしまって、なし崩し的に部屋に戻った。冷静になって教官の言葉を反芻していると段々と理解しはじめて俺は蒼白になった!
「オーマイゴー!!なんてこった!!」
俺は真っ白に燃え尽きてそのまま倒れた。
その後、俺は無事に五年の刑期を終えると刑務所を出所した。
刑務所所長さんと世話になった女性看守さんには。
「もう、戻ってくるなよ」
と、温かい言葉をもらって送り出された。これは涙無しには語れないね!
で、色々と服役中に囚人達と話していて分かったのはこの世界には冒険者も冒険者ギルドも無いそうだ。俺が会った冒険者風の人たちは警備会社の警備員だろうとのこと。そして奴隷制度もない。奴隷ハーレムの夢は無残にも散った。結局、異世界小説で学んだことは何も役に立たなかった……。まさかの展開だね!!
俺は失敗から学んで成長する漢だ!!
今回の事を教訓に地道に仕事でも探してのんびり過ごそうかな。体は鍛えたから農業とかやるのがいいかもしれない。
確か、異世界でのんびり農業するウェッブ小説もあったよな!?
よし、今度は農業で異世界無双するぞ!!
そして開拓村にやって来た女性達とイチャイチャしてハーレムを築くんだっ!!(注3)
俺は目の前の坂を一歩一歩、歩き始めた。俺の目標はこの坂を登っていくようにまだまだ続くのだ、この果てしなく遠い異世界坂をよ……。
〈完〉
(注1)ここの流れは米国海兵隊の新兵訓練を参考にしています。米国と米国海兵隊とは一切関係ありません。
参考文献
『まりんこゆみ1』著者 野上武志 原案 アナステーシア・モレノ(星海社)
『まりんこゆみ2』著者 野上武志 原案 アナステーシア・モレノ(星海社)
(注2)意外と異世界小説で混同されるこの台詞。軍隊物でよく出てくる「イエス!サー!」ですが、これは男性の上官に対する返答です。女性の上官には「イエス!マム!」が正しいです。ちなみに学校でも生徒が先生に返事するときや家庭内でも普通に使います。
(注3)実はこの世界では重婚は禁止されています。主人公はまだ知らない……。
これにてこの話は終わりです。
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