ちーちゃんとふしぎないえ
「う~ん……」
あるひ、ちーちゃんはじぶんのいえのにわでかんがえこんでしまいました。それをみたなかよしのみーちゃんはしんぱいになってこえをかけます。
「ちーちゃんどうしたの? おなかでもいたいの?」
「そうじゃないの。ずーっとずーっとかんがえててもわからないことがあって」
ちーちゃんはげんきいっぱいにこたえます。みーちゃんにしんぱいをかけたくなかったからです。でもなにがわからないのかをいわなかったので、みーちゃんとしてはしんぱいなままです。
「なに? なにがわからないの?」
そうきかれてちーちゃんはふあんになってしまいました。いちどだけおかあさんにそのことをきいたことがあるのですが、そのときおかあさんにわらわれてしまったからです。だからおなじことをいったらみーちゃんにもわらわれる、もしかしたらなかよしじゃいられなくなってしまうかもしれないと、とてもこわくなってしまったのです。だけどいわなくてもやっぱりきらわれてしまうかも、そうおもったちーちゃんはおもいきってそのことをはなしてみることにしました。
「えーっとねぇ、ヘンなこといってもわらわない?」
「わらわないよぉ」
「じゃあじゃあ、ずっとともだちでいてくれる?」
「もちろんじゃない。ヘンなちーちゃん」
みーちゃんにはちーちゃんのいいたいことがよくわかりません。だからちょっとほっぺをふくらませてしまいます。そのかおをみたちーちゃんはみーちゃんをおこらせてしまったとおもい、これいじょうきらわれたくないとすなおにはなしだします。
「……あのね、どうしておうちってなかにはいるとおおきくて、そとからみるとちっちゃくなっちゃうの?」
「?」
ちーちゃんのことばがいがいすぎて、みーちゃんのあたまのなかにはハテナマークがいっぱいグルグルしています。そしてまったくりかいできなかったから、じぶんのあたまがおかしくなってしまったようなきがしてきました。
ちなみにみーちゃんはクラスでいちばんせいせきがいいといわれています。がっこうのじゅぎょうをまじめにいっしょけんめいうけているから、ほかのともだちのようにとくべつなべんきょうとかしなくても、いつもテストはまんてんをとってしまうのです。
それをいうならちーちゃんだってけっしてあたまはわるくありません。だけどきになることがあるとじゅぎょうちゅうでもなんでもかんがえこんでしまうので、せんせいがいっていることがあたまにはいってこなくて「しゅうちゅうりょくがたりない」なんてつうしんぼにかかれてしまうのです。だからほかのともだちからもみーちゃんといっしょにいると「デコボココンビ」なんてからかわれます。
でもみーちゃんだけはしっています。ほんとうはちーちゃんのほうがあたまがいいことを。だってあたまがいいからいろいろかんがえてしまうのだし、がっこうではおしえてくれないようなことをたくさんおしえてくれるからです。じぶんではっけんしたことや「ものしり」でひょうばんのおじいちゃんからきいたことなどを。
そんなちーちゃんがいうのだからまちがってはないはず。そうはおもうのですが、かんがえればかんがえるほどあたまはこんらんしてきます。だっていままでそんなふうにおもったことがないからです。
おなじいえなのにそとにいるときとなかにいるときでおおきさがちがうなんて、ふつうだれもかんがえたことがないでしょう? じぶんのいえとくらべていなかのおばあちゃんのいえはおおきかったし、がっこうやスーパーなんかはもっとおおきいし。
それはみーちゃんだってわかるけど、ちーちゃんがいいたいのはそういうのじゃなくて、ちーちゃんのおうちがそうなっているということなのでしょう。だけどみーちゃんはなんどもちーちゃんのおうちにあそびにきて、おとまりだってしたこともあるけれど、いちどもそんなふうにかんじたことはありません。だからおもいきってきいてみました。
「それどこのおうちのこと? ちーちゃんのおうちじゃないよねぇ」
「んーん、わたしのおうちもそうだけど、みーちゃんのおうちだってそうだし、ほかのおうちだってそうだよぅ!」
みーちゃんにしんじてもらえずくやしいというかさみしかったちーちゃんは、おおきくてをひろげてじぶんのかんがえをしゅちょうします。でもみーちゃんのきもちはかわりません。
「わたしのおうちも? わたしはそうおもったことがないからわからないよ。きのせいなんじゃない?」
「ホントにホントだよぉ! おうちはなかのほうがおおきいようにみえるんだもん!」
だいすきなみーちゃんにしんじてもらえずかなしかったちーちゃんはムキになってしまいました。ちょっとなみだがでてきちゃうくらいに。みーちゃんはちーちゃんをなかせてしまったとおもい、なんとかなだめようとあたまをフルかいてんさせました。そしてだしたこたえがこれです。
「そうだっ! とおくからみるとちいさくみえるのといっしょだよ。やまとかビルみたいに」
「ちがうもん! かべにはりつくようにしてみてもそうおもうもん。それどころか」
そういうとちーちゃんはなにかをもってきました。
「この『じょうぎ』でまいにちおうちのなかとそとをはかっているけどまいにちおなじおおきさだし、むしろ10センチくらいおへやのなかのほうがちいさいんだよ」
そういってみーちゃんのまえにさしだされたのはたけせいの『ものさし』でした。1メートルもあるちーちゃんのおばあちゃんのおさがりです。ちーちゃんのおばあちゃんはおさいほうとかあみものがじょうずで、いまちーちゃんがきているセーターもおばあちゃんのてづくりでした。
「そっちのほうがただしいんじゃない? きちんとものさしではかっているんだし、かべとかのぶんだけちいさくなるのがふつうだよ」
みーちゃんのいうことはただしいです。それはちーちゃんもわかっていました。でもじっさいにおうちのなか、へやのなかにはいるとむしろおおきくかんじてしまうのがふしぎで、いままでながいあいだなやんできたんです。だからかんたんにはひきさがれませんでした。
「でもでもホントなんだよ。おうちのなかにはいるとおうちはおおきくなる、おへやのなかだけ。まるでアニメでみたまほうのおしろみたいにね。これだけはゆずれない。たとえみーちゃんがしんじてくれなくても。…そして……このことでみーちゃんとケンカになっても」
ちーちゃんはほんきでした。このことにかんしてはせかいじゅうをてきにまわしてもまちがいないとしんじているからです。
いっぽうのみーちゃんもひきさがるつもりはなくなっていました。ちーちゃんはちゃんとおおきさをはかってかくにんしているのですから、おおきくかんじるのはちーちゃんのきのせい。そうかんがえるのがしぜんでじょうしきてきだとみーちゃんにはおもえるからです。
ふたりのあいだにはいままでになかったようなわるいくうきがながれています。きもちでまけないよう、だまってにらみあったままうごきません。このままではほんとうにケンカになってしまうかも、とおもえたちょうどそのとき、ふたりがなかよくしてもらっているきんじょのおにいちゃんがちかづいてきました。
「おや? ふたりともどうしたんだい? いつもなかよしのふたりがケンカなんておかしいよ」
ふたりのきもちをやわらげるよう、おにいちゃんはすこしおどけたかんじではなしかけてきました。おにいちゃんのことがすきなふたりはそれだけできげんがよくなり、おにいちゃんにむかってかけよっていきました。
「あのねあのね、みーちゃんったらわたしのいうことしんじてくれないの」
「それはちーちゃんのいうことがヘンすぎるからでしょ。おにいちゃんだってそうおもうはずだよぉ」
「にーちゃんはきっとしんじてくれるもん。ちゅうがくせいでわたしたちよりなんでもしっているんだから」
ふたりはじぶんのほうがただしいとおにいちゃんにしゅちょうしてきます。しかしかんじんなないようがわからなかったので、おにいちゃんはちーちゃんのいいたいことをきいてみることにしました。
「いったいちーちゃんはなにをいったのかな? よかったらぼくにもおしえてくれないかな」
ちーちゃんはさっきからしゅちょうしているはなしをおにいちゃんにもしました。それにみーちゃんがりろんてきなかんがえではんろんします。ふたりのはなしをひととおりききおえると、すこしめをとじてかんがえ、そしてひとつのこたえをみいだしました。
「うん。ちーちゃんのぎもんにたいするこたえはでたよ。あくまでぼくなりのだけどね」
「なになにー」
「おしえてー」
さっきまでケンカいっぽてまえだったのに、ふたりともすっかりきげんをなおして、おにいちゃんの『こたえ』をきこうとおにいちゃんのりょうがわからだきつきました。そのしゅんかんおにいちゃんはすこしふらつきましたが、それからたちなおるとふたりのあたまにてをおき、こたえをかたりだしたのです。
「ぼくのかんがえとしてはね、ふたりのかんがえはどちらもただしい。そうおもうんだよ」
「なんでー?」
「わたしたちのいけんははんたいなんだよー」
ちーちゃんもみーちゃんもなっとくできません。はんたいのいけんなのにどちらもただしいなんて、しょうがっこうにはいったばかりのふたりにはりかいふのうなことです。おかげでふたりともあたまのなかがハテナマークでいっぱいになりました。おにいちゃんはそれにひとつずつこたえていきます。
「まずみーちゃんのいけんだけど、とおくからものをみるとちいさくみえるのはただしいし、ちーちゃんじしんがはかってたしかめたのだから、それをみーちゃんがしんじてあげるのはまちがってないよね」
「うん!」
おにいちゃんのことばにみーちゃんはすっかりうれしくなってしまいました。しかしまだちーちゃんのかんがえもただしいというこたえにはなってないので、ちーちゃんはほっぺをふくらませてこうぎしていますし、みーちゃんもおもいだしたかのようにふしぎそうなまなざしをおにいちゃんにむけます。おにいちゃんはほほえみながらこんどはちーちゃんにたいしてはなしかけました。
「ちーちゃんのかんがえのほうだけど、これはすこしむつかしいこたえになっちゃうけどいいかな?」
「うん、ちゃんとりかいできるようがんばる」
ちーちゃんのめはしんけんです。もうほっぺもふくらんでいません。
「あのね、ちーちゃんはおおきなものにあんしんすることはないかな? たとえばおとうさんやおかあさんのてとかせなかとか」
「それはある! にーちゃんもおおきくてあんしんするー」
「ずるーい。わたしもおにいちゃんといるとあんしんするもん」
こんどはおにいちゃんのとりあいでケンカになりそうですが、そんなしんぱいはありません。ふたりともおなじくらいおにいちゃんのことがすきで、それにおたがいのこともすきでしたから。
「ということはおおきいものにあんしんすることはわかってもらえたね。もちろんおおきくてこわいものもあるけれど、あんしんできるものもある。じぶんのいえもそのひとつなんじゃないかな」
「?」
「?」
つづくおにいちゃんのことばがよくわからず、またもハテナマークをうかべるふたり。ただおにいちゃんにとってはよそうのはんいないだったようで、さらにやさしくはなしをつづけます。
「『おおきいものにあんしんする』ということは『あんしんできるものはおおきい』ということもできるんだ。これは『1+1=2』が『2=1+1』といいかえることができるのとおなじなんだよね。ふたりはまだがっこうでおそわってないかもしれないけど、いつかおそわるだろうし、ふたりならいまでもわかるんじゃないかな」
「わかるー」
「わたしもー」
「よかった。これがわかってもらえなかったら、またべつのせつめいをかんがえなければいけなかったよ」
ふたりのりかいりょくにホッとむねをなでおろしたおにいちゃんは、ちーちゃんにたいするこたえのかんじんなところにはいります。
「ちーちゃんはじぶんのいえにいるとあんしんするよね。かぞくもいるし、あったかいふとんでゆっくりねむることもできるから。ということは『いえはあんしんできるからおおきい』とかんがえることもできるんじゃないかな。でもみーちゃんがいうように、じっさいにはいえがおおきくなったりちいさくなったりはしない。これだってほんとうはわかっているよね。だけどあんしんしているからおおきくかんじる、いやちーちゃんとしてはほんとうにおおきくなっているんだ。それにきづくことができるひとはすくないから、ちーちゃんはほんとうにすごいよ」
「えへへ~」
おにいちゃんはしんじてもらえ、しかもほめられたちーちゃんはすごくうれしそうです。だけどこんどはみーちゃんがごきげんななめ。ちーちゃんのほうがおおくほめられているようにおもえたからです。
「それじゃあ、それにきづけなかったわたしはすごくないの?」
「そんなことはいってないよ。みーちゃんはみたものをそのままとらえることができて、りろんてきにぶんせきすることができる。ぼくがみーちゃんたちくらいのときにはそんなことはできなかったから、みーちゃんだってまけてないんだからね」
「そうなんだ~」
おにいちゃんがちゃんときづかってくれたから、みーちゃんもまんぞくげです。
「やっぱりおうちはなかにはいるとおおきくなるんだ。にーちゃん、ちゃんとおしえてくれてありがとう」
ちーちゃんはずっとひとりでかんがえていたことがほかのひとにみとめてもらえて、とてもうれしくなりました。そしてみーちゃんとケンカになりそうになったことをあやまります。みーちゃんもきもちはおなじだったようで、すぐにあやまりかえしました。
「やっぱりわたしたちはいちばんのともだちだよね」
「そうだよー。でもそのなかにおにいちゃんもいれないとね」
「そっかー」
ちーちゃんとみーちゃん、そしておにいちゃんはおおきなこえでわらいました。なかでもながいあいだのなぞがとけたちーちゃんのわらいごえがいちばんおおきかったです。
おしまい
----------ここから先は読み聞かせ用----------
「う~ん……」
ある日、ちーちゃんは自分の家の庭で考え込んでしまいました。それを見た仲良しのみーちゃんは心配になって声をかけます。
「ちーちゃんどうしたの? お腹でも痛いの?」
「そうじゃないの。ずーっとずーっと考えてても分からない事があって」
ちーちゃんは元気一杯に答えます。みーちゃんに心配をかけたくなかったからです。でも何が分からないのかを言わなかったので、みーちゃんとしては心配なままです。
「何? 何が分からないの?」
そう聞かれてちーちゃんは不安になってしまいました。一度だけお母さんにその事を聞いた事があるのですが、その時お母さんに笑われてしまったからです。だから同じ事を言ったらみーちゃんにも笑われる、もしかしたら仲良しじゃいられなくなってしまうかも知れないと、とても怖くなってしまったのです。だけど言わなくてもやっぱり嫌われてしまうかも、そう思ったちーちゃんは思い切ってその事を話してみることにしました。
「えーっとねぇ、ヘンなこといっても笑わない?」
「笑わないよぉ」
「じゃあじゃあ、ずっと友達でいてくれる?」
「もちろんじゃない。ヘンなちーちゃん」
みーちゃんにはちーちゃんの言いたい事がよく分かりません。だからちょっとほっぺを膨らませてしまいます。その顔を見たちーちゃんはみーちゃんを怒らせてしまったと思い、これ以上嫌われたくないと素直に話し出します。
「……あのね、どうしておうちって中に入ると大きくて、外から見ると小っちゃくなっちゃうの?」
「?」
ちーちゃんの言葉が意外すぎて、みーちゃんの頭の中にはハテナマークがいっぱいグルグルしています。そして全く理解出来なかったから、自分の頭がおかしくなってしまったような気がしてきました。
ちなみにみーちゃんはクラスで一番成績が良いと言われています。学校の授業を真面目に一所懸命受けているから、他の友達のように特別な勉強とかしなくても、いつもテストは満点をとってしまうのです。
それを言うならちーちゃんだって決して頭は悪くありません。だけど気になる事があると授業中でもなんでも考え込んでしまうので、先生が言っている事が頭に入ってこなくて「集中力が足りない」なんて通信簿に書かれてしまうのです。だから他の友達からもみーちゃんと一緒にいると「デコボココンビ」なんてからかわれます。
でもみーちゃんだけは知っています。本当はちーちゃんの方が頭が良い事を。だって頭が良いから色々考えてしまうのだし、学校では教えてくれないような事を沢山教えてくれるからです。自分で発見した事や「物知り」で評判のおじいちゃんから聞いた事などを。
そんなちーちゃんが言うのだから間違ってはないはず。そうは思うのですが、考えれば考える程頭は混乱してきます。だって今までそんな風に思った事がないからです。
同じ家なのに外にいる時と中にいる時で大きさが違うなんて、普通誰も考えた事がないでしょう? 自分の家と比べて田舎のおばあちゃんの家は大きかったし、学校やスーパーなんかはもっと大きいし。
それはみーちゃんだって分かるけど、ちーちゃんが言いたいのはそういうのじゃなくて、ちーちゃんのおうちがそうなっているという事なのでしょう。だけどみーちゃんは何度もちーちゃんのおうちに遊びに来て、お泊まりだってした事もあるけれど、一度もそんな風に感じた事はありません。だから思い切って聞いてみました。
「それどこのおうちのこと? ちーちゃんのおうちじゃないよねぇ」
「んーん、わたしのおうちもそうだけど、みーちゃんのおうちだってそうだし、ほかのおうちだってそうだよぅ!」
みーちゃんに信じてもらえず悔しいと言うか淋しかったちーちゃんは、大きく手を広げて自分の考えを主張します。でもみーちゃんの気持ちは変わりません。
「わたしのおうちも? わたしはそう思った事がないから分からないよ。気のせいなんじゃない?」
「ホントにホントだよぉ! おうちは中の方が大きいように見えるんだもん!」
大好きなみーちゃんに信じてもらえず悲しかったちーちゃんはムキになってしまいました。ちょっと涙が出てきちゃうくらいに。みーちゃんはちーちゃんを泣かせてしまったと思い、なんとかなだめようと頭をフル回転させました。そして出した答えがこれです。
「そうだっ! 遠くから見ると小さく見えるのと一緒だよ。山とかビルみたいに」
「ちがうもん! 壁に張り付くようにしてみてもそう思うもん。それどころか」
そういうとちーちゃんは何かを持ってきました。
「この『定規』で毎日おうちの中と外を測っているけど毎日同じ大きさだし、むしろ10センチくらいお部屋の中の方が小さいんだよ」
そういってみーちゃんの前に差し出されたのは竹製の『物差し』でした。1メートルもあるちーちゃんのおばあちゃんのお下がりです。ちーちゃんのおばあちゃんはお裁縫とか編み物が上手で、今ちーちゃんが着ているセーターもおばあちゃんの手作りでした。
「そっちの方が正しいんじゃない? きちんと物差しで測っているんだし、壁とかの分だけ小さくなるのが普通だよ」
みーちゃんの言う事は正しいです。それはちーちゃんも分かっていました。でも実際におうちの中、部屋の中に入るとむしろ大きく感じてしまうのが不思議で、今まで長い間悩んできたんです。だから簡単には引き下がれませんでした。
「でもでもホントなんだよ。おうちの中に入るとおうちは大きくなる、お部屋の中だけ。まるでアニメで見た魔法のお城みたいにね。これだけは譲れない。たとえみーちゃんが信じてくれなくても。…そして……この事でみーちゃんとケンカになっても」
ちーちゃんは本気でした。この事に関しては世界中を敵に回しても間違いと信じているからです。
一方のみーちゃんも引き下がるつもりはなくなっていました。ちーちゃんはちゃんと大きさを測って確認しているのですから、大きく感じるのはちーちゃんの気のせい。そう考えるのが自然で常識的だとみーちゃんには思えるからです。
2人の間には今までになかったような悪い空気が流れています。気持ちで負けないよう黙って睨み合ったまま動きません。このままでは本当にケンカになってしまうかも、と思えた丁度その時、2人が仲良くしてもらっている近所のお兄ちゃんが近付いてきました。
「おや? 2人ともどうしたんだい? いつも仲良しの2人がケンカなんておかしいよ」
2人の気持ちを和らげるよう、お兄ちゃんは少しおどけた感じで話しかけてきました。お兄ちゃんの事が好きな2人はそれだけで機嫌が良くなり、お兄ちゃんに向かって駆け寄っていきました。
「あのねあのね、みーちゃんったら私の言う事信じてくれないの」
「それはちーちゃんの言う事がヘンすぎるからでしょ。お兄ちゃんだってそう思うはずだよぉ」
「にーちゃんはきっと信じてくれるもん。中学生で私達より何でも知っているんだから」
2人はは自分の方が正しいとお兄ちゃんに主張してきます。しかし肝心な内容が分からなかったので、お兄ちゃんはちーちゃんの言いたい事を聞いてみることにしました。
「いったいちーちゃんは何を言ったのかな? よかったら僕にも教えてくれないかな」
ちーちゃんはさっきから主張している話をお兄ちゃんにもしました。それにみーちゃんが理論的な考えで反論します。2人の話を一通り聞き終えると、少し目を閉じて考え、そして1つの答えを見出しました。
「うん。ちーちゃんの疑問に対する答えは出たよ。あくまで僕なりのだけどね」
「なになにー」
「おしえてー」
さっきまでケンカ一歩手前だったのに、2人ともすっかり機嫌を直して、お兄ちゃんの『答え』を聞こうとお兄ちゃんの両側から抱きつきました。その瞬間お兄ちゃんは少しふらつきましたが、それから立ち直ると2人の頭に手を置き、答えを語り出したのです。
「ぼくの考えとしてはね、2人の考えはどちらも正しい。そう思うんだよ」
「なんでー?」
「わたしたちの意見は反対なんだよー」
ちーちゃんもみーちゃんも納得できません。反対の意見なのにどちらも正しいなんて、小学校に入ったばかりの2人には理解不能な事です。おかげで2人とも頭の中がハテナマークで一杯になりました。お兄ちゃんはそれに1つずつ答えていきます。
「まずみーちゃんの意見だけど、遠くから物を見ると小さく見えるのは正しいし、ちーちゃん自身が測って確かめたのだから、それをみーちゃんが信じてあげるのは間違ってないよね」
「うん!」
お兄ちゃんの言葉にみーちゃんはすっかり嬉しくなってしまいました。しかしまだちーちゃんの考えも正しいという答えにはなってないので、ちーちゃんはほっぺを膨らませて抗議していますし、みーちゃんも思い出したかのように不思議そうなまなざしをお兄ちゃんに向けます。お兄ちゃんは微笑みながら今度はちーちゃんに対して話しかけました。
「ちーちゃんの考えの方だけど、これは少し難しい答えになっちゃうけどいいかな?」
「うん、ちゃんと理解できるよう頑張る」
ちーちゃんの目は真剣です。もうほっぺも膨らんでいません。
「あのね、ちーちゃんは大きな物に安心する事はないかな? 例えばお父さんやお母さん手とか背中とか」
「それはある! にーちゃんも大きくて安心するー」
「ずるーい。私もお兄ちゃんといると安心するもん」
今度はお兄ちゃんの取り合いでケンカになりそうですが、そんな心配はありません。2人とも同じくらいお兄ちゃんの事が好きで、それにお互いの事も好きでしたから。
「ということは大きい物にに安心する事は分かってもらえたね。もちろん大きくて怖い物もあるけれど、安心できる物もある。自分の家もその1つなんじゃないかな」
「?」
「?」
続くお兄ちゃんの言葉がよく分からず、またもハテナマークを浮かべる2人。ただお兄ちゃんにとっては予想の範囲内だったようで、更に優しく話を続けます。
「『大きい物に安心する』と言う事『安心できる物は大きい』と言う事も出来るんだ。これは『1+1=2』が『2=1+1』と言い換える事が出来ると同じなんだよね。2人はまだ学校で教わってないかも知れないけど、いつか教わるだろうし、2人なら今でも分かるんじゃないかな」
「わかるー」
「わたしもー」
「よかった。これが分かってもらえなかったら、また別の説明を考えなければいけなかったよ」
2人の理解力にホッと胸をなで下ろしたお兄ちゃんは、ちーちゃんに対する答えの肝心な所に入ります。
「ちーちゃんは自分の家にいると安心するよね。家族もいるし、暖かい布団でゆっくり眠る事も出来るから。ということは『家は安心できるから大きい』と考える事も出来るんじゃないかな。でもみーちゃんが言うように、実際には家が大きくなったり小さくなったりはしない。これだって本当は分かっているよね。だけど安心しているから大きく感じる、いやちーちゃんとしては本当にに大きくなっているんだ。それに気付く事が出来る人は少ないから、ちーちゃんは本当にすごいよ」
「えへへ~」
お兄ちゃんは信じてもらえ、しかも褒められたちーちゃんはすごく嬉しそうです。だけど今度はみーちゃんがご機嫌ななめ。ちーちゃんの方が多く褒められているように思えたからです。
「それじゃあ、それに気付けなかった私はすごくないの?」
「そんな事は言ってないよ。みーちゃんは見た物をそのまま捉える事が出来て、理論的に分析する事が出来る。僕がみーちゃん達くらいの時にはそんな事は出来なかったから、みーちゃんだって負けてないんだからね」
「そうなんだ~」
お兄ちゃんがちゃんと気遣ってくれたから、みーちゃんも満足げです。
「やっぱりおうちは中に入ると大きくなるんだ。にーちゃん、ちゃんと教えてくれてありがとう」
ちーちゃんはずっと1人で考えていた事が他の人に認めてもらえて、とても嬉しくなりました。そしてみーちゃんとケンカになりそうになった事を謝ります。みーちゃんも気持ちは同じだったようで、すぐに謝りかえしました。
「やっぱり私達は一番の友達だよね」
「そうだよー。でもその中にお兄ちゃんも入れないとね」
「そっかー」
ちーちゃんとみーちゃん、そしてお兄ちゃんは大きな声でで笑いました。中でも長い間の謎が解けたちーちゃんの笑い声が一番大きかったです。
おしまい
ちょっとした弾みで書いてしまった童話を、折角だから投稿しました。
ターゲットは小学校低学年からもっと小さな子です。
そのためひらがな(一部カタカナ)ばかりとなってしまい、書いている途中で目が痛くなってきました。
ので一応親御さん達が読み聞かせできるように、後半に漢字バージョンも付け加えておきました。
でも童話って思ったより難しいですね。子供でも素直に理解できる表現しか使えませんから。自分にはハードルが高いと実感しました。