空っぽの少年~人生の転機~
そんな日々が続いたある日、少年は担任の教師に声をかけられた。
「武道を習ってみないか」と。
少年は嫌々ながらもその誘いを受け、教師の言う道場へ足を運んだ。
すると、そこで少年は尋常ではない才能を発揮した。師範の動きを見ただけで、武道の動きを覚えてしまったのだ。その日のうちにその道場の門下生全員に勝ってしまった。
師範は「天才だ!素晴らしい!」と褒めたが、負けた門下生達にとっては面白くない出来事だった。
この出来事を両親に嬉嬉として報告した少年。両親は、少年が武道で有名になれば自分たちも鼻が高い、と少年にそのまま武道を習わせることを決めた。
次の日から少年は稽古に励んだ。同時に、他の門下生からのいやがもあったが、自分の成長をこの目で確かめられることに喜びを感じていた少年にとってはどうでもよかった。
武道を習い始めて1ヶ月で地区大会優勝を果たし、その半月後には全国一に輝いた。そうなると少年のことは一気に広まり、少年とその家族のことは有名になった。両親も鼻を高くしている。少年はその様子を見て、やっと自分も両親を喜ばすことが出来たと安堵した。
それからしばらく経って、ある日少年は気づいた。
姉の腕に、明らかに最近出来たものであろうアザがあることに。
少年は問い詰めた。
「お姉ちゃん!そのアザどうしたの?」
「…………」
「ねぇ!」
「ちょっとぶつけただけだから……心配かけてごめんね……」
そう答える姉の目に、光はなかった。
そして少年は気づいた。自分が有名になったばかりに、両親の矛先が自分から姉に移っていたことに。
勉学でちやほやされる程度の姉に、両親は愛情を失っていた。
街で声をかけられることの無くなった姉に、両親は役立たずなどの罵倒、さらには暴力をふるうようになっていた。
自分が落ちこぼれのままだったら、姉がこんな目にあうことはなかったのではないか、自分のせいで……自分のせいで……
空っぽの少年~狂った歯車~ に続く