黒塗りの家庭
少年はごく普通の家庭に生まれた。
父親、母親、姉の4人家族だ。ただ、両親は世間体を酷く気にする人間だった。少年の姉はとても頭が良く、学校での成績は常に1位だった。その英才ぶりは街でも有名で、道行く人に誉められて両親は優越感に浸っている。姉本人も静かに微笑んでいる。当然だろう。1番を取り続けられるように、両親は姉を軟禁状態で勉強させているのだから。少年の両親は、自分たちが言ったことをできなかったら虐待をする人間だった。
少年は姉をいつも見ていた。薄暗い部屋でノートを濡らしながら勉強する姿を。それにも関わらず、外では明るく振る舞う姿も。
だがその少年自身も虐待を受けていた。特別頭がいい訳でもなく、頭が悪い訳でもない、どこにでも居る普通の少年だ。しかし両親はそれが気に入らない。両親は『天才の子を持つ親』でいたかったからからだ。平凡な子など必要ないのだろう。叱咤を受けるときは決まって姉と比べられた。父親からは暴力を受け、母親からは罵られ...それでも心がかき消えなかったのは、姉がいたからだった。
「私のせいで...ごめんね...」
少年は知っていた。姉自身も両親に怯えていることを。
少年は知っている。姉自身ももう限界だということを。
ゆえに姉弟は両親のいないところで慰めあっていた。そうでもしないと心が壊れてしまいそうだったから...
空っぽの少年~人生の転機~に続く