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第89話 楽しい茸狩り

 クラシュの森。それはアメミヤの街から馬車で南西に一日ほど行った場所にあるクラシュの街の傍に広がっている大きな森だ。

 森はまさに天然の迷路といった言葉がぴったりの地形をしており、中には野生の動物や魔物が数多く生息している。

 問題の滝壺は森の最奥にあり、その近辺は水を好む生き物やフィッシュマンの生息地になっているとのことだった。

 ……ほらね。洞窟がダンジョンじゃなくても、危険はあったじゃないか。

 森の入口の前で、ナナイは地図を開いてしきりに順路を確認していた。

 この森は、地元人でも迷うほど複雑に入り組んでいる。そのため、クラシュの街では外から来た冒険者向けに森の地図を販売しているのだ。

「此処には一度来てるから、そんなに迷うことはないよ。地図もあるし、大丈夫」

 地図を畳んで、自信ありげにナナイは言った。

 背負っていた二本の剣をすらりと引き抜いて、森に足を踏み入れる。

「シルカちゃんは、後から付いてきて。最短ルートで滝まで行くから」

「その道、大丈夫なんだろうね? 危ない道を通るのは嫌だよ、僕は」

「大丈夫大丈夫」

 気楽に言うナナイ。本当に大丈夫なんだろうな?

 僕はナナイの後ろにぴたりと寄り添った。

 そんな僕の横に立ち、シルバーが尻尾を揺らしながら前をじっと見据えている。

 僕たちは土が剥き出しになっている森の道を、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。


「嘘つきぃぃぃぃ!」

 一時間後。僕は絶叫して、全力で森の道を走っていた。

 その後を、剣を振り回しながら走るナナイ。その表情は何処となく楽しげだ。

「シルカちゃん、石投げられてるだけなんだから落ち着いてよ。当たってもちょっと痛いだけじゃない」

「落ち着けるか、馬鹿!」

 ナナイが言う最短ルート。これがとんでもなかった。

 この道、何とスローモンキーの縄張りになっていたのだ。

 スローモンキーとは猿の魔物の一種で、縄張りに入った者を集団で追い回して色々なものを投げつけて追い払おうとする習性を持った生き物なのだが、その投げてくるものというのがまた迷惑極まりなかったりする。

 それが食べている果物ならまだ可愛い方で、今みたいに石を投げてきたり、時にはフンを投げてくることもあるのだ。

 時折がつんがつんと音がしているのは、ナナイが剣で飛んでくる石を叩き落としているからだ。

 そのお陰で今のところ僕に当たる石はないのだが、石が投げられていると思うだけで落ち着かない。

 そういうわけで、僕たちはスローモンキーの縄張りを抜けるために全速力で走っているのである。

『目に見えてる猿を全部落とした方が早いのに』

 僕の横を走りながらシルバーがぽつりと言うが、無視だ。

 全部で何匹いるかも分からないのに、全部倒すまで石が雨あられと降ってくる中を立っているなんて僕にはできない。

「ナナイ! 滝にはまだ着かないのか!?」

「大分走ったからねー、もうちょっとだと思うよ」

 ──走り始めて三十分。

 何とかスローモンキーの追跡を逃れた僕たちは、森を抜けた。

 正面に広がるのは、まるで巨大な池が干上がってできたような湿地帯だった。

 森の中だというのに、葦が生えている。でこぼこした地面にはあちこちに水が溜まっている場所があり、そこを魔物が徘徊していた。

 丸々太ったヒルの魔物や、巨大な蛙の魔物など。如何にも水辺を好みそうな顔ぶれである。

 湿地帯の向こう側には巨大な滝壺があった。

 勢い良く水が流れ落ちる池は川と繋がっていて、川は森の中に流れていた。

 川の周囲には、得物を片手に佇むフィッシュマンの姿が見える。

 奴らに見つからずに滝の裏側にある洞窟まで行くのは不可能そうだ。

 僕の前に出て、ナナイは言った。

「あそこにいる魔物の殆どは近付いても逃げるだけだから安全だよ。フィッシュマンは襲ってくるから、こっちに来たら倒して進もう」

「あくまで来た奴を倒すんだぞ。自分から突っ込んだりしないでくれよ」

「分かってるって。シルカちゃん、臆病だねぇ」

 何とでも言ってくれ。僕は安全に此処に来た目的を果たしたいだけだ。

 足を滑らせないように気を付けながら、僕たちは湿地帯に足を踏み入れた。

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