第83話 アジトを探索せよ
次に目覚めた時、僕は見知らぬ部屋の中にいた。
大量の魔術の道具や錬金術の道具が雑然と置かれている物置のようなその部屋は、如何にも研究者の部屋といった雰囲気がある。
部屋の明かりは点いておらず、机の上を照らしている魔光の光だけが唯一の光源だった。
僕は部屋の隅に押し込められているソファの上に、両手を枷で拘束された状態で座らされていた。
僕を此処に連れてきたあの魔術師の姿はなかった。僕を此処に置いた後、何処かに出かけてしまったようだ。
あいつがいないのは都合がいい。此処が何処かを調べることができる。
僕は手首を捻って、枷に指先を触れた。
ばちっ!
魔力を流した枷は、ばらばらになって床に落ちた。
後ろ手に拘束されていなかったのが幸いしたね。
気だるさが残る体を動かして立ち上がり、傍にある窓から外を見る。
外には、小さく見えるアメミヤの街の風景が広がっていた。
これと似たような風景を見たことがある。それは、墓地から見ることができる景色だ。
墓地は街外れの丘の上にある。……ということは、この建物は丘の上にある?
断言はできないが、その可能性は高そうだ。
僕は懐からテレフォン盤を取り出して、小声で呼びかけた。
「……ギルベルトさん。シルカです」
呼びかけて、数秒。テレフォン盤から、彼の声が小さく聞こえてきた。
『ギルベルトだ。上手く誘拐されたのか?』
上手く誘拐されたのかって……改めて聞くと奇妙な言葉だね。
「はい。今は犯人のアジトにいます。犯人は出かけてて此処にはいません」
『そいつは好都合だな。今のうちに、誘拐された他の娘たちを探してくれ』
そうするつもりだ。
僕はギルベルトさんに此処が丘の上にある家らしいということと、誘拐犯が魔術師か錬金術師らしいということを伝えて、一旦通話を切った。
よし……この建物の何処かにいる被害者たちを探そう。
万が一誘拐犯が戻って来て鉢合わせしたら、魔術で応戦することにする。戦り合うのは怖いが、これも自分の身を守るためだから仕方がない。
そうならないことを祈りたいものだが。
早く此処を見つけてよ……ギルベルトさん。
祈りながら、僕は部屋を出た。
部屋を出ると、長い廊下に出た。左右にはドアが幾つも並んでおり、目の前は吹き抜けになっていて階下の様子を見ることができた。
どうやら此処は、そこそこ大きな屋敷らしい。
他の被害者が閉じ込められているとすれば……他の部屋だろう。
どの部屋がそうなのかは分からないので、とりあえず片っ端から覗いてみることにする。
僕はすぐ傍にあるドアの前に移動した。
ドアを動かしてみるが、やはり鍵が掛かっている。
しかしこんなものは、錬金術を使えば簡単に開けることができる。
僕はドアノブに手を触れて、鍵に魔力を流した。
鍵が錬金術によってただの金属の塊に作り変えられ、ドアが開く。
この錬金術で鍵を開けるというのは、一見すると何でもないことのように見えるが、実は犯罪に近い荒業である。錬金術が使える人は肝に銘じておくように。
僕は部屋に足を踏み入れた。
部屋の窓はカーテンが閉じており、真っ暗に近かった。
そんな中、真っ先に感じたのは──生臭い、腐った魚のような臭い。
暗闇の中で、何かがもそりと動く。
何か……いる。
「……ライティング」
僕は魔光を室内に放つ。
魔光は天井に張り付いて、室内を眩く照らし出した。
その光の下にあったのは──
「──!?」
僕は思わず身構えた。
部屋の中にあったのは、倒れた水槽と、そこから投げ出されたように転がっている一人の娘の姿。
下半身が青い魚の形をした──人魚だった。




