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第6話 出立

 早朝。太陽が空に昇ってまだ間もない時間帯。

 僕が朝目覚めて店の方に顔を出したとほぼ同時に、アラグたちはやって来た。

 ……あんたたち、早すぎ。せめてゆっくりと朝飯を食べる時間くらい下さいよ。

 僕なんてまだ寝間着で出かける準備なんて何もしてないんだから。

 アラグは昨日と違って黒い色の立派な鎧を身に纏い、フラウはローブの上に灰色の外套を羽織っている。

 あの鎧……黒鉄製か? 随分気合が入った装備だな。

「その格好で行くのか? 随分個性的な装備だな」

「そんなわけないだろ、これはただの寝間着だ」

 僕は二人を店内に招き入れ、店の入口に『本日休業』と書いた札を下げた。

 彼らを店内に残して自室に戻り、昨日用意しておいたローブに着替える。

 久々に袖を通したローブは、しまっていた箱の匂いがした。

 着替えたら、鞄を肩から下げて店に戻る。

 アラグたちは、店内を興味津々と物色しながら歩き回っていた。

「いつ見ても訳の分からんものが多いな、お前の店」

「本当だね。こんなラインナップで儲かってるの? この店」

「別に何を置いてようといいだろ。僕の店なんだから」

 僕が店で扱っている商品は冒険者たちが旅先で使う道具や薬品、装備品が主だが、中には片手間に職人の仕事をしている冒険者向けの道具や、冒険者ではない一般人が使う生活用品なんかもある。そういう品はアラグたちのような冒険稼業一筋でやっている人間にとっては用途不明の品に思えるだろう。

 此処はよろず屋なんだから、どんな品でも置いていて当たり前なのだ。商売は冒険者の相手だけで成り立っているものではないのだから。

 儲かっているかと問われたら……そこはそれだ。優しく目を瞑っていてほしいと思う。

 身支度を整えた僕を見て、アラグはほうと声を漏らした。

「その装備……灰燼の魔術師再来か。お前なりに気合入れてきたんだな」

「これは単に服の仕立て費用をケチっただけだ。着られるんだから、わざわざ新しく作る必要はないだろ」

「あれ、杖は? 大事にしてたミスリルの杖があったよね?」

「僕は魔術師じゃないんだから杖は必要ない。使わない道具を持って行く意味はないじゃないか」

 僕はフラウにそう答えて、腰に手を当てた。

「言っておくけど、僕は戦えないからな。ダンジョンではしっかり守ってくれよ」

「はいはい、分かってるって。ライトニング・スプライトに群がられて悲鳴を上げてるシルカ君だもんね」

「それはいい加減忘れてくれよ」

 笑う彼女にぴしゃりと言って、僕はアラグに問いかけた。

「ダンジョンって何処にあるんだ? 此処から遠いのか?」

「ダンジョンは──」

 アラグは腰の袋から地図を取り出すと、それを僕に見えるように広げた。

 アメミヤの街が記されている場所から、まっすぐ東についと指先を滑らせていく。

 海岸地域。そこのある一点で指を止め、言った。

「シル・ベスク岩礁域。此処にダンジョンの入口がある。此処から徒歩で大体三時間くらいの距離だ」

 三時間か……近いとも遠いとも言えない微妙な距離だな。

 地図を見ていると、僕の腹が小さく鳴った。

 ……とりあえず、何でもいいから腹に入れておきたい。今から長距離を歩くとなるとなおさらだ。

 僕の腹の音が聞こえたのだろう。アラグが苦笑しながら地図を畳んで言った。

「とりあえず酒場に行って軽く朝飯にするか。飯を抜くと力が出ないからな」

 酒場か。僕としてはちゃんとした食事処で食べたかったんだけど、この際贅沢は言わないでおこう。

「あたしたちはもう済ませてあるんだけどね。シルカ、朝御飯くらいちゃんと食べないと駄目だよ」

「あんたたちが此処に来るのが早すぎるんだよ。まだ朝の六時だぞ。一般人に冒険者の生活ペースを押し付けないでくれ」

 ──そんな感じで言葉の遣り取りをしながら、僕たちは店を出た。

 空は綺麗に晴れている。この分なら天気が崩れるといったことはないだろう。

 どうか、現地に着くまで何事もありませんように。

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