第56話 謎解きと宝と呼び声と
僕たちは、無事にオロトワからアメミヤへと戻ってきた。
僕が持っていた精霊の剣はアラグに渡したし、これで後はアラグたちが勝手に遺跡探索の話を進めていってくれるものだと僕は思っていた。
思っていたから──今こうして目の前で繰り広げられている出来事のことが理解できずにいる。
「おい、シルカ聞いてるか?」
……何で、こいつらは僕の店で遺跡探索についての話をしているんだ?
しかも、僕まで話に強制的に参加させて。
全く意味が分からない。
「……なあ、僕は確かに店でできることなら協力するとは言ったよ。相談場所に僕の店を使うのもまあ構わない。けど……何で僕まで話に参加しなくちゃいけないんだ?」
「今更何言ってるんだ、シルカ」
作業台を占拠して地図やら何やらを広げて真面目な顔で話をしていたアラグは、僕に目を向けて言った。
「ア・ロア遺跡は古代の錬金術師が作った遺跡なんだろ。俺たちだと遺跡にある錬金文字は読めない。探索には、必然的にお前の力が必要になる。簡単なことじゃないか」
「仕掛けの仕組みは説明したんだから僕がいてもいなくても変わらないよな!?」
僕は声を上げた。
自前の水筒に入った水を飲みながら、シャオレンがそんな僕のことをのんびりと見つめている。
「僕は行かないぞ、行きたくない! お願いだから此処で商売をさせてくれ!」
最近あちこちに引っ張られてばかりで店を閉める機会が増えたから、売り上げが落ちているのだ。
冒険者ギルドのギルベルトさんには経営不振かって心配される始末だし、これ以上は店を閉めるわけにはいかない。
断固として僕はこの店を動かない。動いてなるものか。
「なあ、シルカ」
アラグが静かに僕に語りかける。
「男には、やり遂げなけりゃならんことが必ずできる。それをやり遂げてこそ、男を名乗れるってもんだ」
「はぁ」
「この遺跡を攻略することが、今の俺たちがやるべきことなんだ」
「で?」
「遺跡に眠る錬金術の仕掛け、秘められた謎……それを読み解くのがお前だけに与えられた使命なんだ。遺跡が、謎を解けとお前を呼んでるんだよ。分かるか?」
「それはあんたの勝手な解釈だろ!? 遺跡はそんなことなんてちっとも思っちゃいないよ!」
僕は運んでいたポーション入りの木箱を床に下ろして、アラグに背を向けた。
これ以上彼らの話に付き合ってたまるか。僕は店の仕事をするんだ。
棚にポーションを補充する。
かちゃかちゃと瓶がぶつかる音に混じって、アラグが溜め息をつく声が聞こえてきた。
「この遺跡には、想像も付かないような宝が眠ってると思うんだよな……それこそ、星の砂以上の価値がある錬金術にまつわる宝が。それをみすみす逃すのか。惜しいな」
……うっ、そう言われると……
僕の作業をする手がぴたりと止まる。
アラグめ、僕を物で釣る作戦できたか。
何て悪知恵を働かせるんだ、この男は。
「拝んでみたくはないか? 遺跡に眠る宝を。お前が協力してくれたら、それを手に入れるのも夢じゃないかもしれないんだよ」
「アタシも見てみたいわぁ。シルカ、一緒に行きましょ?」
強請るようなシャオレンの声。
錬金術師が遺跡に封じた宝か……
……いやいや。これは甘言だ。あの遺跡に宝が眠っていると決まったわけではない。
危うく飲まれるところだった。
これまで僕はダンジョン探索に協力して、ただのよろず屋の店主が冒険者の真似事をするとろくな目に遭わないということを嫌と言うほどに学んだのだ。
これ以上アラグの話を聞いてはいけない。聞いたら絶対に後悔する。
僕は僕らしく、此処でよろず屋を経営して過ごすんだ。
僕は止めていた手の動きを再開させた。
それを、外から入ってきた人物の声が再び止めた。
「やっほー、帰ってきたよ。シルカ、いる?……って、アラグもいたの?」
此処を発った時と全く変わらぬ様子で帰ってきたフラウは、作業台を占拠しているアラグを見て目を瞬かせた。
店に入ってきたのは彼女だけではない。見覚えのある踊り子姿の女の顔もある。
……マテリアさん? 何でフラウと一緒なんだ?
「こんにちは。そこで偶然フラウさんと一緒になったの」
マテリアさんは僕を見て微笑みながら、片手を顔の横に挙げて気さくな挨拶を寄越してきた。
「例の遺跡について分かったことがあるから知らせに来たわ。今、時間はあるかしら?」
「あたしも色々調べてきたよ。あの遺跡、あたしたちが思ってた以上に複雑な背景のある遺跡だったみたいだよ」
「…………」
思いがけない増援の登場に、僕はそっと頭を抱えた。
神様は、僕に何か恨みでもあるのだろうか。
そう思わずにはいられない僕だった。




