第50話 精霊の剣
全部で四本あるとされる精霊の剣。それはア・ロア遺跡のとある仕掛けを作動させるための鍵になっている道具なのだという。
水晶で作られた刃には森羅万象の力──自然界を司る四大属性、すなわち風火水土の力が宿っており、その力が仕掛けを動かすのだそうだ。
仕掛けを動かすとどうなるのかまでは分からなかったらしいが、何でもアラグが聞いた話によると、太陽の加護を得た巨大な力を手にすることができるらしい。
成程……そういうことか。
僕は以前調査に行ったア・ロア遺跡で手に入れた情報を思い出した。
森羅万象の四柱のことが記された台座に空いていた穴。あれはおそらく、精霊の剣を差し込むために設けられた穴だったのだろう。
台座に精霊の剣をセットすることによって、最奥の部屋にあった閉ざされた扉──あれが開くようになっているのだ。
扉の先にあるものが何なのか、それは分からないが、あの遺跡に眠るものを暴くためには四本の精霊の剣が必要なのだということは分かった。
そして、此処には精霊の剣が三本──アラグが持つ二本と、僕が手に入れた一本がある。
後一本手に入れることができれば、あの遺跡の仕掛けを解くことができる。
長年眠りについていた謎を解けると分かれば、アラグは必ずこの謎解きに挑戦しようと言い出すはずだ。
となると……僕が持つ精霊の剣は、彼に託すのが正解だろうな。
僕は作業台から離れ、カウンターに置いてある金庫に向かった。
そこからしまっておいた精霊の剣を取り出して作業台に戻り、アラグの前にそれを差し出した。
「これ、必要なんだろ。あんたにやるよ」
「お前……一体何処で手に入れたんだ? これ」
「何処だっていいじゃないか」
僕が冒険者にダンジョン探索に引っ張り出されていることを知られたら、彼はまず間違いなく僕を精霊の剣探しの旅に連れて行こうとするはず。
だから、余計なことは知らせないに限る。平穏のために。
「頑張って遺跡の謎を解いてくれ。僕は此処で応援してるから」
しれっと言って、僕はポーション作りに使っているフラスコと三脚を作業台の上に準備した。
アラグは僕から受け取った精霊の剣をじっと見ていたが、ややあって言いづらそうに、口を開いた。
「……それなんだがな、シルカ」
精霊の剣を作業台に置いて、腰の袋から地図を引っ張り出す。
此処ら一帯を記した地図ではない。あれは……北の地方のものだ。
オロトワ山脈と記載された一帯に印が付いている。
そこを指差して、彼は言葉を続けた。
「オロトワ山脈。此処にある洞窟に、精霊の剣が眠ってるかもしれないという情報を手に入れたんだ」
「へぇ。もう有力情報を仕入れてるのか。凄いな」
他人事のように相槌を打つ僕。
薬草の束を解いて細かく刻み、フラスコに入れる。
「特別な力を持った物が眠ってる場所だからな、錬金術で特殊な封印が張られている可能性があるんだ」
「まあ、それはあるかもしれないな」
「万が一の可能性を考えて、お前にも一緒に洞窟探索に付いてきてもらいたいんだが」
「…………」
フラスコを三脚にセットして、僕は満面の笑みを浮かべてアラグの方を向いた。
「やだ」
「現地の冒険者仲間にも声を掛けて探索に協力してもらうことになってる。頼む、一緒に来てくれ」
「やだ」
「シルカ」
がしっ、とアラグの大きな手が僕の左肩を掴んだ。
強い力で握られて、僕の左腕がぷるぷると震えた。
「せっかくだから山登りを楽しもう。オロトワは景色がいいぞ、気分転換には最高だ」
「だからやだって言ってるだろー!」
僕の必死の訴えは、店内に反響して道行く人たちの注目を集めた。




