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第3話 ダンジョンへの誘い

 錬金術師は薬草や香草ハーブを煎じて怪我や病に効果のある薬品を作る薬師のように思われているが、それは大きな間違いである。

 錬金術師は鉱物から数多の道具を生み出し、魔物の素材から数多の武具を作り、宝石に特別な魔力を込めて魔術の祭器を作り出す、言わば創造のプロフェッショナルなのである。

 もちろん、世間一般のイメージ通りに薬草を煎じて怪我や病に効果のある薬品を作ったりもしている。錬金術は、生活の常に傍にある人間にとって最も身近な学問なのだ。

 このアメミヤのよろず屋には、僕が錬金術を駆使して作った様々な商品が置いてある。

 これらの商品を訪れる冒険者たちに売ったり、時には冒険者たちから素材を買ったり。

 そうして、僕は日々を過ごしていた。

 僕にとって、よろず屋経営は娯楽であり、生きがいでもあるのだ。

 何としても、この生活を守りたい。常にそう考えて、僕は店頭に立っていた。

 しかし、訪れる冒険者の中にはそれを良しと思わない人間がいるようで。

 彼らはあの手この手で僕を店から連れ出して、魔物が徘徊する危険な土地に連れていこうとするのである。

「なあ、シルカ。ダンジョンはわくわくがいっぱいあって楽しいぞ。絶対に損はしない。だから一緒にダンジョンに行こうぜ、な?」

 丁度今僕の目の前にいて説得を繰り返しているこの男のように。

「やだ」

 僕は香草ハーブを刻んで薬品調合用のフラスコに入れながら、そっけなく答えた。

 そんな僕と男を、横で椅子に座って頬杖をつきながらフラウが眺めている。

 この男は名をアラグ・ネブラスという。フラウと同じ冒険者で、僕の古い馴染みでもある。

 古い馴染みということは、フラウ同様に僕の過去のことを知っている人間でもあるということであって。

 そのことをネタに、事ある毎に僕の店に来ては、こうして僕をダンジョンに連れて行こうとしてくるのだ。

「なあ、頼むよ。シルカの協力がないと攻略できないダンジョンなんだよ」

「ふうん。それは御愁傷様」

 香草ハーブを入れたフラスコを、三脚にセットして火にかける。

 幾分もせずに、こぽこぽと中の薬品が音を立て始めた。

「今回のダンジョンは渓谷型でな。足場が悪い上に魔物が多く生息していて、高難易度に指定されてる場所なんだ」

 僕がポーション作りをしている横で、聞いてもいないのに勝手にダンジョンの説明を始めるアラグ。

「足場が崩落していたり、道がなかったり、通れなくなっている場所が結構あるんだ。そこで必要になるのがシルカが使う錬金術ってわけだ」

「錬金術で橋を架けたり道を作ったりするってわけだね」

 アラグの説明に解説を入れるフラウ。

 つまり、こういうことか。アラグたちだけだと地形上の問題で攻略できない場所が出てくるから、そこを僕の錬金術で解決しようという考えなんだな。

 彼らが僕を錬金術師として当てにしていることは理解できた。

 しかしだからといって、僕が彼らに協力するかといったら答えはノーだ。

 僕は、此処で大人しくよろず屋の店主として生活していたい。日々の暮らしに命の危険を伴うような刺激は求めていないのだ。

「このダンジョンは挑戦者が少ないということもあって手付かずの場所が多い。きっと見たこともないような発見があると俺は睨んでいる。……どうだ、わくわくしてこないか?」

「全然」

「シルカ、昔はどんな高難易度のダンジョンにも喜んで潜ってたじゃないか。あの頃の情熱は何処にやっちゃったんだよ?」

「昔は昔。今は今。今の僕はしがないよろず屋の店主なんだ。一般人を危なっかしい冒険の世界に引き込もうとするのはやめてくれないか」

「貴重な魔物の素材がいっぱい採れるかもしれないんだぞ。そのチャンスを棒に振るっていうのか?」

「生憎魔物の素材には困ってない。この店に来てくれる冒険者たちが持って来てくれてるからね」

「むう……」

 気難しげな顔をして沈黙するアラグ。

 ふっ、勝った。

 僕が勝利を確信したその時。

 アラグは溜め息をつくと、腰に下げていた袋から何かを取り出して作業台の上に置いた。

「仕方ない。ここは取引といこうじゃないか」

「……?」

 僕はフラスコに向けていた目をアラグが取り出した物の方へと向けた。

 それは、小さな瓶に入った白い砂だった。粒のひとつひとつが星の形をしているのが特徴で、ランプの光を反射してきらきらと輝いている。

 僕は目を見開いて、声を上げた。

「それって……まさか、星の砂!?」

「旅先で偶然手に入れたものだ。こいつが錬金術の貴重な素材として取引されていることは知っている」

 アラグは小瓶を指でつまみながら、不敵な笑みを浮かべて言った。

「ダンジョン攻略に協力してくれたら、こいつをお前にやる。どうだ?」

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