第26話 薬草泥棒
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アメミヤのよろず屋は、今日も訪れる客たちに笑顔で商品を売っている。
「シルカ、これを頼む」
作業台で商品作りをしている僕に声を掛けたのは、四十代くらいのアイパッチをした厳つい顔の男だった。
得物を持ってたら山賊の親分と見間違えられてもおかしくはない、髭が濃い茶色の髪の人物である。
彼は、この街の冒険者ギルドを経営しているギルドマスターのギルベルトさんだ。
彼が抱えているのは、木箱一杯に入ったポーションだった。
冒険者ギルドは、冒険者支援のために色々なことをやっている。薬品の提供もそのひとつで、彼は時々こうして冒険者たちに配るための薬品を買い付けに僕の店に訪れるのである。
僕は席を立って、ギルベルトさんが待つカウンターへと向かった。
「今日はまた随分と大量ですね」
「最近、ポーションの需要が多くてな。例の事件も多少は関係してると思うんだが、冒険者ギルドとしては在庫を切らすわけにはいかないからな」
ギルベルトさんから木箱を受け取りながら、僕は小首を傾げた。
「例の事件?」
「何だ、知らないのか?」
彼はズボンのポケットから財布を取り出しながら、言った。
「ポーションの材料になる薬草を栽培してる畑がここ最近になって立て続けに盗難の被害に遭っててな。そのせいで、世間じゃポーションの在庫が不足してるんだ」
「はあ……」
そんなことになってるんだ。全然知らなかった。
確かに最近になって、ポーションの売り上げが伸びたなぁとは思ってたけど。
「明確に盗難事件だって分かってるなら、街の警備隊が動いてくれるのでは?」
「一応動いてくれてはいるんだが、何せ被害に遭ってるのがただの薬草だからな……警備の連中も、本腰を入れて動いてくれてはいないんだよ」
……まあ、街の警備隊なんてそんなものだろうとは思うけど。
「冒険者ギルドで仕事にしてみては?」
「それはもう済ませてある。一応仕事を引き受けてくれる冒険者も見つかって、今日から任に当たってもらうことになっている」
流石街の味方の冒険者ギルド。仕事が早いね。
「それでな、シルカ。相談なんだが」
ギルベルトさんは真面目な面持ちで僕に言った。
「盗難対策として、畑に囲いを作ろうという話が持ち上がってるんだ。囲いの材料は用意したらしいんだが、何せ昨日今日の話でな。囲い作りの方にまで手が回っていない状況なんだよ」
畑に、囲い? それはまた随分と大掛かりな話だな。
あれか。動物避けの柵を作るみたいなものなのかな。
「お前さん、確か錬金術が使えたよな。ひとつ畑に行って、囲いを拵えてやってはくれんか? 人助けだと思って、力を貸してやってほしいんだ」
確かに、一瞬で何かを作ろうと思ったら錬金術が必要になるだろう。
畑の規模がどのくらいのものなのかは知らないが、人力で囲いを作ろうとしたら莫大な労力と時間が必要になる。畑の所有者からしたら、時間がかかるのはなるべく避けたいことのはずだ。
タダ働きではあるが、冒険者ギルドには普段から世話になってるし、店としては薬草が手に入らなくなるのは困ることではあるし……これは魔物討伐みたいな危ない話ではないから、引き受けてもいいだろう。
僕は頷いた。
「分かりました。引き受けましょう」
「そうか、やってくれるか! 有難い」
ギルベルトさんは嬉しそうに笑って、腰のポケットから小さく折り畳まれた羊皮紙を取り出した。
羊皮紙を受け取って広げると、そこには地図が書かれていた。
隅の方に、丸く印が付けられた箇所がある。
「それが地図だ。畑の所有者には話を通しておくから、宜しく頼む」
「はい」
僕は受け取った地図をポケットにしまって、ポーションの入った木箱をカウンターの上に置いた。
そうだ、会計だったなとギルベルトさんが木箱をカウンターから床に下ろして、問う。
「全部で幾らになる?」
「二百四十ダイルです」
「二百四十だな。ちょっと待っててくれ」
畑の位置は此処から近いみたいだし、午後になったら店を閉めて行ってみよう。
それにしても……薬草泥棒か。悪い奴というのはいなくならないものなんだな。




