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何もかも普通なあたしが、アイドルグループのリーダーを務めます。 作者:ちー助
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あたしはリーダー

広いダンススタジオに残っているのは、
あたしとマネージャーの宮原さんだけだった。
電気が明々とついているが、
外はもう真っ暗だ。
「はぁっ……はぁっ……」
スタジオの真ん中で、
あたしは鏡を前にして踊っていた。
何度繰り返しても、
何度動いても、
どうしても思うようにいかない。
イメージは頭の中にあるのに、
体がついていかない。

-キュッ、キュッ。
スタジオの床を、
スポーツ用の靴で強く踏んで跳ねる音が響く。
「っっ……ダメ、全然ダメ!!」
踊るのを止めた鏡にうつるあたしは、
ものすごく暗い表情をしていた。
「踊らないと……誰よりも早く、上手く習得して」
グッと下を向いて呟く。
そうよ。
何てったってあたしはリーダーなんだから。
「楢崎、大丈夫?そろそろ上がった方が良くない?もう5時間は踊ってるよ」
後ろから声がかかる。
あたしが振り返ると、
宮原さんが心配そうにあたしを見ていた。
時計を確認すると、もう22時を過ぎている。
「あ……そうですね。すみません、遅くなって」
「私は良いんだけどさ……」
腕を軽く組んで、
宮原さんは眉をハの字にする。

シンデレラガールズ。
平均年齢16歳、
7人組アイドル……の卵。
結成してから1年が過ぎたが、
特別注目されてはいない。
そしてあたしはそのグループのリーダー。
楢崎美麗生(ならざきみれい)
美しく麗しく生きて欲しいから、
美麗生。
今の子の名前に多い、ちょっとした当て字。
そして、今年で18歳の高校3年生。
進学か、
芸能活動1本で行くのか。
考えなければいけない時期に突入する。

加えて、
他のアーティストさんのカバーしかしていなかったあたし達が、
来年の冬に、
デビューシングルをリリースすることになった。
つまり、
新しい曲とダンスを覚えなければいけなくなったということ。
ダンスが苦手って訳じゃない。
むしろ踊ることは大好き。
選べるのならあたしは歌よりダンスを選ぶ。

ただ、タイミングが悪い。
勉強に歌にダンスに……。
やらなければいけないこと、
考えなければいけないことが多すぎる。
人生の決断。
大きな決断だと思う。
大学に進学すれば、
芸能活動が上手くいかなかった場合に、
焦らずに済む。
でも、
そんな中途半端な気持ちでアイドルを続けて良いのかな。
リーダーのあたしがフラフラしてたら、
上手く行くものも行かない気がする。

「今日は遅いから、タクシーで一緒に帰ろうか」
ポンッと肩に宮原さんの手が置かれた。
人の体温を感じる。
芸能界って物凄く厳しい所だと構えていたし、
実際厳しい人が多かった。
でも、宮原さんだけは違った。
「すみません。ありがとうございます」
あたしは咄嗟に笑顔を作る。
宮原さんも笑顔を返してくれた。
汗をタオルで拭って、
スポーツドリンクを口に含んだ。
熱を持った体に染み渡る。

***

私には分かっていた。
楢崎の気持ちが。
というより、
彼女の体から切迫感と責任感と焦りが滲み出ていて、
嫌でも私にヒシヒシと伝わってきた。
そんな中で、
彼女は体をめいいっぱい動かして踊っている。
「はぁっ……はぁっ……」
ダンスが下手な訳じゃない。
かといって、上手な訳でもない。
彼女がこのシンデレラガールズに入れたのは、
そのダンスに独特な雰囲気を持っていたからだ。

「…………」
それなのに、
今目の前で練習する彼女からは、何も感じられない。
あんなに見る人に訴えかけるようなダンスを踊っていたのに、
それが全くなくなってしまった。
本人は分かっていないんだろう。
だが、この1年ずっと見てきた私には、
その違いは一目瞭然だった。

「楢崎、大丈夫?もう上がった方が良くない?もう5時間は踊ってるよ」
ここで止めるのは、
彼女にとって良いことなのか、
悪いことなのか。
気が済むまで踊らせてあげたいという気持ちはある。
でも、もう夜遅い。
私はマネージャーとして、
彼女のブレーキのきかない強すぎる気持ちにストップをかけた。

シンデレラガールズ。
7人組の新しいアイドル集団。
私が初めて正マネージャーとして担当する子達。
7人とも共通しているのが、
シンデレラガールズが初めての芸能活動だということ。
芸能界に慣れていない分、
普通の同世代の子達とあまり変わりがない。
等身大のアイドルとして売り出したいと思っている。
この1年は、
歌やダンスの練習のために他のアーティストのカバーをさせてきた。
元から歌やダンスが好きな子達だから、
技術面も1年でグッと成長した。
この冬、
その成長を形にさせてあげたいとデビューシングルのリリースを決めた。

……それが、
もしかしたら7人を、
バラバラにしてしまったのかもしれない。

スポーツドリンクを飲む楢崎の姿を、
ジッと見つめていた。
まだ彼女には言えていないことがある。
いつかは言わないといけない。
でも、今言って大丈夫なのだろうか。
鏡の前の自分を睨み付けながら、
必死に踊る姿を見て、
今日伝えるのは止めようと思った。
彼女をリーダーに決めたのは私。
最年長だからという安易な理由だった。
今思えば、
私の判断は間違っていたのかもしれない。
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