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#06:闊達に(五回戦)


―ああーっとおっ! ガンフどうしたんだぁっ? その雄々しき怪鳥トゥーカンのマスクから血が流れ出したぞぉーっ! 相手選手っ!! キャノナーヴァイ! 嬉々としてガンフの頭部に上からの打撃を加え続けるーっ! ああっ、その手に握られた物はぁぁっつ!? 鈍く光る! これは栓抜き……でしょうか! 金属の栓抜きで殴りつけている! どこに隠し持っていた、その凶器をぉぉっ!! 反則ですっ、反則になりますっ、ああーっ、しかし、レフェリー止めに入るがキャノナーバイ選手に突き飛ばされたーっ!! リング上は完全に混沌としておりますっ!! もう強制的に止めるしかありませんっ! 警備も構わないのでリングに入ってください……いや待った! ガンフだ!! ガンフ一瞬の隙を突き、キャノナーバイの手首を掴んだ! そのままひらりと両脚を相手の腕に巻きつけ! そのまま体を反ってキャノナーバイの腕よ伸び切れと引っ張るーっ!! これは堪らないっ!! キャノナーバイ降伏の意だーっ!! ガンフ堂々の五連勝っ………………


 次の日も早朝から呼び出され、僕は言いつけ通りに着替えやら何やらを擦り切れたリュックに詰めて、井の頭公園へ向かった。


「お、てっきり逃げ出されちまうかと思ってたが、よく来た」


 昨日と同じく七井橋のほとりでオオハシさんは待っていてくれた。黒い野球帽を目深に被っているのは同じだけど、今日はジャージも真っ黒で全身黒ずくめだ。僕はジャージは洗ってしまったのでTシャツ短パンの軽装で来た。どうせすぐ汗だくになるし、今日は着替えも持ってるわけだしこれでいい。


「じゃ、軽く流すぞ」


 ぽん、とベンチから跳ねるように立ち上がると、オオハシさんはまたしても年相応には思えない(多分60近いのでは?)軽やかなフォームで走り始める。僕もその辺にリュックをうっちゃると、全身、特に脚にびしりと筋肉痛が走るのも構わず、その後を懸命に追いかけた。


「けひぃぃぃ、こひぃぃぃ」


 奇妙な呼吸音が漏れ出てしまうのは前と同じだけど、僕は何となく、体を動かすことの楽しさを実感できるようになってきている。


「ほらほら、もっとリズミカルに跳ぶんだぁ、トトトトトトト、だ」


 お次は縄跳び。小学校以来だけど、全然うまく跳べなぁぁぁい。回して、飛んで、回して、飛んで、といちいち意識しながらやってるから、不自然さ極まりない。


「せめてトン、トン、トンくらいの気持ちでいこうやぁ、ほーら、トン、トン、トン」


 壊れたおもちゃのような動きの僕を叱咤するオオハシさんだが、優しい眼差しのその顔はずっと笑っている。早朝ランナー達の奇異や嘲りの視線をものともせず、僕は必死で縄と格闘した。


「か、かひぃぃぃぃ……」


 その後もスクワットやらの筋トレと柔軟体操をみっちり2時間くらいやって、しばしの休憩の後、いよいよ「格闘」をやってみるか、ということになった。この時点でフラフラだけど、何か新しいことを教えてもらえるのは嬉しい。


「まずは拳のつくり方。親指以外の4本の指を、小指から順々に指先を指の付け根にひっつけるようにして固く小さく、四角く丸め込む感じだ。親指も畳んでそれに添えろ。よーし、思ってた以上にまんまるだが、様になってきたじゃねえか。さあそいつで、俺の手のひらに打ち込んで来い」


 ええー、言われるがままに拳固にした僕だけど、今まで人をぶったことなんて無いよ。


「……」


 漫画の格闘シーンを思い浮かべながら、えいと握られた拳を突き出す。バランス崩してつんのめってしまったけど、僕の胸くらいの高さに掲げられたオオハシさんの手のひらに何とか当てることが出来た。


「!!」


 ペシィィンと少し間の抜けた音が出たけど、オオハシさんは自分の肩の後ろまで持っていかれた自分の左手を見やり、おお、と声を上げた。


「……なるほど? よしよし、じゃあグーの次はパーだ。手を広げたまま指だけ畳み込め。手のひらは腕と直角に保つ、そおーだ、で、今度は俺の拳に当てて来い。脇締めてな」


 俄然やる気になったみたいのオオハシさんの指示通り、今度は指を曲げたパーを形作ると、僕はそのまま、目の前に突き出されたグーに向かって腕を突き出してみる。


「!!」

 パンっと今度は小気味いい音が出た。


「ふんふん、よし! 朝練は終了だ。荷物担いで付いて来いっ! 今日は老舗の絶品天ぷらを食わしてやる」


 一瞬、表情が変わったオオハシさんだが、すぐ何回か頷いて見せると、身を翻して自分の自転車の所まで駆け出した。天ぷらは物凄い惹かれるものあるけど、まだまだ練習は終わりじゃなさそうだ。筋肉がガチガチの僕は変なガニ股になりながらも、その後を追っかけるのであった。


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