表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノン(伊咲貴音音楽教室)  作者: FRIDAY
参 告げる想いに響く音
PR
57/57

告げる想いに響く音

 気が付けば、演奏は終わっていた。

 けれどふたりとも、なにも言わない。鍵盤に手を置いたまま、わずかに残る余韻を聴いている。

 しかしそれも、やがて――伊咲さんの左手が、そっと俺の右手に重なった。


「……約束、忘れてたらどうしようって、実はちょっと不安だったの」

 ぽつり、と伊咲さんは言った。まさか。


「忘れませんよ」

「うん。信じてた。けど……全部私の妄想だったらどうしようとかも、思ってた」

 それは、俺にも覚えがある。全部現実じゃなかったんじゃないかって、恐怖したことがあった。


 でも、そんなことはないのだ。

 全てが、現実で。

「俺はここにいますよ」

「うん――私も、ここにいる」


 俺の手に重ねられた伊咲さんの手を、俺はそっと握る。

 その手は細くて、温かい。


「実はね。私も――あの頃から、菅生くんが好きだったんだよ」

 不意の告白に、俺は今度は本気で驚いた。


「え、そうだったんですか」

 俺の驚きに、伊咲さんは穏やかに頷く。


「でも、いろいろと考え過ぎちゃって、言えないで……だから、菅生くんが告白してくれたとき、凄く嬉しかったんだよ」

 きゅ、と絡ませた手指を握る。遠慮がちで、控えめに。


「もう、不安に思わなくてもいいんだよね」

「はい」

 俺はちゃんと頷いた。伊咲さんに、そして自分自身に。


 もうなにも、怖くない。

 今までは、それぞれに努力してきた。伊咲さんは自分の夢を叶えるため。俺は伊咲さんの背を追って。

 今はまだ、また遠く離れてしまうけれども。

「ずっと一緒――です」

「うん」


 握る手に、握り返してくれる力がある。

 それがこんなにも温かく、愛おしい。


 だから。


 これからは、一緒に頑張っていこう。

 それぞれの道であっても、横に並んで歩いていこう。

 一緒に音を響かせよう。

 繋いだ手は、温かいのだから。


 ポーン、と鍵盤を鳴らした。ふふ、と笑って、伊咲さんも一音を鳴らす。

 奏でる心に、ピアノはちゃんと応えてくれる。

 俺は伊咲さんと、響かせ続けていく。

 いつまでも、ずっと。


 音楽を。



ここまでお読みくださり、有り難うございました。

またどこかで機会の御座いましたら、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ